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  緋色の眼 作者:ジョン
後、三話です。
此処までこれたのも皆さんのお陰です。
本当にありがとうございました。
【第三部】十四話:最後の戦いが始まり







 気が狂いそうだった。
 コアと接続する事──それは太古より日本に集まった負の力を一手に手に入れる事と同義。
 日本という国は、愚かで、大変凶暴な人間が住んでいる国。
 切腹などはその象徴たる行為の一つ。
 潔しといえば、そうではあるが自分の腹を切るとは大変野蛮な行為。

 そんな国の悪意は尋常ではなかった。
 コア生成によって不純物が取り除かれた純粋な負の力は余す所なく自分を侵食していく。
 しかし、自分達には全てを投げ出しても叶えたい願いが在った。

 その思いを忘れずに、自分はついにその力を制御した。
 今にも爆発してしまいそうな、自分。
 それを制し、根源と繋がれ何十倍にも増幅された楽園の力を発動させた。

(世界よ、俺達の望むべくカタチへとなれっ!)

 自分の式神の力が近畿から飛び出し、数百キロにも及ぶ範囲を作り上げた。
 しかし、これでも日本全土をまだ楽園で囲えていないのが唯一の不満。
 そして刹那は日本の主要都市の至る所に悪鬼を出現させた。

(ハハハ・・・ハハハハハハハハッ)

 悪鬼に追いかけられ、絶望に染まった人間の顔が見えた。
 そう──その顔だ。 自分達があの時していた表情を人間がしている。
 腹の底から笑いがこみ上げるが、刹那はそれを制した。

(さて、こっちの始末をしないとな───)

 刹那は目を開いた。








 刹那が目を開くと同時に、蒼威の大我が刹那へと迫り攻撃をしかけようとする。
 大我達は鎧を着た騎士の姿へと成り、一斉に刹那へと襲い掛かった。

「・・・【重場】」

 刹那が手をかざす。
 それだけで騎士達はおろか、蒼威と由加と神璽までもが吹き飛ばされた。
 一瞬で壁に叩き付けられ、悶絶する。

「フン・・・」

 刹那はそれを一瞥すると、まず瞬の下へと向かった。
 血塗れで、もう死んでいるかのように動かない瞬に刹那は声をかけた。

「置いていかないさ・・・一緒に行こう」

「ぁ・・・・・・に・・」

 掠れた声で瞬が言うと、刹那はにっこりと笑って瞬の体に触れ、言った。

「永遠に共に在ろう、瞬」

 瞬の体を光が包み、瞬の体の力が完全に抜けた。
 そして刹那の近くに浮いていたコアが一瞬ドクンッと鼓動する様に跳ねる。
 刹那はそれを満足そうに見ると彼方の下へと歩く。

「兄様・・・」

「お前も、来るよな?」

「は・・・ぃ・・・でも・・・」

「どうした?」

「此方も・・・・・・出来れ・・・ば一緒に・・・居たかった・・・」

「・・・・・・あいつは、優しすぎたんだ。 俺達との約束を破ってまでやりたくなかったんだよな」

「で・・・も・・・きょうだ・・・い・・・・・・だか、ら」

「わかってるよ・・・でも道を違えちまったんだ・・・それはあいつの死への侮辱だぞ」

「す・・・い・・・ま・・・」

「もう喋るな・・・今、楽にしてやる」

 刹那は瞬と同じく、体に触れると一言。

「永遠に共に在ろう、彼方」

 そして瞬と同じ現象が起き、もう一度コアが跳ねる。
 楽園の力の本質は展開空間内での世界改変、大体の事は自分の思うがままにできる。
 その力を使い、刹那は死ぬ寸前だった瞬と彼方の意志だけをコアへと移した。
 
(これでもうこいつらは・・・楽園無しじゃ生きられないけどな・・・)

 刹那の楽園の唯一の欠点。それは楽園を閉じると全ての現象が元に戻ってしまう事。
 この展開した楽園が万一、途切れる事があればもう肉体が生きてない瞬と彼方の意思はこの世から消えてしまうのである。
 
(まぁ、後で運命達に連絡して新しい体を作る方法を探してもらうか・・・時間はたっぷりある)
 
 楽園を展開し、戦闘を続けるのは少し辛い。
 しかしそれを無視して刹那は蒼威達の方を向く。
  
「さて、お前らまだやるか?」

 刹那は満身創痍な蒼威達を見た。
 すると三人は立ち上がり、再び構える。

「まだやるってか・・・・・【炎帝】」

 刹那の周囲に炎が舞い起こる。
 そして荒れ狂う炎が、蒼威達に向かうと、入り口付近から闇色の炎が放たれた。
 拮抗しあう赤い炎と黒い炎──勝ったのは黒い炎。
 黒炎は刹那の赤い炎を喰い威力を強めて刹那へと襲い掛かる。

「【不可侵】」

 刹那の寸前で炎が来た停止し、炎は掻き消える。
 刹那は炎の方向を睨む──そこには、罪歌と正宗と狂が立っていた。
 すると、正宗が言う。

「悪いね、遅くなった」

「おいおい、正宗ボロボロじゃねーか・・・」

「フン、名誉の負傷って奴だよ」

 包帯だらけの体を叩きながら正宗が言う。
 そして狂が正宗を庇う様に一歩前に立ち、刹那へと向かって風の刃を放った。

「じゃあ・・・行こうかっ! 風雷牙」

 狂の風に寄り添うようにして正宗の雷の斬撃が刹那へと放たれる。
 刹那はそれを軽く中に跳んでかわす。

「こっち」

「俺達の事忘れてねーか?」

 闇の鎧を纏った由加と神璽が刹那へと突っ込む。
 神璽の鎌、由加の斧が閃き刹那を斬断しようとするが、寸前のところで刹那はその攻撃を避けた。
 そして地面に立つ───。

「【天照】」

 無数の熱線が刹那から照射された。
 ──ちょうどその時、天井のガラスを突き破って二つの影が降りたつ。
 そして砕け散り、落下するだけとなったガラスはそのまま上空へと押しやられた。

『天照は、嘘』

 言葉が空間に響き渡り、無数にあった熱線が全て掻き消えた。
 そこに立っていたのは、命と時雨の二人。
 
「遅くなりました、外からの報告によると近畿周辺の主要都市に中型と大型悪鬼が発生しています」

 何かを堪えるように淡々と報告をする時雨。
 すると正宗が言う。

「何処の家が出ている?」

「有名所は四条、烏丸、猪瀬、浅葱、牧島、明神ですね。後は細かいのが少々、フリーも数人いるそうです」

「わかった、御苦労」

「はい」

 報告を終えると、時雨は最後の刀を引き抜き刹那を見た。
 そして命は罪歌達の下へと駆け寄る。

「剣ちゃん・・・死んじゃったみたい・・・」

 泣き顔で命は言う。
 そんな命をそっと罪歌は抱きしめた。

「わかった・・・でも貴女だけでも生きててよかった」

「罪ちゃん・・・」

 命は罪歌から離れると、刹那を睨む。
 刹那は周囲に気を配りつつも、命を一番警戒しているようである。
 自分の力を無効化できる力、それが何よりも致命的。

「フン・・・いくら数が多くたってね、結局は質だよ!」

 吼える刹那。
 すると刹那の体がどんどん変質し半悪鬼の姿となる。
 狂化と呼ばれる彼らの力──禍々しい気が周囲に溢れだした。

「【森羅万象】」

 刹那の声と共に、力が解き放たれ四大の竜巻が周囲に渦巻く。
 壊す、燃やす、凍らす、砕く、焼く、切り裂く、あらゆる攻撃が全員に襲い掛かった。

『私に触れるな』

 命の周囲に迫った力は全て効力を失い消え去る。
 
「暁闇炎帝・・・緋澄」

 闇色の炎の巨人が森羅万象の力を焼き尽くしていく。
 神璽と由加はその攻撃を悪鬼を召還し、盾とする事で攻撃を防いでいた。
 
「潰れろ!」

 時雨が森羅万象が発動している空間を高重力空間にして空間ごと潰す。
 そして──森羅万象の威力が弱まると蒼威と正宗が走り出した。

「本気で、行くぞ」

「ああ、わかった」

 二人はそう言うと、沈黙。
 意識を集中させ、それぞれの緋眼の昇華型、終式と墜式を発動させた。
 二人の目が通常の緋眼よりもやや赤く染まる───。 

「な・・・っ」

 猛スピードで迫る蒼威と正宗、反応が一瞬遅れた刹那は戸惑ったまま動いていない。
 そして蒼威の打撃と十にもなる大我の斬撃が刹那を切り裂き、最後に上空へと押し上げた。
 既に上に跳んでいた正宗は上空で刹那を補足すると、二神風雷で更に切り裂く。
 しかし刹那は終式の速さに反応し、正宗に向かって鋭い爪を向ける。

(お前らが──あの子達の人生を狂わせたんだぞ)

 怒りが溢れ、更に体の底から力が湧く。
 正宗は刹那の爪を避け、そのまま両腕を切り裂いて、地面へと叩き付ける。
 そして、正宗は地面に降り立つと墜式を解いた。

「・・・ヒヒッ」
 
 ────笑い声。
 叩き付けた衝撃によって舞い散った粉塵の中から確かに聞こえた。
 そして風が吹き、粉塵が吹き飛ばされると血塗れの刹那がたっている。

「ヒハッ・・・ヒハハハハハッ!」

 その笑い声と共に、刹那の傷口がどんどんと塞がっていった。
 そして刹那は言った。

「もう、手加減は無しだ・・・全力で───殺す」

 刹那の周囲に大量の悪鬼が召還される。
 すると刹那は自分の肉体を爪で切り裂き、開いた傷口にコアを埋め込んだ。
 生々しい音を立て、刹那の体と合体していくコア。
 そして意識を集中させ、いつも通りに自分のコアを繋いで力を発揮させる。

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ」

 刹那の体から血が噴出す。
 その体にさっき召還した大量の悪鬼が纏わり付き肉と化す。
 徐々に、徐々に姿を大きくさせていく刹那。

「な・・・」

「何あれ・・・」

 誰も動けない。
 その姿のおぞましさに誰もが凍り付いたように動けなかった。
 そして刹那の変化が終わる。

「ハアアアアアアアアアアアアアアアアアッ」

 闇色の体。
 巨大な禍々しい形状の翼。
 目が爛々と光り、周囲に向けられていた。
 まさに───先達達が思い描いた悪魔と言えるべき生物がそこにいる。

「【驟雨魔弾】【万事残壊】」

 ───そう呟く。
 巨大化した刹那の右腕に巨大な拳銃が生え、左手には巨大な刃が生える。
 しかし、力にまだ慣れていないようで刹那は激しく叫びながら頭を壁にぶつけている。
 そのあまりにもありえない光景に時雨は息を呑んで呟く。

「何故、三つの式神が・・・」

 その問いに答えたのは蒼威。
 蒼威自身もまだよくわかっていないようで、腕を組みながら、そして考えながら喋りだす。

「あのコアの中に、神代瞬、神代彼方が意思の部分だけを移されたそうだ。
まぁ・・・奴らがまだ根源と繋がって式神を発動させていられるってことだろうな」

「厄介だね・・・遠距離の驟雨魔弾、近距離の万事残壊、そして万能の楽園」

 正宗が苦笑いしながら言った。
 それでもまだその目は諦めてはいない、刹那をじっと観察し弱点を探っている、
 すると罪歌が命に問う。

「命の力で無効化できない?」

「んー・・・私の言霊と楽園じゃ、平常時じゃ力の差は無いけど・・・多分今は向こうの方が強いよ。
 結局、私達のような力の強さっていうのは精神力と世界を変えてやるーみたいな意思だしね」

「命、お前大丈夫か?」

「何が? 私は全然余裕でー・・・痛っ」

「命!」

 狂を呆れた目で見ていた命が突然倒れた。
 それを見た狂は、風で命の体をすくってやり、再び立たせる。
 命の顔はよくよく見るとすでに蒼白の域を超え、危険な色になっていた。

「ごめん・・・力使いすぎちゃった・・・」

「気にするな・・・お前は少し回復に努めろ」

「そう言ってて・・・剣ちゃんは死んじゃった・・・」

「命・・・」

「悔しいよ・・・これじゃあ剣ちゃんに顔向けできないよ・・・」

「・・・姉ちゃん、命頼むわ」

「うん」

 命を罪歌に任せて狂は蒼威達の下へと歩いた。
 そして相談している時雨、正宗、蒼威、神璽、由加の所へ近づくと声をかける。

「そっちは何か策あんのか?」

「そっちの天美命は・・・・・・無理そうだね」

「おう、これ以上力を使うとアイツがくたばっちまう」

「了解・・・後は陸人さんに森羅さん、それと蒼二と遥緋が来ていないと」

「まぁ、あの馬鹿ニワトリは生きているだろうな、しぶといし」

「そこは心から同感できるな、しぶといし」

「ゴキブリみたいな言い方ですね・・・」

 容赦のない正宗と蒼威の物言いをジトッとした目で見る時雨。
 二人は別段気にした風もなく、時雨を黙殺する。
 そして神璽が言った。

「唯一の弱点は、知能がやや低下していることですね」

「そう、まだ暴れてる」

 由加の言葉を聞くと、全員が刹那を見る。
 数十メートル離れた場所では巨大化した刹那がまだ暴れていた。
 しかし、さっきよりも段々と落ち着いてきているように見える点から、復活も近いであろう。
 正宗はそう予測すると、言う。

「仕方ない、最後の手段だ」



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