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  緋色の眼 作者:ジョン
次回は、由加と神璽です。
残す所この作品も、後数話です。
読者数も6000人突破しました。
皆さん、ありがとうございます。
【第三部】十二話:死に行く者が居る
神代家の正門。
 剣菱と命と時雨は半数以上の悪鬼を駆逐したが、まだまだ悪鬼の数は多い。
 疲労が溜まり、終わる事のない猛攻に三人の精神はかなり疲弊していた。

「命、下がれ・・・力を使いすぎだ」

 剣菱は天照を放ちながら命に言う。
 すると命は青白い顔のまま、無理やり笑うと剣菱に言う。

「ん・・・まだ大丈夫だよ・・・」

 命の力はほとんど世界改変に近い。
 それだけ強い力ならば、それに見合った代償が自分に跳ね返ってくるのが当然。
 そして命はさっきからほとんど言葉を発していない、だからこその剣菱の発言であった。

「駄目だ」
 
 剣菱は命を無理矢理座らせると、牽制として天照を再び照射する。
 すると命が力のない笑顔で言った。

「えへへ・・・剣ちゃんってお兄ちゃんみたい」

 ───ドクンッ

 剣兄様・・・助けて────────

 思い出すのは妹の最後の人間としての言葉。 
 その後、妹は八神正宗によって首を刎ねられてしまう。
 剣菱はその光景を震えながら見ていた。 
 あの時ほど力のない自分を呪ったことはない。

(椿も生きていたらこのぐらいか・・・)

 亡き妹を思い返しつつ、剣菱は命の頭を撫でた。
 そして腰から刀身のない剣を引き抜き、天照の力を使って周囲の悪鬼をなぎ払う。
 その刀身部分から飛びだすのは熱線の刃。
 天照を放射せずに、その場のみの顕現に留める剣菱が昇華させた力。

「うおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 吼えた。心の底から吼えた。
 大気がビリビリと振動し、怯む悪鬼を片っ端から切り捨てていく。
 ────考えるな、ただ殺せ。
 そう自分に言い聞かせ、剣菱は悪鬼の群れを切り裂く。

「剣菱!」

 重力を無視した跳躍で空を飛びつつ、時雨が怒鳴った。
 そして時雨の意図に気づいた剣菱は緋眼を発動させ、その場から離れた。

「潰れろっ!」

 時雨が地面に向かって手をかざす。
 次の瞬間、時雨の手から下一帯に数十倍の重力がかかり、潰される悪鬼達。
 数瞬後には、ほとんど限界を留めておらず、やがて塵となって消えた。

「ふぅ・・・」

「ふむ・・・」

 息をつく二人。
 悪鬼の姿はもう見えない。
 どうやらさっきの集団で最後のようであった。

「さて、僕らも中に行こうか」

「共闘はこれで終わりだ、この先貴様が死にそうになっても我は見捨てるからな」

「そうか、でも僕は助けるよ」

「ぬ・・・?」

「もう、誰も死なせたくないんだ・・・」

「偽善だな、ただの自己満足にしかすぎん」

「それでもいいさ、生きてる喜びって奴をわかってもらえればね」

 そう言うと時雨は持っていた刀を鞘に戻し歩き出す。
 剣菱も一歩遅れて歩き出し、やがて二人は命の下へと辿り着く。
 そして時雨は命に手を差し出した。

「あ・・・どうも」

 時雨の手を借りて命は立ち上がる。
 
「命、大丈夫か?」

「うん・・・休んだら元気になったよ」

「そうか」

 剣菱は笑った。
 そして時雨の視線に気づくと、咳払いをし元の表情へと戻る。
 すると───

「剣ちゃん! 時雨さん! 来るよっ!」

 命が突然怒鳴る。
 時雨と剣菱は再び式神を顕現させ、いつでも対応できるように構えた。
 しばしの、静寂。

「右っ!

 時雨と剣菱は一瞬目を合わせると右を向く。
 夜の森の中に、何かが居た。
 そして濃密な殺意が周囲を埋め尽くし、辺りに緊張感が走る。

「アレは──」

 闇の中に巨大な黒と白の影。
 ライオンのような顔をした人間型の悪鬼。
 黒い体に纏わりつくようにして白い骨のような鎧を身に着けていた。

「あんな悪鬼見たことないぞ・・・」

「我もだ」

「私も・・・アレは見たことない・・・・」

 三人に見つめられて悪鬼──フールは吼えた。
 声にならない叫びが大気を振動させ、衝撃波を巻き起こす。

「な・・・なんて」

 見た事ない悪鬼に戸惑う三人。
 そして──フールが走る。

「───────ッ!」

 爪を振りかざし、時雨に襲い掛かった。
 とっさに刀を引き抜き、爪をガードするが数瞬後には刀にヒビが入り折れてしまった。
 時雨は身を引き、後退すると重場を発動させた。

「チッ・・・」

 高重力場がフールに向かって放たれる。
 しかし、フールは驚異的な速さでそれを避けると今度は命に襲い掛かった。
 命は一瞬目を閉じ一言。

『私に近づくなっ!』

 命の前に見えない障壁が出現し、フールはそれ以上進めない。
 更に顔が青くなる命、ふらりとよろけたが何とか踏ん張る。

「我に任せろ」

 剣菱の周囲から七発の天照が照射される。
 フールは爪を振って身を焼きつつも、天照を何とか耐え切った。

「行けるぞ、真砂剣菱! 合わせろ」

「・・・うむっ!」

 時雨が無数の圧縮した高重力空間をフールに向かって放つ。
 フールの足や腕がひしゃげ、丸まり、押しつぶされていく。
 そして剣菱がフールを囲うように、天照を照射。
 上下、左右、更には斜めからも天照の熱線がフールを貫き、焼き尽くす。

「ふぅ・・・やったか?」

「アレだけの攻撃をくらったんだ、立ち上がれまい」

「うん、じゃあ中に入ろう」

 命の言葉に、時雨と剣菱は頷くと正門へと向かう。
 まず時雨が門をくぐって中へと入り、敷地内に侵入する。
 そして命と剣菱が門をくぐろうとした瞬間、

「──────!」

 遠くで倒れていたはずのフールが吼えた。
 唯一無事出あった顔が醜悪に歪み、ただひたすらに吼える。
 そして、再び至る所に悪鬼が出現した。

「なっ・・・」

 敷地内に居た時雨の眼前にも悪鬼が出現する。
 剣菱は門の扉を蹴って閉じると、時雨へと怒鳴った。

「後ろを取られたくない! 一度閉める」

「ああ・・・」

 門の向こうから時雨の声が聞こえた。
 そして剣菱は命の顔色を見ると、しばらく戦闘は無理だという事に気づく。

「命、我が絶対に守ってやる。 だからここで体を休ませろ」

「大丈夫・・・私はまだ・・・」

「お前の力は我なんかが敵わないほどに絶大だ。
それが後々に仲間達への希望になる。だから───ここは我に任せて欲しい」

「・・・わかった、ごめん・・・本当にごめん」

 命は自分の弱さに泣きじゃくる。
 そんな命の頭を撫でてやると、表情を引き締めて言った。
 見ているのは、多数の悪鬼の中で小さく触手を蠢かしている悪鬼。
 自分の一族に寄生し、剣菱から全てを奪った寄生型悪鬼。

「それに──我にはこいつらに借りがあるのでなっ!」

 その声と共に、剣菱の周囲から天照が放たれた。
 強力な熱線は次々に悪鬼を貫き、燃やし尽くす。
 そして剣菱は遅い来る悪鬼達を、天照の刃で次々に切り裂いた。




 ───お前、寄生されてなかったのか───


 ───すまない、どうしても緋眼使いの悪鬼を増やすわけにはいかなかった───


 ───憎んでくれて構わないよ・・・それが僕らの業だから───

 

              殺された家族達。
              自分はただ泣きじゃくって世界を呪った。  
              そして、裏社会で生きている内に奴と出会った。

 

 ───あぁ? 邪魔するならテメーも殺す───


 ───俺ぁ・・・妹に見捨てられたんだ。そして悪鬼への餌にされた───


 ───改めて名乗るぜっ! 俺は御崎暁って言うんだ、よろしくな───



              目的を同じくする仲間。
              たまに復讐を忘れ、こんな日々もいいと思った。
              そして、彼女達と出会った。



 ───私は秋月罪歌、こっちは弟の狂───


 ───名前は死罪六神、貴方と同じ緋眼使いが私を含め三人居るわ───

 
 ───お前が真砂の長男か、俺の弟の正宗に家族を殺されたらしいじゃねえか───



               死罪六神、それは自分と同じ者の集まり。
               復讐、それが自分達の全て。
               それでもよかった、もう一人じゃない。




「───うおおおおおおおおおおっ!」

 大半の悪鬼を斬り終える。
 しかし、心が全く晴れない、どんなに殺してももうあの頃には戻れないから──

「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」

 息を、つく。
 そして前を見据えると、フールと目が合った。
 二人の視線が交錯し合い、先に動いたのはフール。

「──────ッ!」

 更に吼える。
 すると剣菱が斬った塵に成る前の悪鬼の残骸と残りの悪鬼がフールへと吸い寄せられていく。
 肉と肉が密着し合い、にちゃにちゃと嫌な音を立てる。

「再生だと・・・」

 フールの体がだんだんと元に戻り、やがて立ち上がった。
 ──否、さっきよりもタチが悪くなっている。
 四足歩行になり、フールは全く違う悪鬼へと変貌していた。

「───────っぁ!」

 咆哮し、剣菱の隣を猛スピードで駆けて行く。
 
「しまった!」

 フールの狙いは万全な状態でない命。
 どうやら相当知能が高いらしく、弱いものから殺していく算段のようである。
 剣菱は緋眼を発動させ、懐から出した小瓶の液体を飲み干す。

 ────ドクンッ
 いつもの感覚、体が一瞬熱くなり、やがて氷のように冷えていった。
 思考も冷静そのもの、そして剣菱は全力で走り出す。

 異常な速さでフールとい並ぶ。
 しかしもうフールの顔から突き出した牙は命に迫っていた。

「わ・・・わたし・・・・には・・・」

 命が言霊を紡ごうとするが、間に合わなさそうだ。
 剣菱は最後の力を振り絞って左腕を前に突き出すと、フールに噛ませる。
 牙が腕に食い込み、激痛がはしるが真砂の薬のお陰で気絶はしない。

(ぬぅ!)

 残った右腕を振り、フールの目に目掛けて天照を放つ。
 フールはとっさに顔を背けてかわすが掠った熱線によって激痛が走る。

「──────!?」

 悲鳴をあげ悶絶するフール。
 すると剣菱は右腕で無理矢理命を立たせると、門の扉を蹴り開けた。

「八神時雨っ!」

 ちょうど時雨は最後の悪鬼を切り倒した所だったらしい。
 それを見ると剣菱は命を時雨の方へドンと押す。

「真砂剣菱・・・」

「我の事を最後は敵に頼った、愚か者と笑ってもいい、公然と馬鹿にしてもいい───」

 命は蒼二の次に自分に良く懐いた。
 無邪気に笑い、時には自分をも巻き込んで楽しませてくれた少女。
 自分がよく可愛がっていた妹とよく被った少女。
 それを守るために剣菱は懇願した。

「だから───この子だけは守ってやって欲しい!」

 それは、復讐に生き、復讐に死のうとした男が見つけた大切な願い。
 時雨は力強く頷くと、言った。

「八神の名にかけて、誓うよ」

「頼む・・・ここは我が食い止める! 貴様らは先へ行け」

 剣菱は時雨に頭を下げる。
 仇である家の息子に対して、頭を下げるという屈辱。
 それを差し引いても剣菱は命を守りたいらしい、時雨はそれを知った。

「ああ!」

「剣ちゃん・・・嫌だよ・・・また皆で・・・」

「命・・・我は貴様と会えた事に感謝している、貴様は我に大切な事を思い出させてくれた」

「剣ちゃん・・・」

「悔やむのなら、お前の力を以て仲間を救え! それが我からの願いだ」

「・・・・・・うん!」
  
 命は力を振り絞り、笑顔で言った。
 それに笑い返すと、剣菱は扉を閉めつつ言う。

「蒼二と・・・幸せにな」

 ──扉が完全に閉まった。
 命の叫び声が聞こえたが、剣菱はあえて無視しもがいているフールを見据える。
 その奥からは更に数体の悪鬼がジリジリと距離を縮めてきた。

「ここは・・・通さんぞ・・・」

 固い決意。
 ここだけは死んでも死守する、そう決めた。
 そして剣菱は吼えた。
 
「我は死罪六神死罪六刃─第四位 光華 真砂 剣菱! この命、そう易々と取らせん!」

 天照が照射され、フールへと命中する。
 左腕はもう使えない、剣菱は右手だけで刀身の無い剣を抜くと、天照の刃を顕現させた。
 膨大な熱量が、大気を焦がしフールへと向けられる。


「────っ!」

 フールの爪が剣菱を引っかく、しかし剣菱は倒れない。
 そのまま、横凪に払いフールの前足を斬り飛ばす。
 しかしフールが突進。

「グッ・・・・アアアアァァァァァ・・・」

 門に叩き付けられ、更にその巨体によって押しつぶされる。
 アバラが数本砕ける音がして、フールの顔が剣菱を見た。

「フフフフフ・・・・化け物め・・・」

 剣菱は笑った。
 フールが口を開き、剣菱を噛み切ろうとする。

(こんな時、必殺技でもあれば乗り切れるのだろうがな──)

 そして、思い出した。───









 ───だーかーらーっ! お前の天照も必殺技見たいのを考えろよ───


 ───だから、我は興味ないと言っているだろうが───


 ───俺の霹靂を見ろ! 大した力が無いから昇華させて鳳凰なんて技を作ったんだぜ?───


 ───ほぉ、どんな力だ?───


 ───力をグッと凝縮させてドカーンみたいな勢い!───


 ───ただのタメ撃ちではないか───


 ───うるせぇっ! ちゃんと朱音戦には効果があるからいいんだよっ!───

 
 ───ふむぅ・・・我には必要ないと思うのだがな───


 ───名前も考えたんだぜっ! 俺の鳳凰に対して朱雀だ───


 ───結局、同じではないか───


「暁、使わせてもらうぞ」

 
 右手を掲げ、フールの大きく開いた口を狙う。
 全身の力を集中させ、いつもの天照を照射する時よりも大きく力を貯める。
 牙が迫る、そして──

「朱雀────っ!」

 剣菱の右腕の先から、通常の天照の五倍はある熱線が放たれた。
 膨大な熱線と勢いがそのままフールを吹き飛ばし、更には射線上に居た全ての悪鬼を焼き尽くす。
 激しい音が鳴り響き、全てのものが焼き尽くされると静寂が訪れる。
 
(これは・・・対人戦じゃまず当らんな・・・あの馬鹿め、こんな技を使うから死ぬんだ)

 そんな事を思い、笑う。
 
「ハハハ・・・ハッハッハッハッハッ!」

 笑いが止まらない。
 そして涙が溢れ出した。
 泣きながら笑う剣菱、そして笑いを止めると頭上に広がる星空を見つめた。
 夥しい量の血を流す自分の体は見たくない。
 最後はゆっくりと綺麗な星空を見て死にたい、そう思ったからだ。

「我は・・・復讐は果たせなったな・・・八神正宗、時雨そして千島蒼威を殺すという・・・我の目標が」

 それでも今は罪を重ねなくてよかったと思える。
 何故、そう思ったかは自分にもわからなかった。

「我は、楽しかったぞ! ざまあみろ・・・このクソッたれな世界めっ!」

 決して良いことばかりではなかった。
 むしろ嫌な事が多かったぐらいだ。
 しかし、自分は死罪六神の皆と会えて、幸せであったと思う。それだけは確か。
 そう思うと、剣菱はゆっくりと目を閉じた。

 




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