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  緋色の眼 作者:ジョン
今回は、傷だらけの遠い明日を読んでない方には
あまり意味が分からない話かもしれません。
それでもこの話は書きたかったので書いてしまいました。
申し訳ないです。
一応過去の説明はつけてみましたが・・・


【第三部】十一話:生き抜く者が居る

 刹那は目を閉じ、意識を集中する。
 自分の式神、楽園で囲った空間は自分の支配化における。
 よって今誰がどこに居て、どうなってるのかはある程度まではわかった。
 刹那の近くのベットには傷だらけになった瞬と彼方が目を閉じていた。
 楽園の力で、ここまで転送したのである。

(こっちの損失は二名、瞬と彼方が負傷、フールが一体死亡、か)

 中々に苦戦していた。
 悪鬼の数と楽園の維持がだんだんとキツくなってきているのも事実。
 楽園の力を使うには膨大な精神力が要る。そして刹那の精神はコア精製のためにかなり磨り減っていた。

(こっちも二人ほど、排除しておこうかな)

 今、一番自分に近いのは浅葱陸人と神埼森羅。
 
(この二人か・・・中々面白い過去を持ってるようだから、やってみるか)

 刹那は目を閉じ、再び集中した。
 式神、心眼を発動し二人の中を覗く。
 そしてどんどんと記憶の中へもぐっていき、一番の傷を見つけ出した。
 資料で見るより、中々の傷となっているようだ。
 刹那はそれを見て笑うと更に集中し、陸人達が次通過する部屋の空間を一変させた。
 

 










「なぁ・・・森羅」

「何だよ」

 廊下を歩いていると、陸人は突然森羅に喋りかけた。
 森羅は訝しげな顔をしつつも、聞き返した。

「まさか、お前がこっち側にくるとは思わなかったぜ」

「俺だって思わなかった、自衛隊に入って普通に訓練してたら、ある日適正があるなんて言われてよー」

「そのお陰で、俺は結構リラックスできてるんだけどよ」

「ハ?」

「俺はお前と蒼威になら安心して命を預けられるってずっと思ってたからな。中学のあの時から」

 陸人はそう言うと楽しそうに笑った。
 森羅は、陸人の言葉を聞くと過去を思い返した。
 最愛の人を失ってしまい、ドラッグに溺れ、陸人達と戦い、自分は元に戻れた。
 その事にどれほど自分が感謝している事に、この男は分っているのだろうか?
 森羅は陸人を横目で見る。

(変わったな・・・)

 中学時代の最初の陸人は、普通の少年だった。
 特徴といえば背が高いのと、武術を習っているただそれだけの生徒。
  
(宮下の奴が死んでからだよな・・・)

 宮下明が死んでから陸人は髪を赤く染め、暴力に明け暮れた。
 そして蒼威が転校してきてから変わった。
 その後自分と戦い、三人でつるむようになったのである。

(コイツは・・・今でも宮下の事を覚えてるんだろうか?)

 森羅はそんな事を思う。
 陸人は普段はヘラヘラしているが、本当は繊細な男だと森羅は知っていた。
 ただ普段が馬鹿すぎて誰も気がついていないのである。

「ん? 何だよ?」

 陸人はずっと自分を見ている森羅に問う。
 その声で森羅は我に帰り、目を陸人から逸らすと笑いながら言った。

「なんでもねえよ」

「そうか、もしかして俺に惚れたか? 駄目駄目、俺には詩歌と梨香という最愛の女性が居るんだよ」

「出会い系の美津子ちゃんはどうした?」

「・・・・・・それ、言わんといてください」

 森羅の一言により、沈む陸人。
 しかしすぐに体を持ち上げると、視線を鋭くした。
 そして前方の扉の中から気配がすることに森羅も気づく。

「どうするよ?」

「進むしかねーだろうな」

 そう言うと、陸人は扉を蹴破り中へと入る。
 森羅もそれに続き、陸人と背中を合わせるようにして部屋を見渡した。
 そこは天井が高い舞台のような場所、いくつかの客席も確認できる。

「・・・いねえな」

 陸人は呟いた。
 しかし森羅の返事が無い。
 
「森羅?」

 慌てて後ろを振り向くが誰も居なかった。
 ──そして振り返るとそこは夕暮れの教室になっている。

「あれ?」

 俺はさっきまで──そう思ったところで声が響いた。
 
「やぁ、陸人。忘れ物?」

 ゆっくりと振り返る。
 そこには──幼馴染の宮下明が立っていた。
 小さくて、髪が長めで気弱な幼馴染。
 陸人は何とか返事を返す。

「あ、ああ・・・まぁ宿題をな」

「そうなんだ。また宿題忘れたら田岡にどやされるからね」

「お、おう」

 そこまできて陸人は思う。
 これはあの時の繰り返しだと──。

(確か・・・あの時も俺は宿題を忘れて・・・)

「あ、陸人さー、ドラゴンファンタジー2やりたいって言ってたよね?」

「ああ・・・」

「俺クリアしたからさー、貸してあげるよ」

「マジ!?」

 子供の頃ずっとやりたかったソフト。
 結局はやれずに大人になってしまった陸人は目を輝かせた。
 そして窓に映った自分の姿を見る──そこには中学の制服を着た自分の姿。
 
「マジマジ」

「明! やっぱお前は最高だぜ!」

 そんな事は気にせずに明に抱きつく陸人。
 すると明は困惑しながらも笑いながら言った。

「今日の陸人はテンション高いねぇ」

「いやいや、これが本当の俺よ」

 そして談笑しあう陸人と明。
 すると、教室の扉が開き三人のクラスメイトが入ってきた。
 三人は談笑しあう、陸人と明を見て一言。

「あれ? お前ら仲良かったの?」

 下卑た表情で近づきながら三人は言った。
 そして明を思いっきり小突きゲラゲラと笑う。

(そうだ──俺はあの時──ここで逃げちまったんだ)

 ここで陸人は一緒になって明を苛め、明を傷つける。
 そしてこの後明は旅行先で自殺か事故かわからない死を遂げてしまう。
 それだけは──もう嫌だった。

「おいコラ」

 陸人は言う。
 すると明を小突いていた三人は陸人の方を向いた。
 
「あぁ? 何か言ったか高遠」

 陸人は顔を上げ、一人を思いっきりぶん殴る。
 気持ちのいい音がして、吹っ飛んでいくクラスメイトを見ながら陸人は怒鳴った。

「今度、明にくだらねー真似してみろっ! こうしてやるからよぉ!」

 そのままもう一人を掴み、勢いをつけて窓へとぶん投げた。
 窓を突き破った数秒後に鈍い音と悲鳴。
 そして陸人は明の手を引き走り出した。

 学校を出たところで陸人は明の手を離す。
 すると、息を切らしながら明は陸人に言う。

「陸人・・・ごめん、俺が弱いから・・・」

「気にすんなよっ! 俺ら友達だろ?」

「・・・・・・うん!」

 そして陸人と明は肩を並べて家に帰る。
 
「いいか明! 明日から夏休みだけど旅行に行くときは絶対にガケに近寄るなよ!」

「うん・・・何で?」

「危ねえからだよ! いいか男と男の約束だからな」

「・・・わかった!」



 それから本当にあっと言う間ほどの夏休みを過ごし、陸人は学校へ向かっている。
 不思議と夏休みに森羅に会いに行こうとは思わなかった。
 明も死んでいない、それどころか夏休みは明と二人でずっと遊んでいたのである。
 そして目の前を高等部のショートカットの生徒が通る。

「あ、水原先輩おはようございまーす」

 水原先輩と呼ばれた少女は軽く会釈するとそのまま通り過ぎてしまう。
 どうやら何故挨拶をされたかわかっていないように見えた。

(あ・・・そういやこの時はまだ知り合いじゃなかったんだわ)

 そう思い、そのまま通り過ぎると陸人は学校の中へ入り、教室へと向かった。
 そして退屈な始業式が終わり、明と廊下を歩いていると明が言う。

「わぁ・・・E組の神崎君相変わらずファンが多いねぇ・・・」

 陸人が明の見ている方向を見ると沢山の女子に囲まれて森羅が歩いてきている。
 そして森羅と目が合う。

「陸人・・・」

「森羅・・・」

 二人はしばらく見つめあう。
 すると森羅は女子達に先に行くようにジェスチャーで示すと、陸人を近くの教室まで引っ張った。
 陸人も明にここで待つように言う。
 そして──

「陸人・・・俺らどうなってんのかね? 宮下もまだ生きてるしよ」

「ってことは・・・お前の母親も元気なのか?」

「ああ・・・夫婦仲良好、母さんは病気なんかとっくに治っててよ」

「・・・何かさ、ここが俺達のいるべき場所なんじゃねーかな?」
 
 唐突に陸人はそう言った。
 森羅も珍しく陸人に反論しない。
 どうやら同じ事を考えているようである。

「蒼威も今日・・・話しかけたんだけど無視されたし」

 それが止めの一言だった。
 千島蒼威が自分達に関わらない、それだけで未来がかなり変わってくる。
 それを知っている森羅はやがて言った。

「・・・もしかしたら、俺らは何かの夢でも見てたのかな?」

「わからねぇ・・・」

「俺は・・・このままずっと母さんに生きていて欲しい・・・お前だって宮下に生きてて欲しいだろ?」

「ああ・・・まあ、もうしばらく様子を見てみるか」

「そうだな、よかったらこれからウチ来るか?」

「おお!! 行く行く!」

 明を連れて森羅の家を訪れ、陸人は久しぶりに森羅の母親に会った。
 昔の記憶と変わらず美人で、それを見て不覚にも涙ぐんでしまう。
 それからは陸人、森羅、明の三人で集まってよく遊ぶようになる。
 TEARPAINも作らない、喧嘩に明け暮れることがない普通の学生生活。
 蒼威は全く学校に来ない、不登校児となっていた。
 しかし毎日が楽しい陸人と森羅はそんな事は全く気にしない。
 そしてある日──

「今日は南中にナンパに行こうぜっ!」

 陸人が唐突に言った。
 昔は派手なグループに声をかけたのと、灼也によって失敗した事を覚えている。
 だが、今度こそはいける。言ってはいけない言葉もわかっている。
 それを知っている森羅は軽く頷くと了承し、明も乗り気では無かったが渋々と了承する。
 そして南中へ向かう途中に、買い物途中らしい森羅の母親──神崎真里菜と会う。

「あら、こんにちは」

「こんちゃーっす! これからナンパっす」

「コラァ!」

 森羅が陸人の制服のネクタイを締め上げた。
 そんな二人を見ながら真里菜はクスクスと笑う。

「森ちゃんもお年頃なのねぇ」

「ち、違うよっ!! 陸人がどうしてもっていうから・・・」

「おお! 学校であんなに女をはべらかしてる森ちゃんらしかぬ台詞だねぇ」

 森羅は怒りを押し殺して陸人を睨む。
 真里菜も明もそんな二人を見て笑っていた。
 優しくて、暖かいそんな日常。
 それを感じて陸人も楽しそうに、ゲラゲラと笑った。
 
「おい、・・・早く持って来いよー!」

 そんな四人のすぐ傍を五人の南中の女子生徒が歩いていった。
 そのうちの一人は一人俯いて五人分のカバンを持ってよろよろと歩く。
 そして重さに耐え切れずに転んでしまう。

「ダサー」

「お嬢様はその程度のカバンも持てないってわけぇ?」

「ってか浅葱弱すぎー」

(・・・浅葱?)

 陸人の心の中で何かが熱く、動いた。
 そしてそのまま倒れた女の子に駆け寄ろうとすると、明が進路をふさぐ。

「早く行こうよ陸人、あんな子放っといてさ」

「・・・・・・!?」

 森羅も駆け寄ろうとする、しかし真里菜によって手を掴まれた。
 
「母さん・・・?」

「森ちゃん・・・いいのよ」

「・・・・・・何で?」

「いいのよっ!」

 真里菜が強い口調で言う。
 すると森羅は真里菜の手を振り払い、言った。

「俺の知っている母さんは・・・そんな事絶対に言わないっ!」

 自分の母親は、誰にでも優しかったはず。
 絶対に、そんな事言うわけが無いという確信が森羅にはあった。 
 
「う・・・ん・・・」

 声がして転んだ少女が顔を上げる。
 表情の無い人生を達観したような顔、赤みがかかった茶髪。
 小柄な作りのその顔は陸人と目が合う。

「詩歌・・・」

 心が熱い、体が熱い、高校の時に感じ、今でも接するたびに感じる熱さ。
 ───浅葱詩歌がそこに居た。
 陸人は詩歌に微笑みかける、すると詩歌は顔に疑問符を浮かべるとそのまま歩き去った。

「陸人っ!! 僕を見てよ! 僕がまた死んでもいいのかよっ!」

 明が陸人の胸を掴みまくし立てる。
 それを見て、陸人は心が急速に冷めていくのを感じた。

「俺の知ってる明はなぁ・・・自己主張が弱くて・・・勉強も運動も駄目だけど・・・
 詩歌みたいな子が居たら・・・絶対にアイツは・・・明は駆け寄っていただろうよっ!」

 そう怒鳴り、陸人は明を殴った。
 すると、今までのどかだった商店街の姿が変貌しさっきまで陸人が居た舞台へと戻る。
 自分の服装も元の高遠陸人ではなく、浅葱陸人に戻っていた。

「全部・・・幻だったのかよ・・・」

 悲しそうに呟く陸人。
 すると明の姿がどんどん変化していき、羽の生えた鬼のような姿へとなった。
 
「夢魔か・・・タチの悪ぃ悪鬼だぜ」

 爆轟を再び構え、接近すると陸人は思いっきり殴った。
 爆発によって悪鬼の姿は粉々になって消え去る。

「──────ッ」

 横のほうで悲鳴が響き、圧縮された水によって夢魔が貫かれている。
 そしてまだ地面でもがき苦しんでいる悪鬼を森羅は思い切り踏み潰した。
 容赦も手加減もない一撃、やがて悪鬼は息絶え、塵となって消えていく。

「森羅・・・・・・」

 陸人が声をかけると、森羅は水を集め頭上に掲げると自分達の上に雨を降らせた。
 水がしとしとと降り注ぎ、ずぶ濡れとなる二人。

「テメーッ! 何すん───」

 そこまで言いかけて陸人は言葉を噤む。
 何故、森羅が水を降らせたのかが、わかったからである。
 すると陸人は、地面に座り身をかがめるとそっと泣いた。
 
(明・・・ごめん・・・ごめん・・・俺は・・・)

 楽しかった。
 明が居てくれて本当に楽しかった。
 あの時自分が逃げなければ、明は今でも生きていて──
 蒼威や森羅とも仲良くなり四人でどっかの店で酒でも飲んでいたのかもしれない。

(でも、もう無理なんだよな・・・)

 明の死が自殺か事故かはわからない。
 それでも陸人が最後に明を苛めたのは紛れも無い事実。

(だから、俺達は現実をちゃんと生きなきゃな・・・もうあんな幻想に惑わされる事なく)

 そして立ち上がり、森羅へと声をかけた。
 
「森羅・・・」

 すると森羅は一度だけ目を擦り雨を止めると立ち上がる。
 そして陸人となるべく目をあわさないように前を向くと言った。

「俺達は生きなきゃな・・・もう居ない人達の分まで・・・それが俺達に出来る唯一の事だよな」




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