今回の話は長いです。
次回は蒼二対彼方。
そして遥緋編へと続く予定です。
【第三部】八話:今度こそ守る
「罪歌様ーっ!」
遠くから私を呼ぶ声が聞こえる。
だけど、私は返事をしなかった。
少しでも彼を困らせたい、少しでも私を気にかけて欲しい。
「どこですかーっ?」
木の上から自分を探している彼の姿を見た。
どこかの高校の制服で、一心不乱に自分を探している彼。
見てて、どこか面白い。
「ここだよ」
私は笑顔を堪えながら彼に言った。
私を見つけると彼は笑顔になって私に言う。
「おお、そこでしたか。危ないから降りてきてください」
彼の言葉に従い、私は木から下りる。
そして私が地面につくと彼は私の手を取り、更に笑いながら言った。
「夕食の時間ですよ、狂様もお待ちです」
最初は彼が気にいらなかった。
だけど──今は自分のモノにしたいぐらい愛しい。
「その、様って辞めて欲しいな」
「はぁ・・・でも僕は分家の身ですしね」
「関係ない、本家が良いって言ってるからいいのー!」
ムキになって私は言った。
ああ、今思えば凄い子供だったんだなぁ・・・あの頃の私は。
「そうですか、じゃあ行きましょうか。罪歌」
「うん!」
そのまま手を繋いで私達は歩き出した。
そして私は彼に聞いてみる。
「ねぇ・・・正宗! 私達を・・・絶対に見捨てないでね!」
家での私達への風当たり。
それで正宗が私達から離れていってしまうのが凄い怖かった。
そして正宗は笑いながら私に言う。
「───────」
───目を覚ました。
罪歌は身を起こし、周囲を見渡す。どこかのホールのような広い部屋。
さっきまでの優しい夢が嘘のように、現実は冷たい。
「狂?」
傍らに倒れているのは弟の狂。
罪歌は身を屈め、狂の体をゆすった。
「・・・ん? ここは・・・?」
目を覚ます狂。
ゆっくりと立ち上がり、罪歌へと話しかける。
「ここ・・・どこだ?」
「わからない・・・多分神代の屋敷だとは思うけど」
「チッ・・・ぶっ壊すか」
狂はそう言い、風玉を顕現させた。
それらを集め、壁に向かって放とうとした時──
「おいおい、気が短い姉弟だなぁ」
突然正面の壁が開き、瞬が現れた。
残壊を肩に乗せて、非常ににリラックスした体勢で二人へと向かい合う。
「神代瞬・・・」
「悪いが、テメーらにはここで死んでもらうぜ」
「残念だけど・・・死ぬのは貴方よ」
罪歌の周囲に黒炎が巻き起こる。
そして狂の周囲にも猛烈な風が吹き荒れた。
「まぁ、分が悪ぃな・・・でもこっちにもちゃんと手があるんだぜっ!」
瞬の掛け声と共に、天井から何かが落ちてきた。
黒い体に白い骨のような装甲が纏わりついている人型の悪鬼。
「こいつは、フールっていってな・・・どっかの鬼神が自分達の細胞を使って作った生物なんだとよ」
「フール・・・」
フールと呼ばれた悪鬼は罪歌を見た。
本能的な恐怖を感じる──これはこの世に居てはいけない生物と。
「狂・・・本気で行くわよ」
「ああ、わかってるさ」
(緋澄・・・私に力を貸して)
(勿論! さぁいっくよん!)
(囚、俺に力をよこせっ!)
(シカタネエナ・・・ブッコロスゾッ!)
罪歌と狂は第二人格と同調し式神を改めて発動させた。
罪歌の黒炎は猛々しく燃え上がり、周囲を劫火で埋め尽くす。
狂の周囲には風の渦、荒れ狂う台風ほどのエネルギーが狂を中心に展開されている。
「燃え尽きろっ!」
罪歌の黒炎がフールと瞬に襲い掛かる。
フールは空中に飛び跳ね、炎をやり過ごし、瞬も走って炎を避けようとする。
しかし──炎が更に爆発的に膨れ上がった。
「なっ!」
伸びた炎に巻き込まれる瞬。
肉が焼かれ、何秒か呼吸が出来なくなり爆発により吹っ飛ばされた。
壁にたたきつけられた瞬はすぐさま起き上がると構えを取る。
「流石秋月じゃねーか・・・最悪なコンビネーションだぜ」
「フン、炎が風で煽れるぐらい常識だろうが」
罪歌の炎が膨れ上がった理由は狂が大気を操ったからである。
神舞は大気を支配する式神、だからこそ可能な現象であった。
「まぁ・・・な。 んじゃこっちも本気で行くぜ!」
瞬の姿が変わっていく。
服が破けるほどに筋肉がせり上がり、大きくなって行く。
人間の似姿から悪鬼の姿へ──そして変化が終わる。
「死ねやあああああああああああああっ!」
残壊の刃の長さが変わり、万事残壊となった。
瞬はそれを構えて罪歌に突進する。
「狂、あっちお願い」
罪歌は狂にそう言うと緋眼を発動させた。
迫ってくる瞬の番万事残壊を見据え、避ける。
「オラァッ!」
軽くステップしただけではすぐに追尾されてしまう。
それほどに瞬の動きは早い。
罪歌は炎を展開して瞬の足を止めようとする──が、瞬は止まらない。
万事残壊を腰だめに構え、罪歌を狙って突く。
(クッ)
向かってくる場所は顔。
首を捻り紙一重で万事残壊をかわすと接近し、瞬の腹部に手を当てる。
「チッ」
瞬は大きく後ろに飛び跳ね、罪歌の炎から逃げようとする。
そして手のひらに生まれた火球がそのまま瞬に向かって放たれた。
しかし瞬はこれを万事残壊を振って打ち消す。
「クソが・・・」
「しつこいわね・・・」
しばしの間の膠着状態。
そして、少し離れた場所では狂とフールが空中戦を繰り広げていた。
壁を蹴り、縦横無尽に跳ねるフールを狂は風玉によって狙い打つ。
「死ねやぁっ!」
数本の風の刃も混じったその攻撃をフールはスルリと滑らかにかわす。
そして再び跳躍すると、爪を閃かせすれ違い様に狂を切り裂こうとした。
「クソったれが!」
緋眼を発動させる。
そして風に乗って全力でフールへと接近し、殴りつけた。
勢いのついた拳に殴られ吹き飛ぶフール。狂は更に巨大な風玉を形成し、フールへと向かって放つ。
──爆音。壁が砕け散り、項垂れたフールの姿が見える。
「死にやがったか・・・」
狂はそのまま急降下すると、罪歌と瞬の下へと走る。
そしてある程度まで近づくと、瞬へと風玉を放った。
「お、もう来たのか?」
「ハッ! フールだかなんだかしらねぇが俺の敵じゃねーよ!」
風の刃を展開し瞬へと切りかかる。
瞬は万事残壊で地面を吹き飛ばし、罪歌目掛けて石飛礫を放つ。
しかし、それは罪歌の炎によって全て焼き尽くされてしまった。
「チッ」
瞬は万事残壊を振るい、狂と切り結ぶ。
そして風の刃は瞬の万事残壊をすり抜け、瞬の喉笛を浅く切る。
瞬も負けじと万事残壊で攻撃を仕掛けるが中々当らない。
「後ろからもかよっ!」
跳躍。次の瞬間罪歌の炎がさっきまで居た場所を通過した。
そしてある程度距離をとった瞬間、狂が更に接近し、風の刃を放ち、時にはそのまま切りかかってくる。
(結構キツイ・・・フールも使えねーし!)
そう思い、視界を狂に向けると面白いものが見えた。
まだ罪歌と狂は気づいていない。
そして瞬は言った。
「まだまだ甘いな」
「ハァ?」
狂が聞き返す。
すると同時に罪歌が怒鳴った。
「狂! 後ろっ!!」
後ろを向く、そこには何時の間にかフールが迫っている。
爪をひらめかせ狂へと憎悪の視線を向け、振り下ろした。
「ぐっ・・・」
胸を裂かれ、鈍い痛みが走る。
フールは尚も狂へと絡みつくと、拳を連打した。
猛烈なボディーをくらって体が浮き上がり、何かが折れる様な音が聞こえた。
そして最後に、顔に回し蹴りをくらって狂は吹っ飛ぶ。
「・・・・・・・・・・・」
──沈黙。狂は吹き飛ばされたまま動かない。
そしてフールはゆっくりと狂へと近づいていく。
「狂!」
罪歌はフールを止めようとした、が。
「こっから先はいかせねーぜ!」
ニヤニヤと笑う瞬。
そして万事残壊を振り回し、罪歌へと再び襲い掛かる。
「クッ・・・」
罪歌の顔に焦りの表情が浮かぶ。
それでも何とか万事残壊の刃をかわし、狂の下へと向かおうとする。
しかしそれが油断を招いた。
「ハッ! 動きが鈍ってるぞ!」
万事残壊の柄の部分が罪歌の顔へと直撃した。
振り回す遠心力によって増加された柄の威力は罪歌の体をいとも簡単に吹っ飛ばす。
吹き飛ばされた先は狂の近く。
「おい、フール! そいつもついでに殺せっ!」
フールは顔を軽く動かし、頷いたように見せた。
そしてまず、狂の体へと鋭い爪を突き立てようとする。
「やめろっ!」
罪歌の手から炎が放たれた。
頭がぼやける──出血した血が目に入り片目が良く見えない。
そして、集中が乱れたせいか大した威力はでなかった。
「狂!」
罪歌はフールが苦しんでいる間に狂を担ぎ上げようとするが、フールの回復のほうが早かった。
怒りに満ちた目で罪歌を睨むと、その巨大な手を力任せに振るう。
狂をかばいつつ吹っ飛ばされる罪歌。壁に叩き付けられ更に意識が朦朧としてきた。
(狂・・・)
狂も頭部から出血していた。
それをぼんやりとした意識で見つめた後、前を向く。
人間とも悪鬼とも形容し難い生物が爪を掲げて自分たちに迫ってくる。
怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
恐怖が罪歌の体を縛る。
(罪ちゃん! 戦って!)
緋澄の叫び声がどこか遠くから聞こえた。
もう体が動かない。このまま──殺されるのも自分らしい末路だろう。
復讐の固執し、何人もの人間を葬ってきた自分らしい末路だ。
自嘲気味に罪歌はそんな事を思った。
(正宗ぇ・・・約束したじゃん・・・あの時・・・貴方は言ったじゃない・・・・・・)
瞳から涙がこぼれた。
そして罪歌は心の底から怒鳴った。
「貴方はっ───私達を絶対に見捨てずに、守ってくれるって言ったじゃないっ!!」
フールの爪が振り下ろされた。
罪歌は目を瞑って衝撃を待つが、一向に来ない。
目を開けてフールを見ると腕から先が無くなっていた。
「───────ッ!!!」
鮮血を撒き散らし、痛みに暴れるフール。
すると、猛烈な速さで何かが近づいてきて、フールの体を上下真っ二つに切り裂く。
そして吹っ飛んだ上半身に向かって金色の斬撃を放ち──爆発。
「あの時確かに僕は言ったね───その決意は今も、そしてこれからも薄れはしないよ」
返り血塗れのダークスーツ姿の正宗が罪歌を見ながら言う。
その笑顔は、あの時──約束をしたときと全く同じ笑顔だった。
「ま・・・正宗ぇ・・・」
涙が溢れた。
とても悲しい、そしてとても嬉しい。
感情が暴発し、罪歌はただ泣いた。
「おいおい、タイミング良すぎじゃねーか?」
成り行きを見ていた瞬が半ば呆れつつ言った。
それに対して正宗は
「誰かさんが隠し通路風にしてくれたもんでね、中々きわどいタイミングになってしまったよ」
「文句なら兄貴と此方に言ってくれ、俺と彼方はこの屋敷に関しては何も意見を出しちゃいない」
「そうか、じゃあもう殺していいか?」
「ああいいとも、殺れるもんならなっ!」
会話が終わるのと同時に、二人は動いた。
速い──一瞬のうちの攻防。
正宗は緩やかに万事残壊をかわすとその攻撃の隙間から斬撃を繰り出す。
瞬もその辺はわかっているようで、決して足を止めることなく常に動き続ける。
そして──万事残壊の刃が正宗の右腕を掠る──
「ハッ!」
万事残壊が怪しく光る。
すると正宗の右腕の服の部分が粉々に千切れ飛び、腕にも裂傷がはしる。
しかし正宗は止まらない。
(あの子達はもっと痛かったはずだ───)
傷口を止血もせずにそのまま瞬へと突っ込む。
狙うは常に必殺。急所ばかりを狙い、正宗はどんどん攻める。
そして瞬の顔に焦りが浮かんだ。
(僕が、もっとしっかりしてやればあの子達は───)
いつも二人で手を繋いでいた双子。
笑顔なんてほとんど浮かべずに二人でいつもヒソヒソ話していた双子。
それを思い出し、正宗は更に斬撃の速度を上げた。
体中の骨や筋肉の痛みなど全く気にならない。
(あの子達のためなら───どこまでも───墜ちてやるっ!)
八神の緋眼の昇華した力──墜式。
その力は自分を暴走状態に追い込むことで理性を無くしたモノにまで墜ちる力。
それと引き換えに極限までの殺傷本能を高める。
(ガアアアアアアアアアアアアアアッ!)
正宗の目がさらに染まる。
緋色を超え、更に染まる。
それと同時に更に速度が上がり、ついに瞬を捉えた。
「うおっ!」
そのまま地面に組み伏せられ殴られる。
一撃一撃が人を殺せるほどの威力、当然正宗の拳からも血が噴出していた。
それでも正宗は瞬を殴りつけた。
「・・・・っ・・・調子のるんじゃねえっ!」
瞬が力任せに正宗を吹っ飛ばす。
しかし正宗はすぐに体勢を立て直し、再び刀を掴むと瞬へと切りかかる。
「うぜえっ!」
瞬は万事残壊で周囲をなぎ払う。
──しかし正宗の姿は無い。
そして、上を見上げると──正宗がちょうど刀を投げつける瞬間だった。
「チッ・・・」
一本目の刀が瞬の腿を貫き、更には地面にまで突き刺さった。
鈍い痛みが瞬の全身を駆け巡る、そして正宗は地面に着地すると、刀を両手で全力で振るった。
瞬は何とか万事残壊で受け止めるが──
「なっ!?」
万事残壊にヒビが入った。
そしてそれは力に押されるように段々と広がって行き、やがて砕け散った。
それだけで勢いは留まらずにそのまま瞬の体は大きく吹っ飛び壁にたたきつけられた。
正宗は更に走る──そして瞬が崩れ落ちる前に二神風雷を瞬の両手に突き刺し、壁に磔にする。
「ハァ・・・ハァ・・・」
正宗が墜式を解く。というよりも限界がきて解けた。
そのまま崩れ落ちようとするが、まだ崩れ落ちない。
(まだ、やり残してるよな)
そのまま方向を変え、正宗は罪歌と狂の下へと歩く。
一歩一歩歩くたびに意識が飛びそうになるが、それだけは嫌だった。
(罪歌・・・狂・・・)
目頭が熱い。
何故ここまできたしまったのだろうか? そんな疑問が湧く。
しかし、もう何も考えられない。
「罪歌・・・狂・・・」
二人は壁に寄りかかるようにして座っていた。
狂のほうはまだ意識が朦朧としてるのか、目の焦点が合っていない。
すると罪歌が返事を返した。
「なによ・・・」
「もう、止めよう・・・世界への復讐も、誰かを傷つけるのも」
「・・・・・・・嫌・・・やられっぱなしは嫌・・・」
俯いて応える罪歌。
しかし、正宗には彼女の本当の気持ちはとっくにわかっていた。
「だったら、その分・・・僕が君達を幸せにする。 君達を最後まで見捨てない、最後まで守り通す」
「・・・・・・・」
罪歌は応えない。
それからしばしの静寂──すると、突然狂が喋り出した。
「姉ちゃん・・・もう止めよう」
「狂!? 貴方は私達を見殺しにしようとした正宗を信じるのっ!」
「姉ちゃん・・・でも俺達が作った組織が──正宗の大事な人を殺したのも事実だぜ」
「・・・それは・・・・・・だって・・・だって・・・」
泣きじゃくる罪歌。
正宗は罪歌と狂をそっと抱きしめた。
「確かに死罪六神の八神村雨は、八神深雪を殺した──だから僕も兄である村雨を殺した」
「・・・俺は謝らないよ。 謝ったら俺らを信用して入った村雨に失礼だ」
「ああ、わかってる。だから僕はもう嫌なんだ・・・復讐とか、大切な人が死んだりするのは」
「正宗・・・」
「だから・・・帰ろう。 もう二度と君達にこんな道は歩んで欲しくない」
その言葉を聞くと罪歌と狂は泣き出した。
小さい頃から不遇な目にあい、居場所を失ってきた姉弟。
ずっと生きるか死ぬかの世界で生きてきた二人はただひたすらに泣いた。
初めて自分達に笑顔を教えてくれた人の胸の中で───
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