次回は
蒼二と遥緋か正宗と罪歌の話になる予定です。
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【第三部】七話:戦いを始めよう。
密林に覆われた山。
太古よりそこはそのままであったかのような景色。
もうそろそろ夏であるのに、そこの空気だけは凛と澄んでいた。
「展開」
峠の一角から黒服が結界の式神を張る。
世界が薄い被膜に覆われ、そこにはさっきと変わらぬ風景。
そしてその結界の内部では、数人の男達が階段の前に立っていた。
犠牲をなるべく少なくするために少数精鋭で行く事になっている。
遥緋、神璽、蒼威、陸人、森羅、時雨、正宗の七人だ。
「さて、準備はいいかい?」
正宗が全員に問う。
その瞬間、六人の体や周囲に式神の気配がまとわりついた。
蒼威の周囲には十の球体。陸人の腕には赤い手甲。
森羅の周囲には水の塊。正宗の両手には二振りの日本刀。
遥緋と時雨には式神の気配だけ、そして神璽の手には黒の長剣。
「・・・大丈夫みたいだね」
正宗は笑う。
そして階段を一段ずつゆっくりと登り始めた。
段々と減っていく階段、すると正宗が携帯していた無線機に通信が入る。
「正宗様達の対面の階段に反応あり、死罪六神と思われます」
それとほぼ同時に、五つの式神の気配が現れた。
そして七人が階段を登りきると、ちょうど対面にも五人が居た。
全員が黒を基調とした服に身を包み、周囲を警戒している。
「やぁ、奇遇だね」
正宗は言った。
すると罪歌は眉を潜めつつも返す。
「奇遇だね」
それっきり沈黙が続いた。
遥緋は蒼二をずっと見ているが当の蒼二は神代の屋敷を見上げ、苛々としている。
そして正宗がそろそろ動こうとした時。
「ようこそ、神代家へ」
どこからともなく声が響き割った。
それを皮切りに屋敷へと続く、数百メートルの広い一本道に大量の悪鬼が出現した。
どれもこれも体が大きく、知能が高そうな外見をしていた。
「フン・・・足止めにもならねえよっ!」
紅雪の姿が修羅雪へと変化した。
二本の修羅雪を降りまわし、蒼二は悪鬼へと襲い掛かる。
そして剣菱と狂も動き出し、悪鬼を駆逐し始めた。
「じゃあ、僕らも始めよう」
正宗が静かに言った。
先頭を歩く陸人が爆轟を振るい、周囲に爆発を起こす。
その爆風から逃れた悪鬼を、蒼威の大我が剣の形となって切り裂いた。
「遥緋、神璽、僕は前に進む! 蒼威と時雨と陸人と森羅は周囲の敵を駆逐しろ」
正宗の声により陣形が変わる。
神璽と正宗が前面に展開する敵を叩き切り、遥緋は力の温存に勤める。
遥緋達がある程度進んだのを見ると、時雨は声を張り上げた。
「重場の力を最大限に発動させます! 見えないので注意してください」
その声がした瞬間、何かが空間をかけめぐり周囲の悪鬼が潰れる。
肉が凝縮され、中身が飛び散り、数メートルはあった悪鬼の姿が三十センチほどの肉塊となっていた。
「あ、アブねえ!」
陸人の顔が青く染まる。
それほどに時雨が今見せた力の破壊力は凄まじかった。
「炎帝」
遠くから罪歌の声が響き、周囲の悪鬼を燃やし尽くした。
それと同時に数本の熱線が悪鬼を貫き、罪歌は更に進む。
「罪歌、狂、蒼二は進め! そして復讐を果たしてこい」
剣菱が怒鳴った。
三人は一旦悪鬼を攻撃する手を休め、頷くと屋敷の扉へと向かって走り出した。
剣菱は三人を狙う悪鬼に狙いを定めると天照を照射する。
熱線に焼かれ、燃え尽きる悪鬼。
「剣ちゃん! まだまだ増えてるよぉ〜 『消えろ』」
命の言霊が発動し、正面に居た数体の悪鬼の姿が文字通り消えた。
だが、周囲には次々と悪鬼が生まれ、殺しても殺してもキリが無いほどである。
「命、踏ん張るのだ。ココが正念場だぞ」
「わかってるよぉ〜『切り裂け』」
剣菱と命が悪鬼を駆逐している所から少し離れた場所では蒼威が大我の羽を展開していた。
それに気づいた二人は慌てて後ろへ退避する。
蒼威はそれを確認すると羽を打ち鳴らし、一斉に放つ。
一枚一枚の銀色の羽が悪鬼を貫き、殺し尽くす。
「凄い・・・あ! 来るよ!」
その場に居た大半の悪鬼の姿が消えている。
それと同時に時雨や陸人達の姿も消えだした。
そして神代の門の前に残ったのは、命、剣菱、時雨だけとなった。
「むぅ・・・楽園の力か?」
「そうみたいだよ、やっぱ私の力と似てるね・・・少しだけど発動する予兆を感じる」
「まぁ・・・それは良いとして・・・この三人でここを潜り抜けろと?」
「うむ」
「そうみたいですね、じゃあそろそろ行きましょう!」
そして三人は残りの悪鬼めがけて走り出した。
「チッ・・・」
神代の本邸のとある部屋で刹那は軽く舌打ちをした。
軽くこめかみを押さえ、数秒黙る。
「兄貴、どうした?」
「何人か転送したんだが・・・一気に力を使いすぎたようだ」
「お兄様は少し休んでください、コアの作成もありますから」
「ああ・・・」
そう言うと刹那はソファーに大きく寄りかかった。
刹那は眼を瞑り体力を回復している。残った瞬と彼方は小さな声で相談を始めた。
「瞬兄さんは秋月を、僕は千島を殺す。これでいいね?」
「ああ・・・蒼威や浅葱はフール達の方に転送したらしいからな」
「フール・・・あいつら気持ち悪いよ・・・本当に鬼神に近い悪鬼だよね」
「元々鬼神がベースらしいからな・・・ラグナロクもイカれたモノを作りやがるぜ」
瞬と彼方は藍から受け取ったフールの事を思い出し、背筋を震わす。
そして式神を顕現させると、彼方は西の扉へ、瞬は東の扉へと向かう。
すると刹那の声が響いた。
「瞬、彼方・・・死ぬなよ。 皆で行こう・・・俺達が目指した楽園へ」
「はい、わかってますよ!」
「兄貴もコア作るとき無理すんなよなっ!」
そして瞬と彼方は扉を潜り抜けた。
後に残された刹那はゆっくりと立ち上がると、奥の部屋へと入る。
暗い、闇に覆われた部屋。
そこには黒く怪しく輝く六つの結晶が並べられていた。
「さて・・・始めるか」
刹那は並べられた結晶の中心に立ち、結晶と自分の接続を始める。
一つ一つから暗い、闇の力が伝わり、刹那を満たしていく。
そして刹那はその力を練り上げ、虚空へと集中させた。
「コアとはよく言ったもんだ」
六つの結晶の力が空中へと集中されていく。
そして現れる、結晶の色よりも濃い闇色の光。
刹那は更に結晶の力を引き出し、その闇に伝えていく。
「半分悪鬼、半分人間・・・それがこの力」
人間は太古よりモノを改良し、昇華させ、栄華を極めた。
悪鬼は太古より結晶から生まれ、世界の闇の部分で生きてきた。
その二つのハーフである鬼神──どこかの破滅願望を持つ鬼神が結晶を昇華させたのが全ての始まり。
正にこれは鬼神が最も鬼神らしいといえるべき行動、そして繁栄の仕方。
「これで───楽園をっ!」
刹那の負の感情が部屋中に満たされる。
それは人間への憎悪。たった一つの大切な約束。
それらが入り混じったモノが闇へと吸収されていく。
それと同時に六つの結晶の全てが砕け散った。
「・・・ハハッ・・・ハハハハハハハハハハッ!」
刹那は笑う。
空中には拳大の黒い闇の塊。
それを大切そうに、愛おしそうに刹那は抱きとめた。
「出来た・・出来たよ・・・」
刹那の目から涙が零れ落ちた。
そして頭の中にあの時の光景が蘇る。
その頃、彼らに名前は無かった。
ただのモノとして世界から彼らは見られていた。
自分達は周囲とは違う、それだけはわかっている。
だからこんな山奥の村で、ひっそりと静かに暮らしている。
──愛、それが貴方達が生まれてきた理由
母はいつも自分達にそう言い聞かせてきた。
今ならわかる、それは異形に犯された母親なりの答え。
自分達四兄弟は、力も人より強い、頭だって村では一番賢い部類だった。
そしてそれは時に異端として恐れられた。
──川で魚でも取っておいで
あれは母なりの子供達の気遣いだった。
そして四人ではしゃぎながら魚を取って帰ると、自分達の家が燃え盛る火炎に包まれていた。
家の前には農具と松明を持った村人達。
そしてその農具には赤い液体がこびりついていた。
自分は尋ねた、どうして家が燃えているのかと、母親はどうしたのかと。
村人はそんな自分達を農具で殴った。
容赦なく、一遍のためらいも無く、その瞳には恐怖。
──鬼は、滅ぼさなくてはな
その言葉と共に振り下ろされる農具。
まず弟達が痛みに泣き喚き、自分は地面に頭をこすり付けて許しを乞うた。
しかし暴力の嵐は全くやむ事が無い。
──たすけて
その頃は自分達が弱い生物だと思っていた。
自分の中に眠る本当の力のことなど知らなかった。
そして薄れ行く意識の中、視界が真っ赤な紅蓮の炎に包まれた。
──楽しそうではないか
炎は瞬く間に村人たちを焼き尽くした。
見上げると、闇夜に光り輝く爛々とした緋色の眼。
そして男は言った。
──憎いか? 人間が憎いか?
自分達は頷いた。
母親を殺した人間が憎い、自分達を傷つけた人間が憎い。
自分達に残ったのはただそれだけ。
──じゃあ、教えよう
その日から、男についていった。
色々と教わった、世界の真実、自分達の正体。
そして自分達兄弟は誓った。この世界に自分達のためだけの居場所を作ろうと。
──誓おう
時は流れ、男に鍛え上げられた四兄弟は立派に成長していた。
時には人間に媚を売り、そして裏切り殺しつくす。
そして手に入れた名前が神代、神が治めていたという時代を表す名前。
「さて、俺も迎え撃つか」
回想が終わり、刹那は歩き出した。
胸には闇、心の中にはあの時の約束を抱えて。
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