第四話:死罪六神
八神家は大騒ぎであった。
敵対している御崎家がついに攻めてくるという報せが入ったからだ。
当主代理の時雨は家の者を全て集めて、会議をしていた。
「御崎家と戦闘しても今は勝ち目がないだろうな」
「時雨様!?」
「何を言ってらっしゃる! 我ら八神の力を持ってさえすれば御崎など・・・」
「そうだそうだ!」
巻き起こる家の者たちのブーイング。
時雨はそれでも冷静に告げる。
「現在まともに緋眼を使えるのは数人、そして親父も蒼威さんもいない」
「それに最大の問題は御崎朱音だ・・・アレは俺でも勝てない」
「それは・・・ま、正宗様はこんな時にいったいどこに・・・」
「まさか・・・家を捨てたとか・・・」
「正宗様は昔も浅葱とも勝手に結婚の話を進めてましたしなぁ・・・」
募る不安、募る不信感、場内は不穏な空気に包まれる。
時雨はいい加減キレそうだった、がグッとこらえる。
それが当主の代理を任された自分の役目。時雨はそう思っている。
(これで・・・親父が道楽なんてしてたら・・・マジ殺すかも・・)
「居ない人間の事を言っても始まらない・・・今回は俺が御崎に頭を下げようと思う」
「俺達に何より大切なのは家だ! それを守るためならプライドだって捨ててやるさ」
「おお・・・時雨様・・・」
「そうですな・・・今回ばかりは・・・」
「時雨様、何卒御願い致します」
場内の混乱が収まり、やっと場の空気が元に戻る。
そして一人の者が時雨に質問をした。
「最近、千島の双子をみかけませんが・・・どうしたのですか?」
「ああ、あいつらなら・・・っと! 大事な事を言い忘れてた」
「なんでしょう?」
「今回の事件・・・死罪六神の奴らも絡んできてるぞ」
「─!?」
時雨がその名前を出すと場内は静まり返る。
ここに居るほぼ全員が死罪六神の恐ろしさと秘密を知っていた。
絶対にこの存在だけは触れてはならない、それが暗黙のルール。
「いいか、奴らは俺達の罪だ。 しかし妥協するな・・・確実に殺せ!」
「しかし・・・あの件は世界のためには仕方の無い事で・・・」
「世界の為だろうがなんだろうが、奴らは俺達と悪鬼を憎んでいる」
「死罪六神はどれだけ辛かったと思う? どれだけの血と涙が流れたと思う?」
「しかし・・・その原因を作ったのは俺達だ・・・それだけは忘れるな」
「八神と御崎もそろそろ動き出すだろうねぇ〜」
暗闇の中にヘラヘラとした緊張感の無い声が響く。
そして誰かがカーテンを開けた・・・光が差し込み部屋の全体像が明らかになる。
居る人間は五人である。それぞれ好きな場所に座り、リラックスしていた。
「だろうねぇ・・・さて、皆は決まったかな?」
その中の一人、罪歌はテーブルの上に置かれた二枚の写真を見ながら言う。
そこには双子の少年と少女が写っている。
「俺ぁ・・・蒼二のほうだな」
狂が、しかめた顔つきで言う。
「ヒャハハハハ、俺ッちは女の子のほうがいいねぇ〜」
ヘラヘラした男が言う。彼の服装はこの部屋には異質であった。
白衣にメガネに銀髪・・・まさに悪の科学者そのものである。
「強き方・・・」
長髪を後ろで束ねた男が言う。右目に大きな傷のある男だ。
隙の無い物腰、雰囲気。侍のような男である。
「女のほうかな、男のほうは殺し合いをしてみたい」
細身の男が言う。服装はカジュアルな感じで、首筋に刺青がある。
そこらへんにいる大学生のような男であった。
「なるほどねぇ・・・」
全員の意見が出揃うと、罪歌は少し考えてから指示を出す。
もう、既に罪歌の中では作戦が決まっていた。
「んじゃ今回の役割、狂とナナシは蒼威と正宗の捜索をお願い。 私は待機」
すると長髪の男が言う。
「俺達は何をすればいい?」
すると罪歌は妖艶に笑う。
罪歌以外の人間は直感した、またロクでもない事がおきる、と。
「八神と御崎を本気で戦わせるわ・・・まずは彼とあの子を引き合わせなきゃね」
「あの子ってまさか・・・」
細身の男─御崎 暁が笑顔を滲ませながら言う。
その表情は表面は笑っているが中身は残虐さに満ちていた。
「御崎家最凶最悪の式神使い御崎朱音よ。 暁にはちょうどいい任務かもね?」
「ああ・・・いいぜ! 最高だよ罪歌・・・やっと復讐が果たせるぜ」
「剣菱は暁のサポートをお願い」
「了解した」
「アハハハハハハ、面白くなってきたわぁ!」
罪歌の笑い声が部屋中に響き渡る。
その笑い声は楽しそうで、どこか悲しそうな笑い声であった。
「死罪六神、ですか?」
夕暮れの住宅街、浅葱家の家の裏山で遥緋は陸人に聞き返した。
遥緋の式神の特訓をしていたのである。
遥緋の式神の力は再生と分解。その制御の仕方である。
そして今は浅葱の家に帰る途中で話しているのであった。
「ああ・・・最悪でめっちゃ可哀想な連中さ・・・」
「そうなんですか・・・」
「君がこの先悪鬼と関わると・・・絶対に一位、二位、四位とは因縁が付きまとう」
「何でですか?」
「死罪六神ってのはね・・・本来生きて居ちゃいけない連中の集まりなのさ」
そう言うと、陸人は懐から紙切れを出した。
そこにはこんな事が書いてある。
死罪六刃─第一位 煉獄 秋月 罪歌
死罪六刃─第二位 狂風 秋月 狂
死罪六刃─第三位 剣帝 八神 村雨(死亡)
死罪六刃─第四位 光華 真砂 剣菱
死罪六刃─第五位 屍王 ナナシ
死罪六刃─第六位 雷獣 御崎 暁
「どこかで見たことがある名前だろ?」
「秋月は千島の本家、八神と真砂は同じ分家です・・・それに、二つとも滅びたはず」
「御崎って八神と仲が悪い家ですよね?」
陸人は遥緋の答えを聞くと、悲しそうに言った。
「うん・・・彼らは本当は死んだ事になっている連中ばかりなんだ」
「死んだ事・・・? 八神 村雨さんは亡くなってますね?」
「村雨は自分の親父を殺したんだ・・・それで家を追い出されたのさ」
「そして死罪六神に入り・・・正宗が殺した」
「・・・・・・他の方は?」
「それは俺の口からは言えない」
「・・・はい」
ぎこちない雰囲気が続き、陸人と遥緋は黙って山を下る。
そして陸人が突然思い出したように言った。
「あっ・・・そういえば遥緋ちゃんの式神の名前決めて無かったね?」
「名前ですか?」
「式神には皆名前をつけるのさ」
「うーん・・・思いつきません。お父さんとかも名前があるんですか?」
「蒼威は【大我】、正宗は【二神風雷】、俺は【爆轟】」
「うわぁ・・・陸人さん何か似合ってますよ」
「・・・・・・何か馬鹿にしてない?」
シュンとうなだれる陸人・・・32歳にはまるで見えない。
遥緋はクスリと笑った。
「まぁまぁ、じゃあ陸人さん名前付けてください」
「実は毎晩こっそり考えてたのさ! 詩歌がまだ一緒に寝てくれないから暇で・・・ね」
遥緋は顔を真っ赤にしてうつむいた。
そういう話は家では全く無いために免疫が無いのである。
(まぁ・・・お兄ちゃんがシモネタ言った日には世界が終わるわね・・・)
「あ、ゴメン・・・セクハラって奴? 遥ちゃんには内緒だよ?」
「いや、いいです・・・で、どんな名前ですか?」
「【輪廻転生】っていうのはどうかな? ピッタリだと思うんだけど?」
「【輪廻転生】・・・いいですね! じゃあ名前頂きます」
そんな話をしていると山を抜けて浅葱家に着いた。
そして遥緋はある疑問を持った。
ここに来てから数日、灼那が一言も喋ってない事に
(ねぇ・・・灼那・・・)
(あ?)
(ごめん・・・寝てた?)
(いや・・・おきてたぜ)
(何か、灼那ここに来てから一言も喋ってないよね?)
(・・・・・・遥緋・・・俺は・・・)
(どうしたの?)
(いや、なんでもない・・・それと、陸人には俺の事は言わないで欲しい)
(・・・うん、わかった)
(悪い・・・いつか絶対・・・絶対理由を話すからさ)
(うん)
遥緋はうーんと背伸びをすると、街を見つめた。
夕日が差し、赤く染まる世界はとても美しかった。
(いつまでも、この風景が続くといいな・・・)
そう思うと、陸人の方へ向かって走り出した。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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それでは次回、またお会いしましょう
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