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  緋色の眼 作者:ジョン
評価むっちゃ下がってます。
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さて、次回は遥緋編となります。
毎度毎度お読み頂きありがとうございます。
【第三部】四話:それぞれの思い
 

 百年は経っているだろう、その屋敷。
 山を背後に抱え、数棟もの建物が建つ広大な敷地。
 昔からその地域の地主として君臨し続けてきた──八神家。

 八神時雨はその風景を眺めつつ、ため息をつく。
 神代の本拠地は大体目星がついた、後は数人の報告を待つだけである。
 手持ち無沙汰になった時雨は休めと言われ、八神の屋敷でボーっとしていた。
 すると数人の八神の分家と宗家の子供が前を通り過ぎ。

「時雨様、こんにちは」

「こんにちはー」

「やぁ、これから修行かい?」

 時雨は笑顔で聞き返す。
 幼い頃から蒼二と遥緋の世話を任せられていた時雨は子供の扱いに長けている。
 
「はい、今日から緋眼に体を慣らす特訓です!」

「そうかそうか、頑張るんだよ」

「はい! 失礼します」

 それだけいうと子供達は笑いながら走って行った。
 笑顔で見送る時雨、そしてため息をつく。

(緋眼、か・・・)

 自分の一族の力。
 幼い頃から八神の跡取りとして育てられた時雨はそれを当たり前のように使っていた。
 誰よりも強く、それが長になる者の宿命。
 血反吐を吐くほど訓練して、時雨はほぼ完璧に緋眼を体得した。

(まぁ、八神のは重いからね)

 千島の緋眼は精神的な負担は第二人格が軽減してくれている。
 真砂は独自の手法によって作られた薬を使い、軽減している。
 しかし八神には方法が無い、ずっと昔から体を鍛え上げ、それに耐えてきた。

(あの子達も今頃・・・)

 多分、最初は気持ちがいいであろう。
 遅くなった世界を、自分だけはいつもの感覚で動けるのだ。
 しかし、使用後の激痛はそれの代償としては中々に大きい。
 
「────っ」

 道場のほうから悲鳴が聞こえてきた。
 多分、苦しんでいるだろう。
 そして時雨はその声から逃げるように家の中へと戻っていった。






「蒼ちゃんどこ行くの? ・・・まさか他の女と遊ぶんじゃないでしょうね」

 不機嫌そうな命の声を聞いて蒼二の背中に冷や汗が流れる。
 しかし、蒼二は命を無視しスラックスをはき、白のワイシャツに黒のネクタイを巻き、ブーツを脱いで革靴を履いた。
 
「蒼ちゃーん? 聞いてますかー?」

 命の機嫌の悪さが更に一段階上がった。
 そろそろ限界だと思い、蒼二は返事をした。

「少し、墓参りに行ってくる」

「・・・朱音さんの?」

「違う」

 間髪居れずに蒼二は返事を返す。
 そして朱音の命日も二ヵ月後だと言う事を思い出し、改めて心に刻む。
 命は怪訝そうに聞き返してきた。

「じゃあ誰?」

「深雪さんだよ」

 そう言うと、命の横をすり抜け外へと出て行った。
 後ろで命が何か怒鳴っていたが気にしない。
 
(こりゃしばらく許してもらえそうにねーな)

 四日前に起きた勘違いが勘違いを生んだ事件(罪歌事件)のせいで未だに命の機嫌が悪い。
 狂は誤解が解けるとヘラヘラ笑いながら蒼二の肩を叩いたが、命はずっと文句を言っていた。
 何故命が自分にあそこまで固執するのかわけが分からない。
 だから、聞いてみる事にした。

(なぁ、悲煉)

(なんですか?)

(命って何であんな俺に固執するんだ?)

(さぁ・・・? 聞いてみればいいじゃないですか)

(そういうの聞くのって自惚れっぽくて嫌だ)

(じゃあ謎は謎のままでいいじゃないですか)

(・・・・・・思ったんだけどさ)

(なんでしょう?)

(お前ってスゲーつまらない奴だよな・・・)

(・・・・・・私も思いましたよ)

(何を?)

(それは蒼二だけには言われたくないってね)

 似たもの同士は非常に低レベルな会話をしながら歩き去った。
 





 時雨が一番嫌いなモノ──それは悲鳴。
 悲鳴を聞くと、母親が殺された夜の事を思い出してしまうからだ。
 血走った叔父の緋色の眼、目に涙をためた母親の姿、そして無力さに泣いた自分。

「痛っ・・・」

 胸が痛んだ。
 あれから六年経った今でもあの時の傷は癒えていない。
 よろよろと歩きながら、時雨は執務室へと戻る。

「時雨?」

 父親の正宗が声をかけてきた。
 そのいつもと変わらぬ口調に時雨は苛立つ。

(アンタ・・・今日は何の日か知ってるのかよ・・・)

 今日は六年前、時雨の母親が殺された日。
 そして正宗が自分の兄を殺した日でもあった。
 そんな日なのに・・・この男は──

「今日は何の日か覚えてますか?」

 気がつけばそんな事を口にしていた。
 時雨の質問に正宗は、一瞬黙り──やがて言う。

「深雪の命日だろう」

 淡々と告げる正宗。
 その言葉に昔から思っていた時雨の不満が爆発する。
 心の中は怒りで熱い、しかし思考は妙に冷えていた。

「そうですよ・・・お墓参りとか行かないんですか・・・?」

「そんな事をしている暇は無い、情報がまだ足りないからな」

 そんな事──。 
 時雨の理性が吹っ飛んだ。

「そうですか・・・まぁ、所詮その程度の女だったって事ですね」

「・・・何が言いたい?」

「アンタは本当は詩歌さんと結婚したかったんだろ! でもそれは叶わなかった。
 陸人さんに取られちまったからなぁ! それで八神存続のために適当に結婚したのが母さんだ!」

「それが家だ」

「所詮アンタにとって母さんは・・・ただの道具だったんだな!」

 そう吐き捨てると時雨はドアを叩き付ける様に閉め、部屋から出て行った。
 後に残ったのは、重い空気。

「正宗様、いいのですか?」

 古株の部下が正宗に問うた。

「これが僕の罰だからね。実際最初はそうだったし・・・」









 電車に乗り、目標の駅につくと蒼二は歩いた。
 ゆっくりと歩を進め、一時間ぐらい経ったころ墓の前に蒼二は居た。
 眼科には夕暮れ時の町並みが広がり、蒸し暑い風が蒼二の髪を凪ぐ。

「深雪おばさん・・・」

 記憶はほとんど薄れている。
 蒼二と遥緋が小学生の頃にあの事件は起き、蒼二と遥緋が寝ている間に終わった。
 ──あの頃は子供だったせいか、あまりなけなかった気がする。

「ん?」

 墓には真新しい花と、線香が在った。
 多分、自分の家族も今日ここに来たのであろう。

(鉢合わせしなくてよかったですね、お互いに)

(まぁな・・・って何でお前が?)

(時が来たのでお話しします、私とある男の誓いを──)

(へぇ・・・聞いてやるよ)

(私と、多分遥緋の中に居る灼那は───蒼威が作った人格です)

(・・・そうか)

(正確には蒼威が作ったと言うよりも、千島の血に眠る情報から生まれる人格の一つですね)
(数体の人格が在って緋眼継承者は本人の適性によって、大体一個の人格を生むんですよ)

(じゃあ、何で俺と遥緋にはお前らが居るんだ?)

(蒼威は、緋眼使いの中でも異質でした──私が覚えてる中で唯一共に歩もうとした者です)
(緋眼終式発動条件は──私達、もう一人が緋眼使いを認めることで発動します)

(俺の場合も、お前が俺を認めたってことか)

(そうです、そして私達の役目は普通そこで終わるのですが──私達には蒼威に未練があった)
(その辺の伝わる原理はよくわかりませんが、結果的に私達は貴方達の中に居る)

(なるほど、それは遥緋は知ってるのか?)

(灼那──灼也は馬鹿です。 宿主が変わるたびに過去の主人のことを忘れます)
(まぁ、私もあまり覚えてはいられないんですが──でも奴は蒼威が大好きでしたからね、今でも覚えていると思います)

(まぁ、いずれ伝わるって事か)

(ですね・・・)

(それで、お前の目的は何だ?)

(蒼威を守る──ただそれだけ。神代との戦いはかなり危険です。だから蒼二──)

(何だ?)

(貴方の体を、貸してください)

(ああ、いいぜ)

(・・・ありがとう、本当にありがとうございます)

(この体は・・・俺だけのモノじゃねえ・・・お前のモノでもあるんだ、それを忘れるな)

(・・・はい!)

(んじゃ、これからもよろしく頼むぜ)

(こちらこそ)

 会話を終えると蒼二は持っていた線香に火をつけ、手を合わせた。
 
(蒼二です、今は死罪六神に居ます)

 自嘲気味に、言ってみた。
 伝わっただろうか? いや、伝わってもあの人は笑ってそうな気がする。
 蒼二は立ち上がり、墓場を去ろうと方向を変えた──そして

「時雨・・・」

 ちょうど、時雨と会ってしまった。
 時雨は蒼二は見ると、軽く笑いながら言う。

「やぁ、蒼二は着てくれたのか」

 そう言い、時雨は蒼二の横を通り過ぎた。
 墓の前に着くと、時雨は体勢を屈め一分ほど沈黙。
 そして蒼二がその場を離れようとした時に時雨が呟く。

「なぁ・・・愛していた人に思われていないって嫌かな?」

「ハ?」

「親父は、今日ここに来ていない──蒼威さん達や、死罪六神のお前だって来ているのに」

「・・・・・・時雨」

「何故、一番愛してた人に来てもらえないんだっ!」

 時雨は怒鳴った。
 哀しそうに、ただ哀しそうに。

(時雨・・・)

 時雨のこんな姿を見たのは初めてだった。
 お母さん子だったのは知っていたが、それは遥緋も同じ。
 そして思う──朱音は俺が墓参りに行かなかったらどう思うかと。

「っ・・・」

 胸が痛む、朱音の悲しそうな笑顔が頭に浮かんだ。
 もし、自分があの時死んでいて、
 その後に朱音が一回も墓参りに来てくれない事を想像したら蒼二は悲しくなった。
 
「正宗さんも忙しいんじゃないのか?」

「忙しいのは分かってる・・・でもここまで車で往復一時間もかからないだろ! 何であの人は来ないっ!」

「・・・・・・わからん」

「あの人は言った・・・母さんと結婚したのは八神を存続させるためだとっ! 俺を産むためだけだとっ!」

 時雨は肩で息をしている。
 そんな時雨を見ていたら感情が動いた──同情?──いや違う、怒りだ。

「おい時雨、テメーらしくもねえぞ」

「あ?・・・俺らしくない?」

「テメーは何で正宗さんの事を鵜呑みにしてんだ、この馬鹿野郎」

「・・・言葉を・・・鵜呑み?」

「それが正宗さんの真意たる根拠はどこにある?──いつものお前なら確実に疑うだろうが」

「あ・・・」

 頭に昇っていた血がサッと引いていく。
 冷静に考えてみると、そうかもしれないという感情も浮かんできた。

「分からなかったら動け、お前の体は何のためにある?」

「蒼二・・・」

「ったく・・・何で俺が敵に説教しなきゃいけねーんだよ」

「お前が、まだ俺達側に戻ってこれる証拠だよ」

 何時の間にか時雨は笑っている。
 蒼二はその笑顔を眩しそうに見つめ──吐き捨てた。

「チッ・・・いつもの時雨に戻りやがった。やってらんねー」

 そう言うと蒼二は今度こそ振り向かずに歩き去った。
 その背中を見つめ時雨は一言。

「ありがとう」






 深夜の山道を一人の男が歩いていた。
 完全に気配を殺し、幽霊のように山道をスゥーっと登っていく。
 そして墓場の中に入り、一つの墓の前で男は止まった。

「・・・・・・今年もギリギリか」

 時計を見ると二十三時五十六分。去年よりも三分遅い。
 そして線香に火をつけ、男は屈んで手を合わせた。

「遅いですよ」

 声がして、懐中電灯が男に当る。
 暗闇に映し出されたのは、八神正宗の姿だった。

「・・・・・・何をしている」

「不審者警戒ですよ」

 懐中電灯を弄びつつ、時雨は言った。
 
「フン・・・ここにずっと居たのか」

「僕だって一年に一回は母親が恋しくなりますからね」

「マザコンに八神当主が務まるとは思えんな」

「務まるさ、父さんでも務まりましたからね」

「生意気を・・・」

 それっきり二人は黙る。
 そしてしばしの沈黙の後、時雨が言った。

「今でも母さんを愛していますか?」

「当たり前だ」

「詩歌さんよりも」

「ああ、もうとっくに吹っ切れたさ」

「ならいいです」

 それだけ言うと、時雨は歩き出した。
 
「どこへ行く?」

「帰るんですよ、僕らの家にね」

「そうかじゃあ僕の仕事をやっておけ、僕はまだここに居る」

「はいはい」

 時雨は振り向かずに返事だけすると闇の中へ消える。
 そして正宗は数十分その場でずっと立ち続けた。
 気配の無い事を確認すると、正宗は言った。

「深雪・・・君と僕の子供は立派に育ったよ・・・」

 返事が帰ってこないのは知っていた。

「君と出会えて、僕は一つずつ過去を清算していった──いや、乗り越えたのかな」

 それでも伝えたい。

「でも、後一つ残ってるんだ──前にも話したろ? 罪歌と狂の事だよ」

 自分の在りのままの──

「あの二人を助ける、今度こそ絶対に──だから、あの時僕を生かしてくれてありがとう」

 今を──



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