ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
  緋色の眼 作者:ジョン
今回で第二部は終わりです。
次は第三部です。
三部で終わりなのであと少しだけこの物語にお付き合いください。

【第二部】二十二話:終幕
闇が自分を満たしていく。
 体の中に広がり、そして外へ。
 自分の中の結晶から徐々に悪意という名のエネルギーが伝わる。
 それは人間が人間を呪う、妬む、それらの感情が世界へと散布されたモノ。
 内側を侵食しきったその悪意は外へ飛び出し形を形成した。


 ──ふーん、やるじゃん・・・俺


 ──まさか一発でオレを受け入れるなんてね


 神璽の左腕が真っ黒に染まったかと思うと、次の瞬間には四倍はある太さになる。
 黒い艶のある堅そうな篭手、そして右腕にも同様の現象が見られた。
 それは徐々に体全体の姿を変え、最後に神璽の顔に髑髏の仮面のような物が覆いかぶさって変化は止まった。


 ──ま、後は好きにやれや・・・そして一つ言っておくぜ


 ──この力はオレ──すなわち結晶を俺が完全に受け入れたって事だ


 ──これでもう俺は死ぬまでオレから離れられない、もうくっついちまったからな


 ──ま、同じ榛名神璽どうし仲良くやろうぜ


 ──って聞こえてねーか・・・まだ慣れてないみたいだな──なにより精神が不安定だ


 ──でもまぁ・・・好きにやれや


 神璽は巨大な鎧の中で右手を軽く動かす。
 すると視界の巨大な右手も同じ動きをした。

「ハハハ・・・アハハハハハハハッ!」

 神璽は笑う。
 前方では蒼威、森羅、命が刹那と戦っているがそんな事は全く気にならない。
 神璽の頭にあるのは──由加だけ。

「由加由加由加由加由加由加・・・何してやがるっ!」

 空中に固定された由加を見て神璽は怒鳴る。
 そして猛烈なスピードで四人へと迫った。









 三人がかりなのに状況は全くの不利。
 蒼威はこれほど強い式神使いとは相対した事がなかった。
 最強といわれ続けて来た自分だが、この男には勝てない──そんな思いがこみ上げてきた。
 実の両親に千島の最高傑作と言われた自分。
 それが哀しくて、自分が千島を超えたいと言う一心で今まで力を磨き上げてきた。

「もう、終わりですか?」

 刹那の周囲から雷が迸り、森羅と命が吹き飛ばされる。
 蒼威は大我を集め、一本の巨大な剣にすると刹那に向かって振る。
 しかし剣が当る瞬間刹那の姿が消え、背後から衝撃。

「ッ・・・・・・」

 刹那の腕が自分の肩を貫いているのが見える。
 蒼威は痛みに耐え、刹那へと反撃を仕掛けるが──

「転」

 自分の体が高速回転し、地面へと叩き付けられる。
 受身も取れずにコンクリートにぶつかり、意識が跳びそうになるのを必死に堪えた。

「さて、終わりかな?」

 刹那が自分を見下ろしている。
 蒼威は、唇を動かし刹那へと問う。

「楽園の力がわかったぜ・・・空間支配だな?」

「ほぉ、御名答。 天美命は薄々気づいていたようだがな」

「効果は支配した空間の中ではほとんどの事が自分の思い通り
「しかし発動までに相当時間がかかるはず、しかも結晶の力を使って力まで増大させているな」

「・・・そこまでわかったなら、俺達の事も気づいたか」

「ああ・・・お前らは、人間と悪鬼のハーフみたいなもんだろ?」

「正解だ。 まぁ・・・知られたからには死んでもらうよ」

 刹那の腕に銀色の剣。
 そしてそれが蒼威の胸に刺さろうとした時だった──

「死ねえええええええええっ!」

 雄叫びとともに巨大な闇の鎧が刹那を殴りつける。
 そして吹っ飛んだ刹那に向けて。両手を向けた。

「アハハハハハハハハハハッ!」

 両の手から一発ずつの黒い閃光──鬼砲だ。
 集束した黒の光が刹那に命中し、爆音。
 ビルが崩れ、刹那の姿は瓦礫の中へと消える。

「神璽・・・か?」

 蒼威は鎧に問うが答えは返ってこない。
 すると──

「ああああああああああっ!」

 雄叫び、次の瞬間鎧──神璽の右腕に巨大な鎌が生まれた。
 そして上を向き飛び上がると、由加の周囲の空間を切り裂く。
 斬撃が終わると、由加の体がゆっくりと落ちる。

「由加」

 神璽は手を広げ由加を乗せるとゆっくりと地上に下ろした。
 すると神璽の周囲から黒い塊がどんどんと粒子と化して消えて行き、やがて鎧は完全に消え去る。

「あ・・・」

 ようやく神璽は我に帰った。
 そして異常な脱力感、由加を押し倒すようにして神璽は地面へと倒れた。
 指一本すら動かせない、それほどの脱力感。
 すると衝撃で由加が目を覚ました。

「神璽・・・?」

 両者の顔の距離は約数センチ。
 神璽の顔が赤く染まり、慌てて離れた。

「あ、いや・・・違うんだ・・・」

「何が?」

「いや・・・その・・・」

「おい、お前ら大丈夫か?」

 蒼威が神璽と由加に声をかけた。
 
「蒼威さん・・・どうなってるんですか?」

「こっちが知りてーよ・・・刹那はどこ行った?」

「わかりません」

 三人は気配を探るが刹那の気配は無い。
 静寂が場を支配し、軽い緊張感が生まれた。
 ──そして

「やってくれるな・・・流石世界で唯一結晶に選ばれた事はあるね」

 瓦礫の中から血塗れの刹那が現れる。
 眼が血走り、妙な威圧感が三人を襲った。
 
「チッ・・・力を使いすぎたな・・・ケリをつけてやるよぉ! 【楽園】」
  
 刹那の周囲から炎、風、雷、水、四元素が吹き荒れた。
 回転し、混ざり合い、お互いを打ち消し、時には高めあいそれは巨大化した。

「──マズイッ! よけ──」

「【森羅万象】」

 刹那の声と共に、力が解き放たれ火水土風、四大の竜巻が周囲を蹂躙した。
 壊し、燃やし、凍らし、砕き、焼き、切り裂き、全てを蹂躙する竜巻は数秒で消え去ってしまう。

「ハァ・・・ハァ・・・これが限界か」

 刹那の眼前には倒れ付す蒼威、由加、神璽。
 見るからに重症を負っているが、それは刹那も同じであった。
 薄れゆく意識を必死に繋ぎとめ、由加へと近づく。

「まだ・・・完全に覚醒してないほうにするか・・・」

 由加の体を持ち上げ、歩き出す。
 そして思い出したように後ろを振り向くと指を一本上に挙げた。

「来い」

 その言葉と動作と共に、蒼二と罪歌の体から結晶が飛び出した。
 刹那は二つの結晶を手に取ると、笑顔を見せた。
 それは悪意の無い純真な年相応に見える笑顔。

「破壊したままだとマズイな・・・」

 刹那は残りの力を全て放出させ、建物を復元していく。
 やがて、町の姿が元に戻るのと同時に、楽園の効果も消えうせた。
 残ったのは、結界が消えた西区画まで響く、今も中心街で行われている祭の音だけ。











─四日後─


 京都の某所、何処までも続く山間部を一台のスクーターが走っていた。
 農道をダラダラと走るそのスクーターはある一定の場所に近づくと止まる。
 目の前には上が見えないほど長い階段。
 運転者はスクーターのエンジンを切り、キーをかけるとゆっくりと階段を登り始める。

「こんな国だけど、此処だけは変わらないな・・・」

 数分後、階段を登り終えた男は、広大な土地を見つめた。
 見渡す限り山、その奥にいくつかの建物が見える。
 男はそれを一瞥すると、屋敷へ向かって歩き出す。

「ここは使用人は居ないのか?」

 全く人の気配がしない。
 しかし、彼の良く知る気配はとても濃密に漂っている。
 
「ま、リーヴスラシルを見れればいいか」

 気軽に流す男。
 そして屋敷に入ろうとした直前、急に景色があやふやになった。
 一瞬の浮遊感、次の瞬間には男は建物の中に立っている。
 男は全く動じることなく、軽口を叩いた。

「便利だな、できれば階段前に転送して欲しかったね」

 痛々しい姿で正面のソファーに座っている姿を見ながら男は笑った。
 正面のソファーに座っているのは神代刹那。
 体中を包帯で巻き、脱力したように座っている。

「随分やられたみたいだね」

「強敵だったからな・・・甘く見てたらこのザマさ」

 自嘲気味に笑う刹那。
 男もその笑いに答え、軽く笑うと刹那の正面のソファーに座る。
 男が座ったのを見ると、刹那は改めて歓迎の言葉を紡ぐ。

「ようこそ【スルト】──いや、今はこう呼ぶべきかな? 千島 藍」

 千島藍と呼ばれた男は懐かしい名前を聞くと更に笑った。

 















+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。