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  緋色の眼 作者:ジョン
はい、第七話です。
そろそろ大学も修羅場へ突入しそうなので
また不定期に投稿になるかも知れません。

【第二部】七話:時雨と誠一


深夜十時。


「ママーお腹すいたー」

「もうちょっと待ってね、蒼威君がまだ帰ってこないから」

「お父さんどこへ行ったの?」

「知らない、パチンコじゃない?」

 フーンと鼻を鳴らすと遥緋はTVをつけて見始めた。
 そしてしばらくTVを見ているとドアの開く気配がした。

「ただいまー」

「お邪魔します」

(お客さん?・・・しかも女の人の?)

 ドスドスと廊下を歩く音がして今の扉が開いた。
 そこにはいつもと変わらない姿の蒼威と、見知らぬ女が居る。

「遥ちゃーん! 今日からこの子を預かることになった! ヨロシクゥ!」

「え・・・」

 遥緋が呻くと、台所の方から蒼威に向かって包丁が飛んできた。
 その包丁は蒼威の首筋から一センチ程度の場所へと突き刺さる。

「あはは・・・彼女は何を怒っているのでしょうか?」

 冷や汗をたらしながら蒼威は遥緋に聞く。

「さぁ?」

「・・・由加ちゃん、理由がわかる?」

「さぁ?」

「・・・蒼二が出て行きたくなった理由がわかるわ・・・こうも女ばかりだとね」

 ボソボソと呟く蒼威。
 するとキッチンから料理を持った遥が笑顔で由加に言う。

「あらら? 随分と可愛らしいお客様ね、まぁ座ってくださいな」

 遥に促されて由加は遥緋の正面へと座る。
 そして遥は蒼威を睨みながら言った。

「ちょっと来なさい」

 耳を引っ張りながら廊下へと引っ張る。
 そして数秒、何かを殴るような音と小さな悲鳴が聞こえてきた。
 
「私のせいであるのか?」

 由加が問う。

「いや・・・アレはウチのお父さんが悪いよ」








「と、まぁ色々あってこの子を預かることになったのよ」

 食卓につく一同。
 メンバーは、蒼威、遥、遥緋、由加、時雨の五人である。

「この子が棗 由加だと」

「時雨、お前居たんだ・・・何でそんな痛々しいカッコしてるんだよ?」

「蒼二と戦って怪我を・・・」

 顔を俯かせ、時雨は小さな声で言う。
 すると蒼威は案の定爆笑した。

「ハハハハハッ! お前・・・あんなガキに負けたのかよ! ダサ」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「あれ?」

 固まる食卓。
 
「千島蒼二は私知ってます、死罪六神の中でも最強クラスらしいですね」
「まぁ、八神の当主代理程度が勝てる相手ではありませんよ」

「程度・・・」

「貴方、墜式使えないんでしょう?」

「・・・ああ」

「千島蒼二は終式を使える、そちらの蒼威さんも正宗さんも使える、貴方は圧倒的に不利です」
「式神名【重場】でしたっけ? アレも強力な式神とは言い難いですし」

「・・・わかってるさ」

「ただ、貴方の判断能力や指揮能力は評価します。実際私も何度か本当にピンチでしたし」

「それはどうも・・・というか何故君は緋眼についてそんなに詳しいんだ?」

「私達の育ての親が一時期貴方達の事を研究してましたから」

「なるほど」

 それっきり沈黙が訪れた。
 食器と箸を動かす音だけが響き、非常に重苦しい。
 すると遥がその沈黙を破った。

「それで、由加ちゃんはどこの寝室を使うの?」

「ん? 蒼二の場所に決まってるじゃないか」

「蒼二の部屋は時雨君が使うんじゃないの?」

「・・・あ」

「本当に馬鹿ね・・・陸人君みたい」

「し、時雨が存在感薄いのが悪いんだよ!」

 その言葉に時雨が更に俯いた。
 蒼威があちゃーという顔をし、他の一同は無言で蒼威を睨む。

「私はどこでも構いません、雨露しのげる場所でしたらどこでも」

「いや、お客さんをそんな目にあわせるわけにはいかない! 遥緋、お前の部屋でいいな?」

「あー・・・うん、まぁ・・・」

「お世話になります、何か問題点があれば言ってください」








 遥緋の自室へ行くと沈黙が訪れた。
 由加は黙って部屋の隅に座っているので遥緋としても話しかけ辛い。
 それでも遥緋は話題を探して話しかけた。

「年齢はいくつなの?」

「・・・女性に年齢を聞くというのは失礼ではありませんか?」

「あ・・・ごめんなさい」

「冗談です、そろそろ16歳になりますね」

「ああ、じゃあ年は一緒だね。兄妹とかは居るの?」

「本当の兄妹の事は覚えてません、ただ・・・兄妹同然に育った人ならいます」

「へぇー」

「この街の高校に通っているのですが、知りませんかね?」

「うーん、何て名前の人?」

「榛名神璽と言います」

「榛名君!?」

 予想外の名前に遥緋は座っていた椅子から転げ落ちそうになった。
 頭の中に蘇るのは、クラスでヘラヘラと笑っている神璽の顔。

「知ってるのですか?」

「うん、同じクラスだよ」

「ほほぉ・・・何たる偶然でしょうか」

「こっちだってビックリだよ」
  
「学校での神璽はどんなですか? 苛められたりしてませんか? クラスで孤立してたりしませんか?」

 由加の目に本気で心配の色が宿った。
 
(ハハハ・・・榛名君ってそんなイメージだっけ)

 クラスでの神璽はどちらかというと中心に居るタイプであった。
 よく女の子とも話すし、昼休みや放課後も友達と遊んでいる姿も良く見かける。
 確か上級生からはナンパ野郎とか言われていた気がする・・・

「うーん、女好きで遊び人のようなイメージだね」

「! 女好き?」

「うん、クラスの男の子から聞いたんだけど確か四股ぐらいかけてるって」

「フ・・・フフフフフフ」

 突然笑い始めた由加。
 由加からは凄まじい怒りのオーラが迸っており、見るもの全てを威圧している。
 そして由加は遥緋に向かって一言。

「遥緋、明日貴女の学校へ行きます!」

「え?」












 千島家二階の蒼二が使うはずだった部屋。
 その中で時雨は一人座禅を組み、瞑想していた。


(俺は・・・俺は・・・)


 蒼二に負けた事が悔しくてたまらない。
 由加に指摘された事も悔しくてたまらない。
 そして・・・目標にしてきた人に頼られていない事もわかってしまった。

(遥緋のほうが強いからな・・・)

 時雨から見ても遥緋はここ二年で肉体、精神共に強くなった。
 だが自分はどうだろうか?
 自分はこの二年間で何か変わっただろうか?

 そして脳裏に蘇るのは母親の最後の姿。
 血を流し、必死になって自分をかばう母の姿。
 何ど助けてと願っても母が死ぬまで父親は現れなかった。

(あの時誓ったじゃんかよ・・・俺は誰よりも強くなるって)

 忘れてた、八神の仕事に忙殺されてたから
 忘れてた、蒼二と遥緋の教育が楽しかったから
 忘れてた、何時の間にか自分で限界を作ってたから


─時雨、お前は八神の跡継ぎだ・・・しっかり生きなさい─



 初めての実践前、祖父が言った。



─時雨、貴方は優しい子、何かを守るための戦いが貴方には似合ってるわ─



 初めての実戦の後、母が言った。



─俺は正宗が憎い、八神が憎い、だからお前も憎い─



 祖父と母を殺した後、叔父─八神村雨が言った。



─時雨、母さん達はもう居ない・・・強く生きるんだ─



 叔父を殺した後、父が言った。







「──?」

 気配がして、時雨は目を開けた。
 見ると、蒼威が自分の方を見て笑っている。


「・・・何か御用ですか?」

「時雨、強くなりたいか?」

「・・・はい」

「んじゃ、ちと付いて来い・・・稽古つけてやる」

「は、はい!」

 
 蒼威と共に夜の街をひたすら歩く。
 途中で電車に乗り、降りた先にはどこかで見た光景。

「ここは・・・蒼威さん達が昔棲んでいた街」

「おう、んであちらに居るのがスペシャルゲストだ」

 そこには海野誠一が居た。
 長身、黒髪のガタイのいい男であり、ギラギラとした目をこちらへ向けている。

「おいおい、蒼威よ・・・オレサマをこんな所に呼び出して何のつもりだよ?」

「いやぁ・・・ちょっとこの子に稽古をつけてもらおうかと思いましてね」

「なるほどな、まぁ・・・仕事は空に押し付けてきたからいいや」

「空先輩・・・相変わらず苦労してそうっすね・・・」

「ハハハハハハハハハハ、っと早速始めるか」

「ここでですか!?」

「え?」

「とりあえず陸人の家に行きましょうよ」

「あ・・・そ、そうだよな! ここで修行なんておかしいもんな」

(大丈夫かよこの人・・・)

「あ? 何か文句あっか?」

「いえ、特に」

 時雨はそう頷くと考え出した。
 海野誠一、元池袋の狂犬であり、
 蒼威ですら一回しか勝ったことがないという最凶最悪の男。
 そうずっと聞かされてきたので、腕は信用している。

「痛ぇ!」

 電柱に頭をぶつける誠一を見て時雨は改めて思った。
 
(この人、大丈夫かよ・・・)











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