第十八話:ありがとう
「さて・・・もう話す事も無いでしょう。行きますよ!」
刹那と瞬が動き出す。
ナナシ─此方は黙って俯いている。
「彼方、お前はここで罪歌を牽制しなさい」
「はい・・・」
包帯塗れの体で返事をする彼方。
少し遅れて刹那も乗っていた屋根から飛び降りた。
刹那は大地に降り立つと、凄まじい速さで狂へと迫った。
「貴方には式神を使う必要はありませんね」
それは人間の速さではない。
緋眼使い並みの速さで刹那は蹴りを放った。
狂は緋眼を発動させ、蹴りを回避すると距離を置いて風の刃を放つ。
「フン」
風の刃を刹那は片手ではじいた。
そして狂の顔が驚愕に染まり、口から言葉が漏れた。
「あ・・・ありえねぇ・・・」
「ありえない? 貴方の常識でそんな事言わないでほしい」
そう言うと、刹那は一瞬で狂の目の前まで迫り、殴りつける。
更に一発、もう一発、もう一発、もう一発、もう一発。
凄まじい速さで狂の肉体に拳を打ち込む。
「ガハッ・・・」
白目をむいて、口から血と泡が混じった物を吐き出す。
刹那は狂の首を掴み、持ち上げると狂の衣服を漁って結晶を探す。
「フフフ・・・随分いい感じになってますね」
そして、刹那の手に結晶が握られた。
瞬は剣菱へと迫り、ハルベルトを振るう。
(血を失いすぎたな・・・意識が朦朧とする)
剣菱はそれでも瞬のハルベルトを避け続けた。
「クッ・・・」
苦し紛れに一発天照を放つ、が簡単に回避されてしまう。
「おいおい、どうしたぁ・・・真砂の長男だろ?」
瞬のハルベルトに軽く身を裂かれた。
新たなる痛みが体を襲い、意識が飛びかける。
しかし、容赦なくハルベルトは時に突き、払い、凪いでくる。
「オラオラァ!」
ハルベルトを高速回転させその遠心力を利用して頭上から叩きつける。
剣菱は腰の刀を引き抜き、鍔でハルベルトの刃を受け止める。
「あ? んだそのショボくれた剣はよぉ!」
瞬は残壊の力を発動させた。
次の瞬間、剣菱の体にいくつもの裂傷が生まれ血が噴出す。
「ガ・・・ハッ・・・」
剣菱は倒れた。
瞬は剣菱の体を蹴り飛ばすと仰向けにさせた。
そして傍にしゃがみ込み懐を調べた・・・すると感触。
「お、あったあった」
瞬は結晶を掴むとニヤリと笑う。
(僕は・・・僕は・・・ナナシ・・・神代此方)
ナナシは記憶も何もかも全て取り戻した。
それは忘れたい記憶、最悪の記憶であった。
(まさか・・・死罪六神結成の理由を自分で作っていたとは・・・)
罪歌達に顔向けが出来ない。
自分が・・・自分の一族が彼女達の運命を狂わしたのだから。
顔を上げる。
狂が刹那によって倒された。
心の中で何かが燃え上がる。
剣菱が瞬によって倒された。
激しい、激しい何かが暴れだしそうである。
罪歌が彼方の凶弾に狙われている。
そして神代此方─ナナシは悟った。
「さて・・・後は秋月罪歌、貴女だけですよ?」
刹那が笑いながら罪歌に告げる。
罪歌は虚ろな眼で刹那を睨むが、限界が近づいているのかすぐに視線を下げた。
「では、ここで一つ元気の出るお話をしてあげましょう」
「・・・?」
「秋月家を滅ぼしたのは・・・私達神代です。」
「・・・・・・!?」
罪歌は顔を上げた。
「ほぉら、元気が出た」
刹那が笑う。そして続けて瞬と彼方も笑い出した。
「アハハハハハハハ!」
「ダハハハハハハハ!」
「ハハハハハハハハ!」
響き渡る笑いの三重奏。
そして罪歌は震える声で呟いた。
「嘘・・・アレは・・・悪鬼に襲われて・・・」
「ああ、アレは偽装ですよ。一匹残してあった悪鬼は此方が作った物です」
刹那は此方にこっちへ来るように促す。
此方はゆっくりと立ち上がると刹那たちの下へと移動した。
「う、嘘よ・・・嘘だよ・・・・・・何で・・・何で・・・秋月が滅ぼされなきゃならかったのよ」
「結晶の存在を知り、破壊しようとした馬鹿な一族だからです。
今日滅んだ、御崎も結晶を知ってしまったのですよ・・・だから滅ぼしました」
面白そうに刹那は告げる。
罪歌の一つ一つの反応が面白くて仕方が無い感じである。
「ちなみに秋月を滅ぼしたとき、此方が我々に反乱を起こしたのですよ。
そこで私が手を下したわけですが・・・何やら記憶を失って生き残って
居たみたいですね、しかも死罪六神に入ってね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ありがとうございます秋月罪歌、我々のために15年も働いてくれて」
全く邪気のない笑顔で刹那は罪歌は言い放つ。
そしてついに罪歌は崩れ落ちれ涙を流して絶叫した。
「ああああああああああああああああああああああああああ!!」
その悲鳴を一頻り聞き終えると刹那は此方に言った。
「さぁ、此方殺してあげなさい・・・そうすれば貴方の反乱は帳消しにしましょう」
「・・・ありがとうございます、お兄様!」
篭絡を振るって、此方は刹那の胸に突き刺した。
血しぶきが舞い散り、刹那の顔が痛みと憤怒に染まる。
「此方ぁ・・・き・・・貴様ぁ・・・!!!!」
「ハァ? 此方? 誰それ? 僕は死罪六刃─第五位屍王ナナシだ!」
「ナナシ・・・」
「こんな事で僕が罪歌ちゃんと狂君にした事は許されない・・・でもこの野郎は許せない!」
ナナシが笑顔で罪歌に告げる。
そして瞬が刹那に歩み寄り囁く。
「アニキ!」
「うるさい・・・大丈夫だ・・・此方ぁ!!! 貴様だけは殺してやる!」
刹那の絶叫と共に腕の色が赤黒く染まり、二倍以上に膨れ上がる。
そして刹那はナナシへと向かって走る。
「罪歌ちゃん・・・狂君・・・剣菱君・・・暁兄ぃ・・・村雨さん・・・ありがとう・・・」
刹那の腕がナナシの胸部を貫く。
肉片や血が飛び散り、ナナシは目を瞑った。
「死ね! 死ね! 死ね!」
刹那は腕を引き抜き、ナナシを殴りつけた。
「やめてぇ!」
罪歌の炎が刹那を包み込み、焼き尽くそうとする。
しかし、刹那は高速で移動すると射程範囲から逃れた。
そして、膝を突き体中から血を流し倒れこむ。
「アニキ!」
「兄さん!」
瞬と彼方が刹那を抱きかかえ、応急処置を始めた。
傷口の出血が酷いが、だんだんと傷が治癒されていくのがわかる。
彼方が包帯を巻いて止血すると、瞬は立ち上がって罪歌に言う。
「残りの二つは預けておく、いつか取りに行くからな」
それだけ言うと、瞬は刹那を抱えて彼方と共に闇へと消え去った。
そして一人残された罪歌は走ってナナシの下へと駆けつけた。
「ナナシ! 起きてよ!」
罪歌はナナシに向かって呼びかけた。
すると薄く瞼が開きナナシが返事をする。
「やぁ・・・罪歌ちゃん」
「待ってて、今止血するから」
「いいよ・・・もう絶対に助からない、というか助かりたくない」
「何でよ!」
「僕は・・・罪歌ちゃんの人生を変えた一族だよ・・・もう生きているの嫌なんだ」
「そんな事はいいの! 私は・・・私はもう・・・仲間に死んでほしくない・・・」
「・・・ありがとう、罪歌ちゃん。何か救われた気がするよ」
そう言うとナナシは笑顔で眼を閉じた。
今までの思い出が走馬灯のように蘇る。
初めて会った日、始めて喧嘩した日。一緒に笑った日。
一緒に罪を犯した日。一緒にご飯を食べた日、全てが楽しかった。
「救われたなら生きなきゃ!」
罪歌は涙を流しながら笑顔でナナシに言う。
しかし、ナナシはもう眼を開けることはなかった。
「ナナシ・・・? ねぇ・・・ナナシ!!」
罪歌は尚も呼ぶが、ナナシは眼を開かなかった。
次回で第一部終了です。
そして灼那と悲煉の話を一話入れて
第二部へと突入します。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。