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  緋色の眼 作者:ジョン
ついに緋眼終式を開眼した蒼二。
その力を以て瞬と彼方と再び対峙した。
第十六話:誓い
 世界が遅い。
 そして俺だけが普通。
 蒼二はその世界を動き出す。

 一歩、また一歩。

(クッ・・・)

 多分通常の世界では信じられない速さで動いているのだろう。
 脳が焼ききれそうで、体がギシギシと悲鳴をあげているのがわかる。
 そして迫り来る瞬と彼方を睨みつける。

(死ね)

 蒼二はすれ違い様に彼方の右腕を切り飛ばした。
 そして背後へ回ると、紅雪を背中に突き刺す。
 紅雪をゆっくりと引き抜き、しばらくすると彼方から大量の血が迸った。
 そしてそれが・・・限界だった。
 脳の限界が近づいてきた事を悟ったので緋眼を解除する。

「ギャアアアアアアアアアアアア!!」

「彼方!」

 辺り一帯が血に塗れている。
 血を撒き散らし痛みに絶叫する彼方を瞬が介抱していた。
 
「殺してやる・・・お前・・・絶対殺してやるからな!」

 怨嗟の篭った視線で彼方は蒼二を睨みつける。
 そんな彼方を蒼二は冷めた瞳で見つめ、言い放つ。

「哀れだな・・・」

「・・・一旦引くか」

 瞬が彼方を抱えて走り出す。
 蒼二は追いかけようとするが、やめた。
 否、追いかけられなかったのである。
 
「あーあ・・・スゲエリスクの力だなぁ・・・おい」

 蒼二の足からは内出血した血が外まであふれ出ていた。
 緋眼終式に蒼二の体がついてこれなかったのである。
 
「チッ・・・早く朱音の所へいかねえと・・・」

 そう呟くと、傷ついた体を引きずって再び進む。

「お兄ちゃーん!!! 千島蒼二は居ますかー!」

 遠くから声が聞こえた。

(遥緋!? ・・・何であいつがこんな所に)

 妹はこんな血なまぐさい世界の住人じゃない。
 もっと・・・明るくて優しい友達や家族達に囲まれた明るい世界の住人だ。
 あんな気が弱くて泣き虫な奴が居ていい場所じゃない。

 蒼二は遥緋の性格が嫌いではあったが、妹としては嫌いではなかった。
 自分のせいで学校で浮いてしまっている妹。
 自分のせいで何度妹の心を傷つけたかわからない。
 
(クソ・・・)

 蒼二は走り出した。








 走って、走って、走って、走って、遥緋はやっと御崎家本邸へと辿り着いた。
 視界は・・・地獄絵図と言ったほうが良いだろうか。 
 噎せる様な血の匂いと人間だったモノがそこら中に散らばっている。

「うぇ・・・」

 込み上げてきた吐き気を遥緋は抑えた。
 ここで吐くという行為は死んでいった者達への侮辱だと思ったからである。
 そして遥緋は大声で兄を呼んだ。

「お兄ちゃーん!!! 千島蒼二は居ますかー!」

 試しに呼んでみたが返事が無い。
 そして・・・おぞましいましい気配が辺りに充満した。

「何か・・・居る」

 腰に携えた小太刀を引き抜き遥緋は身構えた。
 
「ヴォォォォォォォォォォッ!!!」

 人とは思えないような声が響き渡り、御崎家本邸が崩れ落ちる。
 そこに居たのは巨大な黒い鎧武者。
 そしてその鎧武者の横には着物を着た女性。

「─────!」

 鎧武者が空を裂き遥緋に迫る。
 遥緋は緋眼を発動させ、鎧武者の攻撃を回避した。
 しかし、鎧武者はすぐに反応し、刀を引き抜いて迫ってくる。

「くっ・・・」

 鎧武者と遥緋の刀がぶつかり合う。
 遥緋は輪廻転生を発動させると、鎧武者の腹に蹴りをぶち込む。
 
「─────!?」

 輪廻転生の分解の力によって砕け散る鎧武者の胴体。
 すると遠くに居た着物を着た女性が人間離れした速さで遥緋に迫る。
 遥緋も走り出しその人物に迫る。

「シャァァァァァァァァッ!」

 女性の鋭い爪が遥緋の上段を駆け抜け、髪の毛が数本飛ばされた。
 回避した遥緋も、小太刀を閃かせ首筋を切断しようとするが受け止められてしまう。
 しばしの膠着状態、そして月明かりに照らされて女性の顔が一瞬見えた。

「この人・・・服屋のお姉さん」

 東京へ来た日に、兄に似た人と一緒に居た女性。
 何で・・・何でこの人がこんな所に。
 するとパニックに陥りそうになった遥緋に女性─朱音が言う。

「・・・・・・タスケテ・・・」

 涙を流しながら朱音は言った。

「たす・・・けて?」

 遥緋が聞き返すと朱音は爪で着物の胸元を引き裂く。
 そこには醜悪な顔をした悪鬼がいた。

「これは・・・寄生型悪鬼・・・」

 始めて見る寄生型悪鬼のおぞましさに遥緋は目を背けた。
 
「タスケテー!!!!!」

 遥緋が油断すると、朱音は再び咆哮を上げ遥緋を強引に殴りつけて吹っ飛ばす。
 数メートルは吹き飛ばされただろうか、遥緋は痛みを堪えて起き上がる。
 影から三体の鎧武者が出現し、こちらへと迫る。
 
「遥緋!」

 上空から自分を呼ぶ声が聞こえた。
 そして天から降った三本の銀色の剣が鎧武者たちに突き刺さる。
 そして銀色の羽を纏った・・・蒼威が降り立った。

「お父さん!」

 遥緋は父の名を呼ぶ。
 すると蒼威はニヤリと笑うと遥緋に言う。

「よく頑張ったな、遥緋」

「あ・・・うん、うん!」

「後はパパに任せなさい」

 そう言うと蒼威は朱音を見る。
 そして心から気の毒そうな顔をして言い放った。

「朱音君か・・・久しぶりだね・・・」

「・・・アオイ・・・チシマアオイ・・・・・・」

「君は優しい子だった、強大な力を持ちながら人を傷つけるのが嫌いだったね
 でも・・・すまない・・・恨んでくれて構わない・・・僕は君を殺す」

「・・・コロシテ・・・ヤクソクマモリタカッタケド・・・モウコロシテホシイ
 コレイジョウ・・・コロシタクナイ・・・モウイヤ・・・」

「・・・・・・わかった」

 蒼威の手に全ての大我が集まり、一本の剣となった。
 そしてその剣の刀身部分に化け物のような顔が生まれた。
 大きな口、鋭く尖った牙、爬虫類を思わす瞳。

「お父さん・・・待って!」

「・・・どうした遥緋?」

「私の力なら・・・あの人を救えるかもしれない」

「輪廻転生の再生と分解の力か・・・いいだろう、やってみろ」

「うん」

「俺が道を開く、お前は気にせず進め!」

「はい!」

 遥緋は勢いよく返事をすると緋眼を発動させ、走り出す。

「うおおおおおおおおおっ!!!」

 蒼威の持っていた禍々しい刀が鎧武者を食いちぎって併走してきた。
 何本もの首に別れて、次々と影から生まれる鎧武者を喰らい尽くす。
 
「届いて・・・届いてぇ!!!」

 遥緋の手が朱音の胸の悪鬼に触れる。
 まず輪廻転生の分解の能力を発動した。
 悪鬼の全ての構成を脳内で認識し、それを分解させる。
 そして再生の能力を使い、失われた朱音の体組織を認識し元に戻す。
 遥緋にはなんら仕組みがわかっていないが、それが彼女の式神の力であった。

「・・・・・・成功・・・?」

 朱音の胸元を見ると見ると傷が塞がり、美しい肌が現れていた。
 そして倒れこんだ朱音の体を遥緋は優しく抱きとめた。

「大丈夫ですか?」

 朱音に問いかける遥緋。
 すると蒼威が近くまで来た。

「遥緋・・・よくやったと思うよ・・・」

 娘の肩に手を置いて蒼威は言う。
 すると朱音が目を覚ました。

「ああ・・・ありがとうございます・・・私ならもう大丈夫ですから」

 朱音が笑顔で遥緋に言った。
 すると蒼威が遥緋の腕を引っ張りながら言う。

「さぁ・・・遥緋、もう行こう」

「え?・・・この人大丈夫なのかな?」

「私なら大丈夫です」

 遥緋が心配そうに言うが
 朱音の笑顔に拒否感を感じたので大人しく下がって蒼威と共に歩き出す。
 そして朱音は蒼威に言う。

「蒼威さん・・・お優しい娘さんをお持ちですね」

 朱音の言葉に蒼威は振り向かずに言い放った。

「君は・・・いや・・・ありがとう」

「いえいえ、こちらこそ・・・」

「何の話?」

 遥緋は二人に問うが、黙殺された。
 そして蒼威が羽を展開し、遥緋を抱き上げて飛び去った。
 後に残された朱音は呟いた。

「16年か・・・短い生涯だったな・・・」

 輪廻転生で悪鬼に操作される事はなくなったが、朱音の体は限界を迎えていた。
 着物の下は傷だらけであった、暁や瞬や悪鬼状態の時に負った傷が体を蝕んでいる。
 朱音は地面に寝そべって星を見上げた。

「あーあ・・・最後くらい・・・・・・・・・蒼二君・・・ごめんね」

 視界が霞んできた。
 自分の世界の終わりを感じる。

「朱音!!!」

 意識が現実へと引き戻される。
 首を動かして横を見ると愛しい愛しい人の姿。
 その姿に、心の中で塞き止められてきたものが一気にあふれ出した。

「蒼二君・・・」

 血相を変えた蒼二は朱音を抱き起こした。
 涙が止まらない・・・まだ別れたくない・・・一緒に居たい。
 そんな表情であった。

「朱音! しっかりしろよ! 死ぬんじゃねえぞ!」

「ごめん・・・」

「遥緋と親父がさっき居たよな! あいつらにやられたのか!?」

「違う・・・遥緋ちゃんは・・・私を悪鬼から解放してくれた・・・
 私・・・神城の奴に・・・・・・・寄生型悪鬼を打ち込まれて・・・いっぱい殺して
 ・・・大好きだった一族の皆を・・・子供も・・・大人も・・・皆殺しちゃった・・・」

 涙を流しながら語る朱音。
 蒼二も同じく涙を流しながら朱音に言った。

「悪くないよ・・・朱音は悪くない!・・・悪いのは・・・神代と悪鬼だよ!」

「蒼二君・・・約束守ってください・・・私の事何かすぐに忘れていいから」

「忘れないよ! 忘れるもんか!! 絶対に忘れない」

 絶叫する蒼二・・・しかし朱音の命の火はもう尽き掛けていた。
 だんだんと冷たくなっていく朱音の体を蒼二は力一杯抱きしめた。

「蒼二君・・・大好き・・・貴方と会えて私は幸せだった」

「行かないでよ! 俺を一人にしないでよ! 
 もう一人ぼっちは嫌だよ!俺には・・・朱音しか居ないんだ!」

 叫び終えると朱音はもう動かなかった。
 そして心の中で何かが崩れていくのを蒼二は感じた。
 しばらく呆然としていると・・・やがて蒼二は立ち上がって周りを見渡した。

 黒い炎や雷や風が踊っていた。
 多数の悲鳴が響き渡り、混沌とした世界が見える。

(こんな世界・・・・・・・朱音を殺した世界なんて!)

(闇に堕ちたっていい・・・全ての悪鬼を殺してやる・・・)

 憎悪を込めた視線で世界を睨む。
 そして虚空から紅雪を取り出すと、地面へと突き刺した。

「お前らが・・・お前らなんて居るから──────っ!!!」

 絶叫と共に蒼二は全ての力を開放した。
 辺り一帯から巨大な氷柱が地面から突き出していく。
 その力は留まる事を知らずに御崎家の敷地全土へと広まっていった。
 





後二話ぐらいで御崎家編終了です。
今回もお読みいただきありがとうございました。
感想、採点まってますw


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