第十四話:名前
斬って斬って斬って斬って、蒼二は突き進む。
八神も悪鬼も関係無しに障害は切り捨てていく。
(早く・・・早く会わなきゃ・・・ん?)
銃声が聞こえて、蒼二は立ち止まった。
何故か胸騒ぎがする。
そして、蒼二は慌てて方向転換をした。
(チッ・・・思ったより疲労が溜まってるな)
さっきの蒼威の剣を打ち返したときに全力を使ってしまった。
その事を後悔するが蒼二は構わず走った。
青色の古いバイクが御崎家を疾走していた。
十年以上前の古い型で、【翡翠】と言う文字が車体に刻まれている。
乗っているのはライダースーツを着た陸人である。
そして、悪鬼をバイクで吹き飛ばしながら時折止まって腕を振るう。
「チッ・・・何で悪鬼まで居るんだよ」
赤い手甲を振るうたびに、各所で爆発が起き炎上していた。
陸人の式神の力である。手甲を振るうとその直線状のどこかを爆破できる力。
「あー・・・あっちの方になんかスゲーの居るなぁ」
巨大な黒い骸骨を見上げながら陸人はぼやく。
そしてバイクを旋回させると黒い骸骨の方へと向かおうとする。
「何だ、ニワトリ君か・・・来てたのかい?」
この・・・クソムカつく声は・・・
突然響いた声・・・陸人は青筋を立てながら振り向いた。
そこには二本の日本刀を抱えた正宗が案の定立っている。
「やっぱ、テメーか・・・」
「中々頑張ってるじゃないか、少し見直したよ」
「・・・俺は喧嘩は好きだけど殺し合いは好きじゃねーんだよ
だったら手っ取り早く終わらして酒でも飲んでいてーの!」
「ま、僕もそれは同感だね。でも僕には罪がある・・・だから逃げない」
「罪、ね・・・」
バイクに跨ったまま俯く陸人。
正宗も居心地悪そうに遠くを見上げた。
そして・・・次の瞬間、正宗に向かって巨大な火球が飛んできた。
「ククク・・・見つけたぜぇ・・・正宗!」
「正宗・・・裏切り者め・・・」
上空に浮かぶ、狂と罪歌。
罪歌は無表情であり、対照的に狂は楽しそうに笑っていた。
そして陸人が呆れたように言った。
「おいおい・・・正宗ぇ・・・お前やっぱ真性ロリなのな。こんなガキにナニしたんよ?」
「・・・・・・うるさい」
わかっている、罪歌と狂が自分を恨む気持ちはわかっている。
正宗の心の中は張り裂けそうであった。
しかし・・・
「来い、狂・・・罪歌・・・君たちの恨み、僕が全て引き受けよう」
「お前らやめろぉ! 今は人間同士で争っている場合じゃないだろ!」
御崎家の式神使いの振るう剣を避けながら時雨は怒鳴る。
しかし肝心の相手は時雨の言葉に耳も貸さない。
「うるさい! ・・・弟が・・・弟が・・・お前らに」
式神使いの剣が湾曲し時雨を追尾してくる。
どうやら剣の形を変化する事の出来る式神らしい。
時雨はとっさに腰から刀を引き抜き、剣を弾く。
「・・・悪鬼を討滅するのが俺達の本当の使命だろうが!」
時雨は重場を発動させ、指先を式神使いに向ける。
そして次の瞬間、式神使いが凄まじい速さで吹っ飛び
木に叩き付けられて動かなくなった。
重力のかかる向きを自分の指先から相手の方へと変えたのである。
「殺されたから殺し返すのかよ・・・馬鹿野郎」
そして時雨は近くで戦っていた遥緋の方を見た。
「遥緋・・・」
遥緋の周りには数人の式神使いが倒れている。
彼らは全員気絶していた。遥緋の輪廻転生で分解されたのであろう、
そこら中に粉々に砕けた式神の破片が散らばっていた。
「時雨ちゃん・・・行こう。 私、もうこんなの嫌だよ」
「ああ・・・」
二人は進む。御崎家の本低へと向かって。
遥緋はもう、人同士で傷つけあうのは嫌だった。
元々争い事が嫌いで弱気な性格のため本当はこんな事は嫌なのである。
(それでも・・・私は戦う・・・大切な人が今も戦っているから)
足が痛い、胸が苦しい、全てを無視して二人は走る。
そして・・・御崎家の屋敷が近くに見えてきた時だった。
「ギャァァァァァァ」
悲鳴が聞こえ、闇の中から数個の人影が現れた。
出てきたのは、八神家の黒装束を着た男である。
「・・・信二さん、竜泉さん、総一郎さん」
時雨は絶命している三人の名前を呼ぶ。
彼らとは共に笑いあい、18年間同じ家で生きていた者だ。
好きな音楽のジャンルや、酒の銘柄までも時雨は覚えていた。
「この傷口・・・真砂剣菱か」
「うむ。その通りだ・・・八神時雨」
暗がりの中からゆっくりと剣菱が歩み出てくる。
そして射殺すような視線を時雨と遥緋に向け、立ち止まった。
「中々強き者達だったな・・・正直殺すのが惜しかった」
「・・・そんな事を言っても、もう意味は無い・・・」
「貴様等も我々真砂家に同じ事をしたのだ・・・」
睨み合う剣菱と時雨。
二人は会話しながら相手の隙を探り続けた。
「わかってるさ・・・おい、遥緋・・・君は先に進め」
突然の時雨の言葉だが、遥緋は軽く頷くと走り出した。
時雨は横目でそれを見送ると笑う。
「中々、気持ちのいい子だな」
薄く笑いながら剣菱は言う。
時雨も笑みを崩さぬまま返す。
「当然さ・・・僕の一番弟子だからね」
「ほぉ・・・」
「まだ子供だけどね、でも・・・あの子達は緋眼に愛されている」
双子が初めて緋眼を使った時、時雨は素直に驚いた。
千島の緋眼はもう一つの人格しか使えないはずである。
それを始めて崩したのが彼らの父親、千島蒼威が高校生の頃であった。
しかし彼らは初めてで、もう緋眼を完全に制御していたのである。
「同意見だ・・・あのような素材が・・・それも二人も同時に居るとはな」
「フン・・・それでは始めようか・・・八神と真砂どちらが優れているのかを」
時雨が刀を抜きながら言う。
「そして、我が悲願の復讐を果たすためにな!」
剣菱は懐からビンを取り出し、中の液体を飲み干した。
巨大な黒い骸骨が夜の森に立っている。
闇に溶け、闇に染まった黒い体・・・その下には大量の同じ黒い骸骨の悪鬼。
八神、御崎の者達はだんだんと追い詰められジリジリと後退していた。
「アハハハハ! 死ねよ! 僕達の邪魔をする奴らなんて要らないよ」
ナナシが骸骨の上に乗って黒い玉を篭絡から飛ばしながら笑う。
徐々に悪鬼の数が増えていき、辺り一帯は骸骨に埋め尽くされていた。
そして地上では・・・
「あー・・・死にたくない奴は俺の後ろに下がっててくれ」
蒼威が唐突に周りに居た者たちに呼びかける。
すると、御崎の者がすぐに反論する。
「貴様に何ができる! こんな数の悪鬼を消せるとでもいうのか!?」
「ああ、全部とはいわねーけど半分以上は消せるぜ、ほらほら下がって」
反論した男を押しのけると、蒼威は大我を発現させた。
そして蒼威のやる事をよく見ていた八神家の者は慌てて避難しはじめる。
「逃げろ!・・・アレが来るぞ!」
「ボサっとしてんな! 死にたいのか!」
事態が掴めない御崎家の者を後ろへと下げる。
それを確認すると蒼威は十個の大我を左右に五個ずつ分けた。
大我はくっつきあい二つの巨大な球体となり羽の形を作り上げていく。
「何だぁ? やばそうだから・・・全員攻撃ー」
ナナシの命令により、小さい骸骨達が蒼威に襲い掛かる。
しかし、蒼威は余裕の笑みを崩さない。
「もう・・・遅せーんだよ!」
大我の数万本はある羽が骸骨に向かって放たれた。
凄まじい速度で発射された羽根達は骸骨を突き破り破壊の跡を残していく。
そして高い場所からそれを見ていたナナシは驚愕した。
「な・・・なんだよ・・・こんな化けモンに勝てるわけないじゃん」
ナナシは恐怖に震えた。
(何だろう・・・この恐怖・・・昔味わったような・・・)
夜・・・どこかの山奥で人を殺していた・・・誰かと一緒に。
凄い強くて・・・苦戦した気がする・・・それで・・・
確か最後に悪鬼を一匹召還させられたんだ・・・
─反逆者は要らない・・・死ね─
そこまで思い出すとナナシは我に帰った。
何時の間にか倒れていたらしく、骸骨の上に寝そべっていた。
「クソッ・・アイツはどこへ行ったんだ!」
慌てて下を見下ろすが、残っているのは少数の骸骨のみ。
しかも八神と御崎の者たちに次々と消されていく。
「おーい、クソガキ 上だ、上」
頭上から蒼威の声が聞こえ・・・巨大な剣が降ってきた。
その剣は黒い骸骨の脳天から股間までを一発で切り裂いた。
「──────────!!!!」
左右に真っ二つに割れて、崩れ落ちる巨大な黒い骸骨。
ナナシもは何とか受身を取った、が高さが高さなため地面に叩きつけられた。
(・・・う・・・右足を強く打っちゃったな・・・)
ナナシは急いで立ち上がると逃げ出す。
自分一人では絶対に勝てない・・・それを理解してしまった。
幸い、巨大な骸骨が起こした砂塵が自分の姿を隠してくれている。
「皆と合流しよう」
そう呟き、再び走り出した。
そして・・・突然砂塵の中で声が響いた。
「久しぶりだな・・・此方」
目に映ったのは白装束の黒髪の青年。
ナナシはその男の姿を見た瞬間、猛烈な頭痛に襲われた。
(誰・・・会ったことがある・・・一緒・・・悪鬼・・・彼方・・・瞬・・・刹那)
そして・・・全てを思い出した。
自分が何者で、どうして記憶を失っていたのかを。
「僕は・・・僕は・・・僕の名前は・・・神代此方・・・」
ナナシ─此方の言葉に刹那は満足そうに笑った。
はい、執筆が遅れに遅れています。
GWなのにね・・・・
今回もお読みいただきありがとうございました。
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