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  緋色の眼 作者:ジョン
第十三話:散りゆく兄妹


「アレは・・・」

 本邸から朱音は闇夜に立つ巨大な黒い骸骨を見た。
 御崎家の内部の騒ぎが一瞬だけ思考から離れる。

「朱音様! アレはいったい・・・」

「わからないわ・・・今は八神よりも悪鬼を優先して狩ってください」

「な、何故です?」

「悪鬼が居るんですよ? 人間同士で争っている場合じゃないでしょう」

「は・・・はい! ではそのように指示を出します」

 朱音は眼下で繰り広げられる光景を冷静に見る。
 一人、また一人・・・悪鬼や八神と殺しあって死んでゆく。
 しかし、だんだんと人間同士ではなく・・・悪鬼と戦ってきているようになっていた。

「流石に八神もバカじゃないですね」

 素直に朱音は認める。
 元々朱音は八神家は嫌いではなかった。
 緋眼を伝える最後の一族になっても彼らは他家に屈せず、八神を貫いた。
 その事だけは本当に素晴らしいと思う。

(だけど・・・蒼二君を殺そうとした事だけは許せない)

 一瞬どうしようもない怒りに襲われる、だが朱音はすぐに心を静めた。
 
「この気配・・・」

 本邸の入り口付近で稲光が巻き起こる。
 暁の式神【霹靂】の力である。

「いよぉ!・・・お久しぶりです、御崎家の皆さん。心して死んでくれやぁ!」

 稲光と共に、数十体の虎の形をした悪鬼が生まれた。
 それらはすぐさま周囲へ散らばり無差別に人を襲いだした。

「ハハハハハハハッ! これがあの時俺が味わった絶望さぁ!」 

 暁は笑う。笑う。笑う。笑う。
 この光景の全てをあざ笑っていた。
 
(暁兄さん・・・)

 朱音は式神【影武者】を発動させた。
 その力は、朱音が御崎家最強ともいわれる力である。

「きたな・・・朱音」

「はい」

「フン、未だに御崎家最強気取りか?」

「私は弱いですよ・・・」

「ふーん、まあいいか・・・では殺してやる!」

 暁が式神を解き放つ、すると暁の左手に雷の弓が現れた。
 そして右手には常に雷が迸っている。
 暁の右手の雷が数本の矢の形になり、放たれた。
 
「落せ・・・」


─朱音、気にするなよ・・・全部兄ちゃんに任せろ─




 朱音がそう命令すると、下にあった影から巨大な黒い手が飛び出し雷を弾き飛ばす。
 
「・・・穿て」




─俺の妹を苛めるんじゃねぇ!─



 暁へと向かって高速で黒い手が突き進む。
 暁はそれを軽くしゃがんで避けると、暁は朱音へと向かって走った。

「・・・さ・・・刺せ」



─兄ちゃんはお前の味方だ! だからもう泣くなって─




 周囲にあった影から大量の黒く尖った槍が出現した。
 しかし、暁は動揺しない。一本一本確実に回避していく。
 そして、再び弓を構え、手に雷の弓の束を作り出す。
 雷の弓の数は数十本、確実に避けられない多さである。

「・・・守・・・れ」



─あ・・・か・・・・・・俺・・・・・・死にたく・・・な・・・い─



 影が朱音を覆いつくし、弓の雨から朱音を守る。
 攻撃が止むと、朱音は影の防御を外した。

「何故・・・何故泣く!」

 暁が苛立たしそうに言い放つ。
 朱音はそう言われてやっと気づく・・・自分が泣いている事に。

「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」

「今更謝っても遅いんだよ! さぁ! 早く殺し合いを続けるぞ・・・さぁ!」

「嫌・・・兄さんを殺したくない」

「・・・テメェ・・・もういい! この一撃で決める!」

 暁の雷が輝きを更に増す。
 その雷はやがて巨大な鳥の形へとなり、弓に添えられた。
 
「鳳凰!」

 目映い光に辺り一帯の影が全て吹き飛ばされる。
 暁は自分の眼を守るために眼を瞑った。

(この光の中じゃ影は使えねえだろ)

 そんな計算があってこの技を使ったのである。
 そして光の鳥が放たれ凄まじい爆発が起きた。

「ハァ・・・ハァッ・・・! 死んだか・・・」

 僕初した影響の砂埃の中で暁はぼやく。
 何かを喪失したような表情でもあり、悲しそうな表情でもあった。
 そして背中に猛烈な痛みが走る。

「ガッ・・・ハァ・・・どうして・・・だよ」

 暁の後ろには朱音が立っている。
 そして朱音から伸びる一本の影が自分の腹を突き刺していた。
 倒れる暁。腹部が焼き鏝を当てられたかのように熱い。

「影と影を移動しました・・・」

「チッ・・・殺せ! 今度こそオメーの手で俺を殺せ!」

「嫌だよ・・・私は兄さんに生きていて欲しい・・・
 兄さんにどんなに憎まれてもいい・・・でも生きていて欲しいの」

「ふざけんなよ! じゃあ何であの時俺を生贄に差し出した!」

「私だって・・・アレは死ぬほど悩んだ・・・本当に気が狂いそうだった。
 でも・・・私は・・・御崎家長女御崎朱音・・・一族を守る義務があるの・・・」
 
「・・・・・・・・・」

 黙る、暁と朱音。
 そして暁は懐から結晶を取り出すと念じる。
 
(戻れ)

 すると、虎の形をした悪鬼たちが次々と姿を消し、完全に消え去った。
 そして朱音は言う。 

「それが結晶ですか」

「ああ・・・たっぷりと俺の悪意を染み込ませた特別製さ」

「なるほど、だからオメーの式神と似たような力の悪鬼が生まれたと」

 突然声が響いた。
 朱音は警戒を強め、声のした方を睨む。
 そして現れたのは・・・白装束。

「神代家・・・」

「はじめまして、俺は神代瞬だ」

「・・・・・・何か御用ですか?」

「まぁ、ぶっちゃけると・・・そこの死罪六神を殺して結晶を手に入れてーんだよ」

「・・・・・・」

「別にいいだろ? どうせ存在の認められない連中なんか死んでも誰も気にしねーって」

「兄さんは死なせません」

「やっぱそう来ると思ったよ、だからテメーも殺す、コイツも殺す。OKだな?」

 瞬の周囲に濃密する殺意。
 朱音は自分の影から手を引き出して、暁を遠い所へ移動させた。
 
「見せてやる・・・俺の式神【残壊】の力を」

 瞬の腕にハルベルトが現れた。
 斧で斬り、槍で突き、槌で叩き、鉤爪で引っ掛ける特殊な形状をした武器である。
 そして瞬は巨体に似合わない速さで朱音へと迫った。

「貫け」

 周囲に存在していた影から槍が突き出し、瞬へと迫る。
 瞬はそれをハルベルトで切り裂くと朱音に更に迫る。

「・・・出てきなさい、影武者」

 朱音の影が膨れあがり、黒い鎧を着た武者が出現した。
 影武者は鞘の刀を抜き、瞬のハルベルトを受け止める。

「甘い」

 瞬のハルベルトが一瞬輝き、影武者の鎧に傷が生まれた。
 そして朱音の体にも影武者が傷ついたダメージがフィードバックした。

「ウッ・・・」

 朱音は影武者をしまい影の中を移動し、瞬から距離を取る。
 すると瞬は傷ついた朱音を見て笑いながら言った。

「これが残壊の力だ、刃の部分に触るとその触った物を傷つける能力」

 





 暁は朱音と瞬の戦いをずっと見ていた。
 瞬の速さと攻撃の力にだんだんと朱音は押されてきているのがわかる。
 その前にH自分と戦っていたのだ・・・かなり消耗しているのだろうと思う。

 朱音の肩口が切り裂かれる。
 

 ─お兄ちゃん・・・どうして私は皆から嫌われてるの?─


 
 柄先で突かれ吹っ飛ばされる。


 ─やめて・・・お願いだからやめて・・・─



 血を吐きながらも立ち上がる。



 ─やだよ・・・もうこんな家嫌だよ・・・─



 そして崩れ落ちた。


 ─兄さん! 兄さん! お願いだから死なないで! 私を一人にしないで!─



「・・・・・・・・・わかってたのかもしれねーな」

 暁は立ち上がった。
 霹靂を再び召還し、瞬に向かって放つ。
 雷が閃き瞬の体へと命中した。

「テメエ・・・」

「兄さん・・・」

 二人の動きが止まり、暁を見る。
 暁は一回深呼吸をして・・・怒鳴った。

「俺の妹を苛めるんじゃねえ!!」

 懐から再び結晶を取り出し念じる。

「やめろ! 結晶をこれ以上使うんじゃねえ!」

 瞬が血相を変えて怒鳴った。
 しかし、暁は念じ続ける。

─お前の悪意は雷獣の悪意、その力を顕現し我が妹を・・・・・・─

 そこまで念じると体が言う事を聞かなくなり、倒れてしまう。
 次の瞬間、激痛が脳髄を襲った。

「ふぅ・・・瞬兄さん危ないなぁ、先にこっちを殺さなきゃ」

 森の奥から白装束を纏った白髪の少年─彼方が現れた。
 その手には禍々しい形をした拳銃が硝煙を上げている。

「悪ぃ・・・この女中々強くてよぉ」

「まぁ、結果オーライだけどね。 さて早く仕事を終わらせよう」

 瞬と彼方は朱音の方を向く。
 傷ついた朱音は立膝をついて下から二人を睨む。
 そして彼方が再び拳銃を構えた。

「これが僕の式神【魔弾】悪鬼を弾にして撃つ銃さ、ちなみに現在の弾は炎の悪鬼ね」

 彼方が引き金を引いた。
 朱音は影を使ってガードしようとするが体に力が入らない。
 そして自分の前に何かが立ちふさがった瞬間、爆発が起きた。
 爆音が轟き、衝撃で砂嵐が吹き荒れる。

「に・・・兄さん」

「・・・うるせぇ・・・体が勝手に動いたんだよ・・・」

 直撃を喰らった暁の体は生きているのが不思議なくらい破損していた。
 片腕は吹き飛び、所々から骨が見えていて、夥しい鮮血が流れている。
 彼方が忌々しそうに怒鳴る。
 すると突然、彼方の頭から角が生えて体の大きさも変化して肌の色も変化する。
 口からは牙が生え、鬼のような形状となった。

「ウザイ! ウザイ! ウザイ! そーゆーのめっちゃウザイんだよ!」

 何発もの銃弾が発射された。

「じゃあな・・・朱音」

 暁がそう呟いた瞬簡、全ての弾丸が彼を直撃した。
 さっきの数倍はある衝撃に朱音の体は吹っ飛ばされてしまう。

「いや・・・いやぁ! 兄さん! 兄さん!」

 痛みで体が動かせないので、朱音は叫ぶが暁の体は肉片一つ残っていない。
 残っているのは彼がさっき持っていた悪鬼の結晶だけである。

「いやーついキレちゃったよ、まぁ、結晶が無事だからいいでしょ?」

 いつの間にかもとの姿に戻った彼方が兄に問う。

「まあな・・・しかし狂化を見せたのは不味かったな」

「じゃあ、殺そう・・・一つ実験してみたかったし」

 彼方はポケットから一発の銃弾を取り出す。
 それを魔弾に装填すると朱音に銃口を向けた。

「それでは運がよかったらまた会おうね」


 そして一発の銃声が響き渡った。
今回もお読みいただきありがとうございました。
感想、評価励みになるのでおお待ちしております。


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