第十二話:屍王
深い夜の森の中、遥緋と時雨と正宗は八神家の者達と山道を登っていた。
遥緋と時雨の腰には日本刀が括り付けられており、歩調に合わせて揺ら揺らとしている。
やがて遥緋が小声で時雨に囁いた。
「時雨ちゃん・・・お父さんは?」
「さぁ?」
「ああ、蒼威ならあそこさ」
正宗が指を刺した先は・・・空である。
そしてよくよく眼を凝らすと、何かが宙に浮いていた。
「よし! 結界を張れ」
正宗の命令により一人の術者が力を発言させ、膜を形成する。
それは四方八方から同時に起きて、御崎の屋敷を包み込む。
「さて・・・出来る限り殺すな、そして死ぬな! 僕が君らに要求するのはこの二つだ。簡単だろ?」
術者達は声を立てずに頷いた。
そして徐々に装備や、持ち物を確認し正宗たちから離れていく。
「よし、蒼威! 先制攻撃ブチかませ!」
上空100メートルほどの所に千島蒼威は浮いていた。
足元には二つの銀色の球体、大我に乗って蒼威は浮いているのだ。
「合図・・・確認っと」
下の術者から出された合図を確認すると、蒼威は力を引き出した。
大我が虚空から八つ生まれ、蒼威の周囲を取り囲む。
そして大我は一つになりどんどんと広がっていく。
「技名は・・・蒼威ブレードにしよう」
そして全長20メートルは超える巨大な剣が作られ、屋敷に剣先が向いた。
「いっけえええ!!!!」
蒼威の手が振り下ろされると同時に剣も屋敷に向かって突き進む。
そして・・・蒼威は見た。屋敷の屋根に黒髪の少年が凄まじい形相で自分を睨んでいるのを。
「うおおおお!!!」
少年─蒼二が吼えながら紅雪を振るう。
そして紅雪の剣先から巨大な氷の塊が、大剣に向かって放たれた。
「まさか・・・アレが蒼二か!?」
驚きを隠せない蒼威、そして氷の塊と剣がぶつかりあう。
轟音を立てて一瞬空中で静止する氷と剣。
力が拮抗し合って衝撃波が大気を揺らす。
「邪魔するんじゃねえ! クソ親父ぃ!」
蒼二が叫びながら持っていた紅雪を氷に向かって投げつけた。
─紅雪が氷に接触する。そして次の瞬間氷が砕け散り無数の弾丸となって蒼威に襲い掛かった。
「うわ!」
足元に設置してあった二つの大我をとっさに盾にして防ぐ。
凄まじい衝撃が盾越しにも伝わる。
そして・・・足場を失った蒼威は落下していきはじめた。
「チッ! 蒼二の奴・・・何で邪魔するんだ」
落ちて行く蒼威に集中しながら、時雨は毒を吐く。
そして時雨は自分の式神【重場】を使用した、その力は重力操作。
指定した空間の重力を自在に操る能力である。
「時雨ちゃん!」
遥緋が叫ぶ。
「わかってるさ」
時雨は返事をすると蒼威にかかる重力を減らす。
そして蒼威はクルリと一回転すると、二人の前に降り立った。
「ハァ・・・息子にクソ親父とか言われると結構辛いなぁ」
「そこですか!」
すかさず時雨が突っ込む。
生死を賭けた戦いなのにどこか落ち着いている蒼威。
そんな父を見て遥緋も気合を入れなおす。
(私も頑張らなきゃ! この日のために色々と考えてきたんだから)
遥緋のジーパンのベルトには複数の袋が吊り下げられている。
中には粒上のものが入っているのか妙に形が浮き出ていた。
遥緋は進む。こんな戦いを一刻も早く終わらすために。
蒼威達の居る地点からちょうど西の場所に五人の人影。
それぞれ思い思いの格好をした五人は円になって集まっていた。
「皆、いいわね? 復讐を果たすわよ」
「おう」
「ああ」
「うむ」
「はーい」
纏まりの無い返事、しかし彼らの目的は共通している。
そして罪歌が背負っていたリュックからある物を取り出す。
「これが結晶、一人一個ずつ渡すわ・・・村雨の分は私が持つ」
深い闇色をした手のひら大の石。
ある者は懐にしまい、ある者はそのまま手に持っている。
「メンバー振り分けは、私、狂、ナナシ。剣菱と暁は復讐を果たしなさい」
「御意」
「おう」
二人は静かに返事をする。
するとナナシが他の四人に向かって言った。
「僕には記憶も、復讐する相手もいない・・・だけど死罪六神に入れてよかったと思ってるよ」
「そうか・・・ナナシは記憶喪失なんだよな」
狂が悲しそうな口調で言う、が暁がすぐに気楽な口調でしゃべりだした。
「ま、いいんじゃね? 死罪六神って世界に居場所の無い奴らの組織だろ?」
「凄まじく陰気な集団だな、しかし最高の集団でもあったぞ」
剣菱も獰猛な笑みを浮かべる。
「私もそう思うわ・・・貴方達は新しい家族みたいな感じだったわね?」
「・・・家族か」
彼らには家族はいない。
ある者は殺され、ある者は自ら殺している。
それでも彼らは欲しかったのかもしれない・・・家族というものを。
死罪六神は進む、自分達の復讐を果たすために。
闇夜に動く白装束。
数は3人、それが白装束の始末屋─神城家の宗家であった。
そして一番後ろに居た小柄な白髪の少年が震えながら喋りだした。
「瞬兄さん、反応がするよ? 体がウズウズする」
少年─神代彼方は前を歩く大柄な青色の髪の少年に声をかける。
鋼鉄の板を張り合わせたような服の上からでもわかる逞しい肉体。
瞬と呼ばれた少年は答えた。
「結晶が近いか・・・どうするよ?」
そして、先頭を歩いていた中肉中背の黒髪の青年が小さく呟く。
しかし、その声は闇夜に凛と響き二人の耳に届く。
「死罪六神・・・邪魔だね。 認められない連中は大人しく死んでればいいのにさ」
「んじゃ殺りますか? 刹那兄さん」
刹那と呼ばれた青年は暗い、暗い声でまた呟く。
「・・・決定、死罪六神は此方以外全員殺せ・・・最悪結晶は一つあればいい、行くぞ」
「八神とか千島とかどうするよ?」
瞬がめんどくさそうに言った。
「放っておけ、奴らは結晶の事を知らん・・・無論俺達の血統の事もな」
白装束は進む、結晶を手に入れるために。
狂が起こした風に乗り、罪歌、狂、ナナシの三人は空に浮いている。
そして御崎家の屋敷の上空で静止すると、無数の式神の攻撃が襲い掛かってきた。
「フン」
罪歌は炎帝を発動させ式神や攻撃を全て焼き尽くした。
それに伴い地上で何人かの人間が地面へと倒れこむ。
そしてナナシが結晶を取り出した。
─君の悪意は屍王の悪意、その力を顕現し我が障害を喰らい尽くせ─
罪歌の手にあった結晶が砕けて中から闇が迸る。
それはやがて、巨大な黒いがしゃどくろとなった。
「────」
黒いがしゃどくろは声にならない叫びを上げ、足元に大量の髑髏を生み出した。
それらは、御崎、八神を区別することなく容赦なく襲い掛かる。
「ハハハハハ! じゃあ僕は行くよ」
「ああ」
それだけ言うと狂と罪歌は飛び去った。
ナナシはがしゃどくろの肩に飛び移り、自らも篭絡を使い悪鬼を増やしていく。
「よぉ、随分いいモン乗ってるじゃねーか」
その時、地上から声が響いた。
そこには銀色の球体を周囲に漂わせながら喋る蒼威が居た。
ナナシは蒼威を見ると獰猛に笑った。
「アヒャヒャヒャヒャ! アンタかぁ・・・探す手間が省けたよ!」
睨むナナシ、不適に笑う蒼威、両者の間に共通するのは明確な殺意。
そして二人は同時に動いた─
今回もお読みいただきありがとうございました。
次回は、暁と剣菱の戦いの予定です。
ではお読みいただきありがとうございました
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