第十一話:交わされた約束
小さい頃の話だ。
俺は小学校で上級生から暴行を受けた。
その時はまだ緋眼も使えなかったし、悲煉も居ない。
遥緋はビビって助けてくれない。俺は一人で暴力に耐えた。
そしてその時思った・・・弱い奴は一生奪われて生きていく。
多分その時からだろう・・・俺が力に執着するようになったのは、
そして自分を守ってくれる存在を欲しがったのも・・・
俺の事なんか誰もわかってくれない、そう思っていた。
そのどうしようもない感情は何時の間にか俺の心を閉ざした。
俺はそれに囚われすぎて自分を見失っていて気がする。
母さんも、遥緋も、時雨も、誰も俺の事をわかってくれなかったんだ。
でも俺は朱音と出会って・・・心を開けた、そんな気がする。
朱音は・・・俺に優しかった。
朱音は・・・俺を笑わせてくれた。
朱音は・・・俺に対して真剣で居てくれた。
もう、一人は嫌だ・・・やっと俺をわかってくれる人が現れたんだから・・・
「う・・・」
腹部の痛みで蒼二は目を覚ました。
意識がハッキリしない、体が妙に熱っぽい。
起き上がろうと腹に力を入れると痛みが走る。
「蒼二君・・・よかった・・・」
「朱音・・・」
朱音は目を潤ませながら蒼二を呼ぶ。
そして蒼二は疑問を示した。
「何がどうなってるんだ?」
「蒼二君は・・・八神の者に殺されかけました。昨日までずっと治癒術を施してたんですよ」
朱音の言葉が胸を貫く。
八神家の者であると言う事は時雨が命令を下していたのだろう。
やはり、朱音と一緒に居たから裏切り者と見なされたのだろうか?
そんな思いが起こる。
「私は八神を許しません・・・そして近日中に抗争が起きます」
「・・・朱音」
「勝敗はわかりません・・・ただ、向こうは助っ人も居ますから」
「助っ人?」
「神代家です・・・別名白装束の始末屋と言われる一族です」
「神代家・・・」
「かなり強大な一族です・・・私クラスの式神使いも存在します
それに彼らは怖い・・・本能的な恐怖を感じます」
「・・・・・・」
二人は黙り込む、数分の静寂が流れた。
そしてはっきりと朱音は言った。
「蒼二君・・・ここでお別れです。 私達が負けた時は貴方の事も話しておきます。
だから・・・だから・・・今までありがとう・・・楽しかったです」
「ふざけろ」
蒼二は言い放つ。
予想外の答えに朱音は驚いてしまった。
「え・・・」
「俺は朱音と居る・・・そう決めた!」
「何言ってるんですか! じゃ、じゃあ貴方は自分の一族と戦うっていうんですか!」
「ああ、戦う・・・朱音を傷つける奴は容赦はしない」
蒼二は立ち上がって遠くの景色を見ながら言った。
まだ、自分でも心の整理はついていないが、それは紛れも無い本心である。
朱音は驚きのあまり声を荒らげる。
「な・・・何でよ!? 自分の一族なのよ!」
「俺は・・・それでも朱音と居たいんだ・・・朱音となら上手くやっていける。そんな気がするから」
遥緋と母親とも蒼二は上手くいっていなかった。
二人は普通に接しているのだが、蒼二は心のどこかで疎外感を感じていたのである。
「蒼二君・・・」
「御崎も八神も滅ぼさせない・・・邪魔する奴は全員叩き潰す!」
「・・・大変ですよ?」
「朱音と俺ならやれるさ・・・だから、俺をもう一人にしないでくれ」
「・・・わかりました」
朱音の返事を聞くと蒼二は悲煉に声をかける。
(悲煉もそれでいいよな?)
(それが蒼二の決めた道ならば)
いつもと同じ口調、どうやら怒ってはいないようである。
蒼二はこっそりと安心すると、言う。
(ありがとう・・・)
夜、二人はベランダに並んで腰掛けて座っていた。
朱音はいつも通り着物を羽織り、蒼二はクマ柄のパジャマを着用している。
やがて、星を見ていた朱音は語りだした。
「私・・・初めて蒼二君と会った時同じ匂いを感じたんです」
「匂い?」
「そう、一人ぼっちな寂しがりやの匂い」
「朱音が一人ぼっちで寂しがりや?」
「私・・・式神の強さが半端じゃないでしょ?
だから色々と・・・ね。唯一の理解者だったお兄ちゃんも今は敵だし・・・」
強き者への畏怖と期待。
生まれて数年後には朱音は家で最高峰の力を手にしていた。
それ故に朱音はいつも妙な扱いをされて一族から浮いていたのだ。
「お、俺だって妹が敵さ!」
慌てて蒼二はフォローに走る。
しかし朱音はクスリと笑うと言った。
「妹さんも貴方も憎みあってないでしょ? 私は憎まれているから・・・自業自得だけどね」
「朱音・・・」
「お兄ちゃんになら私は殺されていいかもしれない・・・」
「おい!」
「あ、ごめんなさい・・・」
「ずっと一緒に居よう・・・俺には朱音しかいないんだ・・・」
「それってプロポーズですか?」
「おう」
「全く、最近の中学生は進みすぎです! 嘆かわしい世の中に・・・あっ・・・」
蒼二は朱音を抱きしめる。
朱音は顔を真っ赤にしてからだの力を抜き蒼二に身を任せた。
「温かい・・・」
「あの・・・私、これでも箱入り娘ですからこういうの慣れてなくて・・・」
「じゃあ慣れろ、しばらくこのままな」
「・・・意地悪」
二人はそのまま、黙り込む。
気まずい雰囲気ではない、むしろ二人は嬉しさでいっぱいであった。
寂しがり屋の二人が最高の居場所を見つけた瞬間。
やがて、朱音は喋り始めた。
「ねぇ・・・蒼二君。 悪鬼って何なのかな?」
「・・・わからん」
悪鬼とは何なのか? それはわからない。
人の悪意が形となったモノ、人間の害になるモノ。
それだけはわかっている。
「だよね・・・あ、そういえば知ってる? 悪鬼には結晶が存在するって」
「結晶?」
「うん、日本って北海道・東北、 関東 、信越・北陸、
東海、近畿 、中国、四国、九州・沖縄に別れてるよね?」
「ああ、そうだったかな」
「その八つの地方に、全ての悪鬼の発生源となる核見たいなのがあるのね
それは数百年分の悪意が悪鬼にならずに固まった物らしいのよ」
「ほう」
「その結晶の影響を受けて悪意が一点に集中して悪鬼になるらしいのよ
でも・・・そのうちの六つは死罪六神、お兄ちゃん達が持ってるらしいの・・・」
「マジかよ!」
「そう、だからここ数年悪鬼は関東、近畿にしか現れていないの」
「って事は6と2に別れているって事か」
「うん・・・そして近畿は神代の本拠地、何かあると思わない?」
「確かに・・・」
「・・・蒼二君、一つ約束してくれるかな?」
朱音は真面目な口調で言う。
「何よ?」
「もし、私が死んで、その後悪鬼が世界のバランスを崩しそうになったら・・・貴方が止めて」
朱音の言葉の意味と決意を蒼二は悟った。
あそて高らかに叫ぶ。
「・・・ああ、任せろ! その代わり朱音も約束してくれ」
「何?」
「最後まで諦めないで生き延びてくれ・・・頼む!」
俯きながら蒼二は言う。
怖い、怖い、怖い、朱音を失うのが怖い。
そして朱音は蒼二の手を握って、笑いながら言った。
「はい。絶対に諦めませんよ」
今回もお読みいただきありがとうございました。
次回から、戦いが始まります。
そこでやっと中盤ですかね。
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