第十話:遠い日の約束
千島家最高傑作にして最強の式神使いとも呼ばれる男、千島蒼威。
そんな、強さの頂点に居る様な男は、死の危機に瀕していた。
飛んでくる凶器の数々を寸前で交わし、安全地帯を求めている。
「ご、ごめんなさい! 遥ちゃん許して!」
情けない悲鳴が千島家に響き渡る。
すると、凶器は飛んでこなくなった。
「蒼威君・・・私言ったよね? 一年に一度は連絡を入れる事って言ったよね?」
「いや・・・俺も忙しかったんだよ」
すると食卓に座ってコーヒーを飲みながら新聞を読んでいた正宗が言った。
三十代後半とは思えない若々しさに溢れており、しかし貫禄が漂っている。
「温泉街で休憩した時に、電話すればよかったじゃないか。
あ、君はあのマッサージの女の子に夢中だったね、ゴメンゴメン」
「・・・蒼威君?」
「・・・正宗・・・お前いつか後ろから刺してやる・・・」
「ハハハ、その前に生き延びる事を考えたらどうだい?」
「は、遥ちゃん・・・?」
「なぁに?」
「落ち着いて話しあおう。そうすれば分かり合えるはずだ」
「問答無用!」
チョークスリーパーをかけられ、悶絶する蒼威。
そしてそのまま、蒼威が天に召されようとしていると・・・
「ただいまー」
「お邪魔します」
「邪魔するぜー」
家のドアが開き三つの足音がこちらへと向かってくる。
現れたのは遥緋、時雨、陸人の三人である。
「あら、お帰りなさい」
「ママ・・・その人誰?」
遥緋が泡を吹いて白目を剥いている男を気の毒そうに見た。
そして、遥は笑顔で言い放つ。
「貴女のお父さんよ」
「嘘ぉっ!?」
千島家の遥緋の声が響き渡った。
「やぁ遥緋、久しぶりだね」
「あ、うん・・・はい」
意識を取り戻した蒼威が数年振りに会った娘に挨拶した。
遥緋はどこか照れくさそうに、そして嬉しそうな態度である。
「あれ? 蒼二は?」
「あのクソバカアホマヌケカス小僧は最悪な事に御崎の長女と居るみたいです」
時雨がブスっとした顔で言う。
まだ勝手に抜け出した事を怒っているのである。
「へぇ、アイツも隅に置けないな、御崎の長女は将来が楽しみなほど美人だったぜ
ま、まぁ・・・ウチの奥さんには遠くかなわないけどね」
遥の睨みを浴びて蒼威は付け加える。
何か話しのネタはないか・・・視線を泳がすと懐かしい仲間の存在を発見した。
「お、陸人じゃん! 何怖い顔してんだよ?」
「・・・・・・・・」
陸人は答えない、陸人はただ正宗をじっと睨んでいた。
しまった・・・こいつらは犬猿の仲だったなと今更ながら蒼威は思う。
陸人と正宗は昔、詩歌を取り合った仲なのである。
「相変わらずだね陸人、あのバカなニワトリ頭はやめたのかい?」
「ハッ! テメーこそ相変わらずロリコンなのか?
家族が居ないからって未成年風俗いきまくりじゃねーのか?」
陸人の顔と正宗の顔に青筋が浮かぶ。
壮絶でレベルの低い睨み合いが続き、場が一瞬固まる。
「ハッハッハッ お前ら、いい年してレベルの低い争いやってんじゃねーよ」
蒼威が笑いながら言うと、とりあえず二人は睨み合うのをやめた。
そして待ちかねたように時雨が話を切り出す。
「では、今度の御崎家との戦争はどうします?」
「まぁ・・・潰すしかないだろうね。 こちらも潰されるわけにもいかないし」
「ああ、人間同士で争ってる場合じゃないんだけど仕方ないだろう」
「俺様も浅葱代表で手伝ってやるぜ」
「ニワトリはいらないねぇ」
「んだとコラァ! 蒼威も笑ってんじゃねーよ!! この出来ちゃった婚め!」
「あ? 文句あんのかよ?」
いがみ合う三人の年長者。
この中で年齢が比較的低い時雨は頭を抱えて愚痴をこぼす。
「駄目だ・・・この中年共使えねえ・・・」
「ねぇ、時雨ちゃん」
悩む時雨に遥緋は声をかけた。
「ん? どうした?」
「話し合いで解決するんじゃなかったの?」
「いや・・・それがさ・・・今まで御崎家の長女が八神との戦争に反対してたんだけどね。
何かそいつがいきなり意見を変えて八神を潰すって話になったからさ、もう意味無いんだよね」
時雨は渋い顔で言う。
本来ならば時雨も話し合いで解決したかったのである。
しかし、肝心の相手が意見を変えてしまった以上しかたがない。
「そうなんだ・・・お兄ちゃん無事だといいけど・・・」
「アイツなら大丈夫でしょ・・・それよりも遥緋、君も戦いに参加するのか?」
「私は・・・」
「今回の敵は人間だ、当然この年で人殺しになってしまう事だってあるんだ」
真面目に時雨は言う。
まだ中学生にそんな事は言っても割り切れないと言う事が分かっていても。
「・・・・・・うん、わかってる・・・時雨ちゃんは殺した事があるの?」
「ないよ?」
あっけらかんと言いのける。
「え!? どうして?」
「式神使いは式神を壊せば意識を失う・・・僕はその方法で乗り切ってきた」
「・・・・・・そうなんだ」
「その為には相手より圧倒的に強くなくちゃならない!
無論、相手は君を殺す気で攻めてくる・・・君はその時非情になれるか?
そして殺してしまった場合の業を背負ってこれからも生きていけるか?」
「うん」
「あの・・・人が真面目に話をしてるんだから静かにしてください!・・・・え? なんて言った?」
後ろで大騒ぎを繰り広げている三人を注意した時雨は聞きなおす。
そして遥緋は凛とした声で言った。
「私、覚悟があるよ・・・大切な人を守れるなら・・・それでいい!」
「そうか・・・なら僕から言う事は何もないよ」
あの弱気な遥緋がここまで言ったのだ。
時雨にはもう止める権利がない、時雨はため息をつくと、
寂しさと喜ばしさを感じながら大騒ぎをする大人たちを見つめた。
夕食も終わり、陸人と蒼威は二人でテラスで話していた。
煙草と酒を魚にして二人は色々と話し合っている。
「なぁ、蒼威・・・灼也と煉は結局どうなったんだ?」
「・・・わからねぇ、あの事件以来呼びかけても全く反応しなくなった
高校卒業する頃には完全に気配がなくなっちまったよ・・・」
蒼威は思い出す、高校時代の親友との激闘。
そして内なる人格との宿主をかけた命がけの戦いを。
そして、陸人が寂しそうな声で言った。
「・・・俺さ、灼也とはガキの頃からつるんでたし、煉の気持ちも今ではわかるんだ」
「・・・俺もだ」
使命は一緒だったはずなのに、進むべき道を違えた二つの人格。
最後まで蒼威のために戦った人格。
自分が欲しくて戦い続けた人格。
彼らの事は今も尚、二人は覚えている。
「もしかして・・・あいつらは・・・」
陸人の呟きに蒼威は答えた。
「・・・名前は灼那と悲煉だったな・・・偶然にしちゃ出来すぎているかもな」
「一昨日、真砂剣菱が俺達を襲ったんだ・・・その時遥緋ちゃんの第二人格が出てきてさ
俺、戦いながら遠くから見てたんだけど・・・何か懐かしい感覚がしたんだよ」
「・・・もし、俺達の予想通りならば、あいつらとは何時か会えるさ・・・」
「お前とあいつらの誓い、か」
遠い昔に誓った思い出。
それをあの二人が忘れてなければまた会える。
蒼威はそう信じていた。
「ああ・・・」
すると話題を変えるように蒼威が言った。
「そういえば今度の戦い・・・あの神代家も来るらしいじゃん」
「・・・そうらしいな」
「別名、白装束の始末屋・・・中でも現在の当主の四兄弟の力は圧倒的らしいぜ」
「ああ、そうらしいな・・・しかし気になる・・・」
陸人が煙草の火を消しながら蒼威に言う。
「何がだよ?」
「あいつらは元々中立の家だろ? 何で俺達に手を貸すんだ?」
「確かに・・・とりあえず動きには注意しとこうぜ」
「ああ、じゃあ俺はもう寝るわ・・・遥ちゃんの機嫌取らなきゃならんし」
「クソ・・・お前が憎い! 詩歌が恋しいわ・・・」
本当に悔しそうな顔で陸人は言う。
自分も本来だったら・・・などと悲しい妄想をしてさらに悲しくなった。
「ハハハ、ダサ んじゃお休み」
「おう、お休み」
蒼威はドアを開けて、テラスから出て行く。
その場に残された陸人は、火の消えた煙草を空き缶に投げ入れると立ち上がる。
(神代家か・・・明日少し調べてみよう)
次回は蒼二編の予定です。
よかったら点数や、感想も待ってます。
それではお読みいただきありがとうございました。
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