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ひな鳥の杖

作者:霧島まるは
 魔法使いの学校に入るためには試験がある。
 と言っても知識の試験ではない。ただ乳白色の石の卵がついた杖を握るだけでいい。もし魔法の才能があれば、その卵は割れる。

 パリン。
 少女の杖の卵が割れた。卵は透き通る青のひな鳥の形に変わった。
「おめでとう、合格だよ」
 触っても温度を感じない固い石のような青いひな鳥を、少女は嬉しくて撫でた。これから一生付き合う、彼女だけの杖だった。
 その少し後に、後ろでまたおめでとうという声が聞こえた。
 振り返ると、自分より背の小さな少年が赤いひな鳥の杖を呆然と見ていた。
 少年と目が合う。そこでやっと彼ははっとして、誇らしげに満面の笑みを浮かべて自分の杖を掲げた。
 幼馴染の二人は、こうして同じ魔法使いの学校に入学した。

 けれど、ずっと二人の仲が良かったわけではない。ひな鳥が放つ魔法はまだ弱く、だが弱いからこそ少しの差が大きな差になる。
 少女の青いひな鳥は冷たい氷の息を吐き出す。少年の赤いひな鳥は熱い火の息を吐き出す。魔法の練習と称して、二人はよく学校の裏で競い合ったが、その度に少女が勝った。その度に少年は悔しがった。
 何度やっても何度やっても少年は少女に勝てなかった。

 ある日、ついに少年の癇癪(かんしゃく)が爆発した。
「こんな杖!」
 彼は赤いひな鳥の杖を地面に叩きつけた。それはまばたきの間で、粉々に砕け散った。赤い破片の散らばる地面を、少女は真っ青になって見つめた。少年もまた、自分がしでかしたことに真っ青になった。
 先生たちは杖を乱暴に扱わないようにと厳しく言ってきたが、それは倒れたくらいで割れることはなかった。だからどこか安心していた。壊れたりはしないものだと。

 だが少年の杖は壊れた。破片をかき集めても、もう元には戻らなかった。
 少年は校長室に呼ばれ、次の日には学校を去った。
 少女は先生に泣きながら詰め寄った。どうして少年が学校に来られないのかと。
 先生は言った。ひな鳥が割れたのは、もう彼と一緒にはいられないとひな鳥が逃げたからだ、と。彼がひな鳥を愛せなかったからだ、と。
 少年は、魔法使いになる資格を失ったのだ。

 それから少女は誰とも魔法を競い合うことをやめた。自分の青いひな鳥の杖を愛し、ただ静かに静かに自分の魔法を磨いた。
 彼女が成長するごとに、ひな鳥もまた姿を変えてゆく。少しずつ鳥らしい形になり、彼女が学校を卒業する頃には、尾の長い美しい青い鳥になった。

 卒業後、彼女は更に魔法を学ぶ道に入った。魔法を戦いに使い武勲をあげる道も勧められたが、その道には向いていないだろうと自分で分かっていた。
 立派な老魔法使いを師匠とし、薬や生活に役立つささやかな魔法を新たに編みだした。傍らにはいつも青い鳥の杖があった。

 四年ほどが過ぎ、彼女の師事する老魔法使いの元に、新たな弟子が入ってきた。
 老魔法使いは言った。「随分トウの立った弟子だな」と。
 赤く雄々しい鳥の杖を持つ青年だった。彼を見た瞬間、彼女は自分の大事な杖を落としそうになり慌てて抱き留めなければならなかった。

 そこには、幼なじみのあの少年の面影があった。
「久しぶり」と恥ずかしそうに彼は言った。
 魔法学校を退学になって、彼は別の魔法学校の入学試験を毎年受け続けたという。卵は割れなかった。割れなくてもそれでも翌年、入学試験に臨んだ。
 四年後、「まるで不承不承という感じで割れてくれたよ」と、彼が苦笑いをしながら言った。
 人より随分遅れての入学だ。自分より小さい少年たちの中で、彼はそれでも今度こそ自分のひな鳥を育てきった。

「久しぶりに、勝負でもする?」と彼が笑った。今度はもう癇癪はおこさないよ、と。
「いえ、それはいいわ」と彼女は笑った。彼が赤い鳥の杖と一緒に笑っている姿を見られただけで、胸がいっぱいだった。

 もう、杖はひな鳥ではない。そして、二人もすっかり大人になっていた。


【終】



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