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VRMMOの基本、のつづき

VRMMOの基本、の続きです。
VRMMO の 鉄板






 なぜか、VRMMOしてる。

 いつものようにケモラーしながらメーラーを立ち上げて、としたところで気づいた。
 なんで俺、VRしてんの、と。







 思い返せば最後の記憶。

 深夜に鳴ったマンションのドアベル乱打に何者かと思ってドア越しに「アイフォン」してみると、なぜかあの女。
 折しも大雨の中、傘もささずにやってきたようで、ずぶぬれ状態で真にホラー。
 加えて言えば、オートロックの我がマンションにどうやって入ったのやらと思わなくも無いが、抜け道はいくらかあるので飲み込む。
 住所も電話も変えたのに、なんで来るかな、と思いつつドア越しに話すと・・・

「よりを戻したい」
「今までの事を忘れてほしい」
「自分もだまされた」

 とか何とか言い訳を垂れ流すばかり。
 しばらくするとどうやらご近所が通報したらしく、警察が現れてあの女を説得し始めたのだが、民事不介入とか言い初めて俺も当事者なんだから出て来いとか言い始めた。

 とりあえず、昔付き合っていたが手ひどく振られた。
 今の住所を教えていないのに現れた。
 ストーカーだから直接面会は嫌だ、と言ったところ、逆に警官が切れ始めて、痴話げんかなんかに巻き込むなとか言い始めたのを覚えている。
 致し方なく顔を出したら・・・

 その瞬間に顔をナイフで切りつけられた。
 其れを抑えようとした警官も切りつけた。
 警官がひるんだ隙に、あの女は俺の腹を二回、首を一回切りつけた。

 腹ら仕方ないが、首はやばいので圧迫止血をしたのだが、徐々に意識が薄れ・・・


「あ、つまり俺、集中治療室か?」


 そう思い至った俺だったが、VRにいる理由がわからんな、と思っているところで父親からのメールが入っていることに気づいた。
 何でも、俺は現在警察病院に入院しているそうで、失血死寸前で大騒ぎになってるそうだ。
 なにしろ、ドアを開けさせなければ俺は傷つくことはなく、さらには事前に俺がストーカーである事実も話しているということで、ワイドショーは警察叩きに大わらわ。
 両親のところにも散々取材が着たとか。
 とはいえ、あの状態で悪いのはあの馬鹿であって警察ではない。
 原則論として警察の対応は仕方ないものがあり、どうしようもない流れであると「本人が」感じていると親父に公表してほしい旨メールを返信した。
 タダでさえ判断が難しい内容だったんだ、被害者が死んで無いんだし、次回につなげてくれ、というのが俺の意見。

 どうやらその反応はすさまじかったらしく、大いにテレビを賑わせたというのだが、俺は時間制限内はVR、それ以外は集中治療室で寝たきり状態だったのでテレビも見られていないわけで。
 ケモラーギルドの方々から伝え聞く情報やメールで入ってくる親父からの情報に頼るほか無い。

 とはいえ、あの馬鹿女が俺を振った後の軌跡、ワイドショー曰く転落の歴史があるとか。
 たとえば、元彼である「一流会社員」。
 彼は結婚詐欺師であった。
 結婚式当日に姿をくらませたそうで、友人知人会社の上司等も呼んでいたあの女は、その場で倒れたそうだ。
 流石に会社にいられずに退社。
 その後は派遣社員として登録後、様々な会社に行っては男にだまされの繰り返しだったとか。
 いや、どん底人生だね、と思わず笑ってしまった。

 で、なぜか手元に残っていた俺からのプレゼントを見て、もう一度、とか妄想して暴走したらしい。
 妄想は、俺が実は今も思っているとかいう勘違い系。
 暴走は、変更された俺の住所やメールアドレスを調べ上げるために、様々な派遣先でデータを盗み出したこと。

 これに関しては、データを転用された企業は被害者面をしていたのだが、個人情報の管理もできないのかという批判が上がり始めると即座に謝罪記者会見が行われ、重役達が頭を下げたのだが、頭を下げられるべき俺がベッドの上にいるのに世間様に先に謝るんだぁ、その企業姿勢ってどうなんだろうねぇとVRのブログに記載したところ、周辺ブログも含めて全てが炎上。
 ケモラー系や女勇者ブログでも引用していたり援護してくれたお陰で、またまたワイドショー騒ぎとなり、「企業記者会見の向き合う方向性はどこか」「謝罪は誰に対して行われたのか」などなどと人気コメンテーターと呼ばれる方々は、ばっさばっさと切りまくっていたという。

 ともあれ、VR治療応用の一環として俺にはほぼ常時VRが接続されている。
 資料によると、電子義体の恒常性が傷ついた本体に影響しているそうで、信じられない速さで治癒、というか修復されているそうだ。
 この異常治癒にはかなりのエネルギーが必要らしく、点滴だけでは足りない影響で、かなりの内臓脂肪が削れたようだ。
 マジで体脂肪率一桁にいくかもしれない。
 このデータは、一応、親父の回復を研究していた所と共同で研究されているそうで、超高度医療という分野に一石どころかメテオ投げましたレベルらしい。

「いやぁ、われらが勇者は波乱万丈ですな」
「勘弁してくれ」

 VR内で久しくあったケモラーギルド員たちと軽く話していたりすると、やはり俺が指された話になり大いに盛り上がられてしまう。

「でもさ、あのクソ女も、なんっていうか、ドラマレベルの転落人生よね」
「そうそう。なんか思いつきで不幸な状況を並べてみましたぁ見たいな」
「「「「「ねー」」」」」

 まぁ振られたのが俺じゃなければ、表面上同情の一つもしたかもしれないけど。
 が、基本的には振られた俺から見れば、不幸だろうと何だろうと興味の無い人間なので。
 刑法上の処罰がどうなるかとかそっちの方が気になる。

 とりあえず、ストーカーであるということを「事実確認」した上で、精神状態がどうであろうと再犯の確立がほぼ100%だってことを十分理解してほしいと思う。
 どんな刑期を過ごそうと、あの手の存在の完治はありえないわけで。
 警察もそれなりに罪悪感を感じているなら、がつっと良い前例を見せてほしいものだ。






 リアルで一週間ほどで歩けるようになった。
 少し筋力は落ちているし、バランスもひどいものがあったけど、それを無視してVRの感覚で行動すると上手くいく。
 これはすごいことだな、とリハビリ中に言うと、偶々来ていた親父が笑った。

「そりゃ、俺の台詞だ」
「そっか、親父はリハビリ先輩だったな」
「ああ、いまや全く後遺症がなくなったけどな」

 リハビリ中とは思えない明るい会話に周囲の人たちが何事かと顔を寄せてくる。
 基本、いままで秘匿情報だったんだけど、俺の事件以後、医療関係へじんわりとリークする方針なんだそうで。
 こういう場でも周囲にお勧めする方向でOKが出ているそうだ。
 親父と同様の半身不随仲間にも勧めているそうで、感謝の電話が鳴り響いているとか。

 初めは忘れていた健常者の感覚に感謝したそうだが、徐々に進行する治癒への足がかりを感じると本気で礼状やらが舞い込むことになったという。
 まぁいい事だ。





 二週間目で会社に復帰したのは急ぎすぎだと上司に言われたが、普通の生活に戻れるのだから問題ないだろう。
 有給もあまり使いたくないので、と言っていたが、社内医師にせめてカウンセリングを受けろと指示されてしまい、三日ほど休まざるえなかった。
 これは指示休というものらしく、うちの会社独自の医療保護休暇らしい。
 この話をVRの仲間に話すと、ホワイト過ぎる会社だと大騒ぎになった。
 実に大騒ぎ過ぎる。

 うちの会社はさほど大きいものではないが、社長が大企業の代表気分なので趣味で厚生福利に精を出しているとまで言われている。
 自宅を抵当に入れてまで心血注ぐというのもどうかと思うが、趣味なら仕方あるまい。

 そこまでされれば社員だって奮起するわけで。
 早すぎる復帰はその現われと思ってほしい旨、報告している。



 味のなくなったチューインガムよろしく、俺のへのストーカー事件はワイドショーの話題にならなくなった。
 次に浮上してくるのは、あの馬鹿女の公判のときかと思っていたのだが、もっと早かった。
 なんと、国立高等治療医学研究所なる組織が、親父のVRリハビリを正式に発表したのだ。
 加えて、その協力者である俺と、おれ自身のVR治療が脚光を浴び、再びワイドショーのレポーターが追いかける人にされてしまった。

 実際、突撃取材とかアポ無し取材なんかしたら人権問題になるという方向の話なので、「アポ無し風で取材させてほしいんですが」という見事にアホラシイ取材申し込みが殺到してきていたりする。
 とりあえず、会社にこられると困るので、退社後の俺を捕まえる方向で、と顔はモザイクでとお願いしたところ快く受け入れてくれた。
 マスコミ関係って、もっとひどいのかと思っていたと言ったところ、最近は個人情報の法律やら人権やらが煩いので慎重にならざる得ないという。
 日本ではパパラッチ行為を幇助したとなれば出版社で引責させられることになるので、妙な写真は載せられないし、載せた後で裁判騒ぎも面倒だとか。

「いやぁ、勇者殿には感謝ですよ」
「・・・え?」

 まさかのケモラーギルド員でした。
 世間は狭い。
 というか、世の中つながっている、そんな感じ。

 加えて言うと、かの取材に来た御仁。
 周辺のメディア関係者と強調して単独アポなし風取材を三つほど切りわけで、と仕切ってくれた。
 なんでそこまで、と聞くと、

「うちの親父も左半身不随になったんですけど、VRのお陰で、かなり戻ってまして」

 なるほどの納得。
 割りと親身な相談をしてくる記者もいて、微妙な一体感が生まれた流れで、そのまま飲みにいったら、

「われらが勇者にかんぱーーーい!!」
「「「「「かんぱーーーい!!」」」」」

 勇者呼ばわりとか、何の罰ゲームだか。



 すぐには記事にしない、記事にする際もゲラをみせる、という約束の下で馬鹿女との馴れ初めや別れたというの話をしたら、近くにいた関係ない客まで貰い泣き。
 さほどひどく言ったつもりは無いのだが、死刑にナルベキ女だとか盛り上がってしまった。
 刑事事件上は死刑どころか懲役刑も難しい可能性があるので、民事で接近禁止をしてもらうほか無いと考えている旨を話すと、周囲が首をかしげた。

 なんで、と。

「簡単に言えば、あの馬鹿女は心神喪失状態であることを立証しやすいんですよ。あと公判で泣きの涙と共に後悔してるって言い募れば、情状酌量の上で、って事になるでしょ?」
「「「「「ああああああ、なるほど」」」」」

 日本の裁判は性善説を堅持した方向性をもっていて、さらには初犯に甘い。
 余程の凶悪犯罪者とか出なければ、改心をさせる方向性で結審しがちだ。
 今回のように誤認逮捕の欠片も無い事件でも、だ。

「振られ損、切られ損、本当に死ななくていいから消えてほしいよ」

 思わずため息と共に言うと、周囲の飲み客も含めてカンパしてくれて、呑み代をおごってくれた。
 なんだろう、人情が身にしみる。




 治療目的でログインしていた関係で攻略が進んでいなかったので、連休にあわせて進めることにした。
 一応、第三の町(南コース)まで来たのだが、その先の第四の町辺りまで行くと攻略進行の尻尾に乗れるとか。
 はやく来て下さいよ勇者様、とか言われているのだが、実は攻略速度が落ちてきてる。
 なにしろ、自分以外のユーザーが増えてきた影響で、時間圧縮が低下してきているのだ。
 なるべく人のいないマップへ移動してクエストを進めているのだけれども、やはり他の人間との空間共有が多くなり進行速度が落ちてきている感じがする。
 まぁ、VR「MMO」なのだから当然といえば当然なのだが。
 ただ、町の外に出て狩を始めると人がいなくなる。
 これは俺がレアルートマップに入っているせいだと核心。

「主よ、最近一緒で嬉しいぞ」
「主様は本格的に居をこちらに移すのですか?」

 いやいや、無理ですから。
 思わず苦笑いで撫でまくる。

 実際このVRを維持するための資金は会社で得ているわけだし、如何に書類処理がVRの圧縮時間で出来ると言ってもリアルで触れ合う必要があるのだ。
 完全にこっち側なんてことはできない。
 親父もリハビリの必要がないというのにVRに籠って仕事をしているが、リアル電話が必要なときは致し方なくログアウトして出てくるという。
 その辺何とかならんか、と相談はされているが、俺も色々と検討中。
 電子カプラアプリで通話状態を維持するか、独自で肉体能力を使ってうわ言のようにしゃべるかというプランがあるが、微妙すぎる。
 ためしにボーカロイド系ソフトで頑張ってみたが、いまさん。
 まったく届かない感が半端じゃない。

「ならば我らが仲介すればよかろう」

 え?

 思わず見つめると、嬉しそうにほほ笑むお猿さん。

「試してみよ。面白いぞ?」

 本気で試したら、本当に面白い事になってしまった。





 普通の会社員の俺に、なぜか電話秘書「羅壕」と「シリウス」が開設されてしまった。
 二人ともアプリ経由ながら外と交流することを楽しんでおり、仕事中に電話なんかをかけてくるほど。
 さすがに仕事中は勘弁してくれと頼んだら、今度は母と電話を良くするようになり、父がVR内で仕事している時など、無聊を慰めているという。
 なんつうか、うちの配下は有能で困る。
 この電話中継アプリ、実はVR内のNPCに中継を頼むこともできる。
 宿屋の娘さんに頼んだところ、ケモラーギルドの男衆の回線が集中して落ちるかと思ったほどだ。
 とりあえず、奥さんと旦那さんに平謝り。

 ダイヤル○2じゃねーって。

 まぁ、それはさておき。
 電話の中継をVR内のNPCに頼むというプランは父も面白いと思ったらしく、アルバイトとして雇ってみたところ、結構使えるとの事だった。
 メールだけではなく受付が音声対応するというのは非常にいいという事で、さらには可愛い女性の声で対応してくれるのがさらにいいと客先から評判だという。
 そんなことをダイエット日記と共にプレイヤー専用掲示板に書き込んだところ、ぜひとも羅豪やシリウスと直接話させてくださいというかモフ交渉をさせてくださいという血の涙を込めた書き込みが集中。
 やはりあのモフOFFが効いている模様。

 こんな騒ぎを起こすと文句の一つでも来るかと思ったが、運営からは「アプリ公開」依頼が来ただけだった。
 このアプリを有償公開するなら、運営が窓口になりますとまで言ってくれている。
 儲けのつもりはないけど、それは物入りな生活なので有償公開以来をしたら、翌月凄い事になった。

「おやじ、三桁万簿外収入が入った。わりーけど経理やってくれ」
「おし、敏腕計理士の実力見せてやる」

 というわけで、一か月であれなので、以降の収入が凄い事になりそうと理解した俺は、青色申告のための助っ人を召喚。
 いろいろと借りがあるから、と父は身内価格で引き受けてくれることになった。

「わりーな、お袋」
「いいのよ、あの人もお前に借りを返すんだって張り切ってるから」

 まぁ、貸し借りばかりではなく、VR導入で実務時間が減っているそうで仕事どんとこいらしい。
 なんともワーカーホリックなお方である。

「お袋、さみしくねーの?」
「だって、ごーちゃんとかしーちゃんとか、結構電話してくれて楽しいのよ?」

 ありがとう、我が僕たちよ。
 ログインしたらちゃんとモフからな。

 そんな感謝をこめてログインのための準備を始める俺であった。







 女勇者のVRダイエット。

 このブログは炎上ブログとして有名になってしまった。
 嘘だ、クソ女、死ね、などの禁止ワードが満載の書き込みが続きまくって、最終的にはVRの回線のみの公開になってしまった。
 公に自慢したかったのに。

「いやいやいや、その自慢が火元だって」
「えー?」

 投下した資金以上の結果が出てるからこその自慢。
 これは女の自己顕示欲に根差す基本行動なのに。

「いやいや、行き着く先はストーカー犯罪だから、実体験だから」
「ああ、うん、納得」

 ご存じ「ケモラー勇者」は同じ会社の仲間。
 わりと彼は女性社員から人気だったんだけど、例のストーカー女に刺されてからは一歩引かれている。
 巻き込まれたくない、というのが本音だが、それ以上に冷静すぎて怖いという話もよく聞く。
 たしかに、入院して集中治療を受けるほど刺されてるのに、心の傷一つ感じさせない精神力は怖いかもしれない。

「でも、勇者ブログほどの人気はないわよ?」
「俺のダイエットは完了してるし、途中入院の食事制限が大きく影響してますからねぇ」

 そう、彼の腹部、なんとべっこべこに凹んで、腹の肉が余っていたほどなのだ。
 で、腹部を刺された際に綺麗に縮めて貰ったそうで、整形外科の先生に「こんなサービス、これっきりなんだから」とウインクされたとか。
 禿デブの先生だった気がしますが?

「あー、思いださえないで」
「了解」

 とまぁ、こんな気軽な会話が出来ているのも、昼休みだから。
 彼どころか私もVRをしていて体を絞っているのは周知のごとくで、社長もその変化を見て自分もやってみようかと思っているとか。
 接待プレイとか無理なんだけど。
 そんな話をしていた私たちの前で、テレビ画面がニュースを写した。
 そこに映っていたのは「あの女」。
 彼を惨殺寸前まで持って行った「あの女」。

 そう、あの女の罪状認否が行われたということで、ニュースになっているのだ。

「・・・へぇ、一応犯行は認めたんだ」
「認めなくちゃ、その先の情状酌量は得られないからなぁ」

 あまり細かく報道はされていないけど、弁護士は情状酌量を宣言して心神耗弱状態をオプションに無罪を勝ち取るつもりと声高に記者会見で叫んでる。
 この弁護士、女性の人権とか権利とか社会活躍かを叫んでる女弁護士で、女の被告が注目されているとしゃしゃり出てくる迷惑なやつで有名。
 女以外のすべてが悪い、世間が悪い、男が悪い、世界が悪いと展開させる論理にはテレビもついてゆけないらしく、いつも途中で映像が途絶える。
 あの女にとって、世界のすべてが自分を攻撃する敵だと感じているのだろうから気が合う二人なのだろう。
 そういえばあの女弁護士の口調、そのまま文章にしたら女勇者ブログに良く書きこんできていた迷惑さんと同じ感じがする。
 ・・・まさか?
 あははは、もし本当なら面白いかも。
 迷惑防止条例って、ブログの書き込みにも通用するんだっけ?

「えーっと、なんか怖い笑顔浮かべて何考えてるんだ?」
「ひ・み・つ」
「何らときめきを感じない台詞に戦慄した」

 あれ? ちょっとお色気を込めたんだけど、何も感じないの?
 あれれ? ちょっと不機嫌かも。








 攻略の最前線、の一端に来ているはずだが、どうも緊張感が薄い。
 いや、戦場のような空気を求めているわけじゃないけど、感覚的に温いというか緩いというか。
 なにしろ・・・

「我らが勇者の南ルート選択にかんぱーーーーーーい!!」
「「「「「ゆうしゃばんざーーーい!!!!」」」」」

 毎夜のようにケモラーギルドの宴会があるんだもの。
 勿論のように強羅とシリウスは参加で、許可の出たものにモフモフをさしゆるすというモフ接待が行われているという理由もあるだろうけど。
 このモフラーたちの恐ろしい所は、羅豪のキングコング形態やらシリウスの大神形態に飛び込みたいというツワモノばかりという点で、周囲から恐ろしい変態集団と後ろ指を指されても胸を張っているところではないかとか思う。

 で、この変態・・・いや強者たちが攻略の基軸の一つと言われているのも事実らしく、毎夜の宴会の所為で攻略速度が落ちたと文句を言いに来るギルドが多いそうだ。
 まぁ、ケモラーギルド南側幹事はすっぱりと「一番やりたいことをしているのだから文句は言わせない」と気持ちいいほど跳ね除けているそうだが。
 で、俺のところまで来る。

「おい、変態勇者。なんとかしろよ!」
「何とかと言いますけど、ゲームなんですから自分なりに楽しむのが道理でしょう?」
「うっせーよ、ゲームなんだから進めるのが普通だろ!!」
「それは貴方の普通です。逆に聞きますけど、貴方方がグランドクエストと呼んでいるルート開発を無理やり進める行為ですが、それで何か楽しいんですか?」
「!!!!!」

 この会話で自称トップギルドとは亀裂を生んでしまいました。
 おかしいですね、俺もどんどん進める派だったんですが、彼らの取りこぼしが勿体なさすぎて、密度を濃く攻略しているだけなんですけど。

 彼らは最前線と言いながら、シティークエストの終了率が悪すぎるのだ。

 この第8の街に至るまでのシティークエストの終了率は彼らで43%。
 私は100%、この差は大きい。
 なにしろ100%にしないと住民の協力は得られないし、街自体が他の街と連携しないので流通に滞りが出来る仕掛けなのだ。
 だから先日まで第8の街では魔法薬や理療薬が底をついており、非常に高い値段で売買されていたほどだ。
 その影響で住民たちは非常に困っていた、というのが背景としてある。
 が、第7の街までを100%にしてきたことにより、流通網が追い付いてきたおかげで物価の高止まりが解消され、攻略の足掛かりもできたはずなのだ。
 だが、俺の進行しているルートはレアモンスタールート。
 同じマップに居ない可能性が極大で、俺の進行が彼らに与える影響が少なすぎる。
 だったらシティークエストを先行させるのは当然ではないだろうか?

「・・・そう説明してやればいいじゃないですか」

 ケモラーギルド南幹事が疲れたような顔で言うので、にっこり笑う。

「そうしたら、彼らは俺を下働きのように急き立て始めるに決まってるじゃないですか。そんなの『楽しく』ないですよ」

 ケモラーギルドのみんなが居るこのゲーム、楽しいのだ。






 運営に直訴をしやがった。
 このゲームを楽しんでいるのに邪魔をするプレイヤーがいる、と。
 その事実確認という場に呼ばれたが、そこはVRの空間。
 さてさてどんなことが行われるのやら、と思ったら、なんと俺一人。

「つるし上げ?」
「いえいえいえいえいえいえいえ」

 するりと現れたのはスーツ姿の営業っぽい人。
 ネームプレート付で「担当」と書かれている。

「実のところ、彼らの発言がおかしい事は気づいているのですが、こういうプレイスタイルである可能性も考慮しまして、場所だけは用意させていただいたんですよ」
「さすがVR、その包容力に甘えてるんですね、彼ら」
「あははは、誰もが信じられないほどの参加費を払ってくれているんです。それなりにお答えしますよ、我々は」

 どうやらこの空間に居るのは俺と担当だけのようで、自称攻略さんたちは別空間でギャンギャンやってるそうだ。

「しかし、こんなに楽しい空間なのに、なんであんなこと言いますかね?」

 確かに緊張感がないとは自分も言ったが、戦場のような空気を求めているわけではないのも事実。
 どちらがいいかと言えば、楽しい方がいいのだ。

「VRMMO、という形から来ているものだと考えています」

 本当は運営が求めていたのは第2現実というもの。
 それを斜め上でプレイする俺や父達の存在は運営にとって非常にうれしいプレイスタイルだが、テンプレートで言えば攻略ギルドと呼ばれる存在も必要であることは間違いないとか。
 ただ、運営が求める自由なプレイスタイルは、ケモラーギルドや女勇者、そして俺や父の方向性なのだという。
 何しろVRの運営には政府レベルでの接触があり、ゲーム部門以外がどんどん大きくなっているそうだ。

「だから貴方や御父上には感謝が絶えません」
「いやいや、勝手に利用させていただいているだけですから」

 終始和やかな空気の中で事情聴取という名前を借りた休憩時間が終わったのだが、向こうの空間ではログイン限界時間まで喧々囂々が続いたらしい。




 結局は自称攻略ギルド集団は、運営より独自ルートを得た。
 というか、町移動まで含めてサーバーを分けたのだ。
 俺などはクレーマーとプレイヤーを分けたと言ってもいいと思うのだが、彼らは運営からかちえた権利として大々的にブログで公開した。
 そう、条件闘争で勝つことがあり得ないと思われていた分野での勝利で沸き立つ支持者たちであったが、その裏で妙なことが起き始めていた。
 攻略ギルド人員の減少と流通の停滞であった。
 初めは気づかなかった彼らであったが、3日ほどしてたべるものにも事欠くようになっては大弱りで、運営に直訴をした。
 が、システム的な不備は一切ないの一点張りで返答ともいえない内容だったとか。
 致し方なく、勇者ブログへ問い合わせようとしたら・・・

「・・・アクセスできない!」

 そう、勇者ブログおよび女勇者ブログへのアクセスが出来なくなっていたのだ。
 割と楽しみにしていたプレイヤーも多かったため問い合わせたところ・・・

「あのVR内ブログは、同一サーバーからしかアクセスできない設定になっています。その設定変更の予定はセキュリティーの関係上ありえません」

 とにべもないモノだった。
 これは条件闘争で勝った自分たちへの嫌がらせか、と大いに不満を鳴らした彼らであったが、気づいたときにはギルド構成員の半分以上が居なくなっていた。
 これはあれだ、と理解した。
 ログインを止めることによって抗議しているのだ、と。
 その事実を感じ取った彼らは、抗議のために一時的にログインを止めた。
 見なくなったギルド構成員の大半が女性であったことに気付かぬままに。





「どうみても、向こうは寂れるしかないし」
「うちら、システム側の賑やかしとしては、あんな空間でお仕事は無理よねー?」
「「「「「ねーーー」」」」」



 攻略ギルドに参加していたはずの「接待プレイヤー」数名がケモラーギルドの第二ギルドハウスともいえる宴会場にやってきたときの話。
 彼女らはプレイヤーに気持ち良くプレイしてもらうために差し込まれた、PCである。
 その場の空気を盛り上げたり、歓声を上げて盛り上げたりするのがお仕事なのであって、攻略を進めることがお仕事なのではないのだ。
 ゆえに、攻略を進めるはずのプレイヤーがその役目を果たしてくれないなら、そのサービス需給も止める、それが彼女らの意見だった。

「そんなに空気悪いんですか?」
「「「「「さいあく~」」」」」

 曰く、シティークエストを進めないから流通は止まるし住民の協力はないし。
 物価も高いし買い取りは安いし。
 日に日に住民の感情は悪い方に向かっているのに気づく様子もないし、という感じらしい。
 いや、気づいている、理解した人間は、実のところ運営に泣きを入れてこっちのサーバーに移ってきているとか。
 というか、うちのブログや女勇者のブログ見たさでサーバーを移すって、何処が攻略組だよ、と思わなくもない。

「で、でさぁ、勇者さん」
「なんでしょう?」
「「「「「モフモフさせてくれないかな!?」」」」」
「君たちが接待されてどうするの?」

 大爆笑の一幕。






 一応、ログイン停止している方々にも、なぜ街の空気が悪いのかなどの説明が行われたらしい。

 完全にやりすぎな気もするけど、顧客へのサービスの一環であるという話は理解できるので仕方ないとは思うけど。
 シティークエストの重要性について初めに説明がなかった、マニュアルに書くべきだとか大騒ぎになったらしいのだが、楽しみ方は本人の自由だし多様性のあるプレイスタイルがVRの世界を支えているのだ、と運営は抗弁した。
 それは現実の世界も同じである、と。
 VRという媒体を通した現実である事実を突きつけられたプレイヤーの一部はVRをやめてしまったモノもいるという。
 求める理想が現実という名前に侵食されてしまったのだから絶望もするだろう。
 彼らの言う攻略も一つのプレイスタイルだと思うんだけど、その一片のプレイスタイルだけで支えられるほどVR「世界」は優しくないというだけらしい。
 本当に「VR」は「世界」を作りたかったんだと理解できる話だった。



「いやね、本当に我々も、我々の会社の理念に賛同してほしかったんですよ・・・ぐちぐち」



 とまぁ、こんな企業ログインしてくる担当アバターが増えたのは計算外だっただろうけど。






 リアルで、裁判の傍聴席に座るのって胃が痛い。


 あの女の判決が出るというので、ケモラーギルド員の記者に傍聴席へ引っ張り込まれた。
 一応変装しているので気づかれないだろうけど、あの女は終始「ぶつぶつ」とうわ言のような言葉をつぶやいている状態で、心神耗弱が立証されようとしていたのだが・・・

「・・・あのひとがいる!!!!」

 目をくわっと見開いて、抑え込んだ警備をはねとばし、傍聴席へ走ろうとしたところを抑え込まれた。

「はなせ、離しなさいよ!! あのひとのところにいくんだから、はなせ!! おい、弁護士、話が違うだろ!!私は無罪なんだろ!?あの人の処に帰るんだ、帰るんだぁ!!!」

 大混乱の裁判場は一時閉会となり、再開は後程日程を明らかにするという事になったが、一度引っ張られたあの女、心神耗弱状態は演技であることが分かった。
 精神鑑定上、そう言う結果になるように弁護士に誘導されていたところまで明かされると、件の女弁護士は記者会見も開かず降板を宣言して逃げ出し、選任弁護士を選ぶと言ってもだれも引き受けたがらず、大いにもめることになった。

 そんなのを目の前で見せられた俺は、何をどうしたらあんな女になるんだろうと首をかしげる。
 あの女、付き合ってる頃はちょっとお高い感じの可愛い女だったのに。
 再び見てみると夜叉もかくやという感じ。
 俺自身も人生つまづいたと思っていたけど、あいつはあいつで人生躓いて転落して七転八倒している最中なんだろうと理解することにした。
 というわけで、

「二度と傍聴しねーし、関わらないから」
「すんませんでした」

 この騒ぎを週刊誌の記事にしようとしていたが、大いに反省して記事にしないことを一応宣言した。
 その程度では許さないが、一応落としどころは作っておかないと人間関係というモノは容易く壊れるものだから。


 で、後日行われた結審で、あの女は収監が決まった。
 ただし精神的にバランスも崩れているので、治療を行った後に、という条件付きである。
 裁判官も色々と苦労したことが伺える。
 あとあの女弁護士。
 弁護士会からの追放が決まった。
 やはり引き継ぎも何もなしで逃げ出したのが効いている。
 もちろん、テクニックとしての精神鑑定書も効いているが、これは不問とされた。
 これが大人の世界なのだ。






 女勇者曰く、まじで社長がログインしたそうだ。
 あの仕事中毒で大企業カブレの社長が。
 ルートは北ルートを進行中で、色々と女勇者に質問が飛んでくるとか。

「VR事業部とか、マジで考えてるみたい」
「・・・えぇぇぇぇ?」

 本気で嫌な気分になった俺だが、社長、実は時間圧縮率が非常に高いらしい。
 そこからリアル時間の圧縮による業務密度上昇を思いついたというわけだ。

「わたしより圧縮密度が高いのは悔しい」
「あー、わかるかも」

 一応、進行速度は遅い方なので直ぐには追いつかないだろうが。
 北ルートの100%化には女勇者が関わっているので、彼女の後を追うという事は、補給や協力が完備された乳母日傘状態なわけで。
 そぞろ追いついてくるだろうことは間違いない。

「やぁきみたち、ちょっといいかね?」
「「社長・・・」」

 思わず苦笑いの俺たちだが、仕方あるまい。
 とはいえ昔のサラリーマンがゴルフ接待をしていたわけだが、もしやVR接待とかいう新分野でも作るつもりだろうかと訝しむのは仕方ないかもしれない。






 第九の街に進んだ。
 第八の街からのルートはどうやら統合されたらしく、ケモラーギルドの皆さんと大規模なチームを組んで移動になった。
 これを「キャラバン」というらしい。
 第九の街は砂漠のオアシスだそうで、俺たちが到着する前から歓迎ムードだそうだ。
 何しろ始まりの街からのインフラ整備をしてきているようなものだ。
 オアシスだって待ち望む何かがあるのだろう。
 そして「それ」を提供する俺たちを歓迎しないわけがない。

「世の中、ギブアンドテイク、そう言う事だろうね」
「そうっすね、勇者殿」

 砂漠の定番、サンドワームかと思いきや、砂狼砂猿、砂蛇なんてのもいる。
 あと強敵サンドゴーレム。
 最初は砂スライムかと思った。
 どこかの合成魔族のように、弱点になる核を壊さないと倒せないが、その各以外は単なる砂なので、武器が効かない。
 あと、俺の緑落とし穴も効かないので、割と苦戦。
 新しいネタを考えないと、というつぶやきはさて置き。

『うむ、主。弱点とな? それは何がいいかという話か?』

 羅豪曰く、弱点など簡単に見つかるであろう、と大笑い。
 えー、とケモラーズと首をかしげたが思い浮かびもしない。

『主様、主様』

 ちょいちょいひっぱるシリウスに顔を寄せると、べろっと舐められた。
 やだ、ちょっときもちいい。
 思わずがしがしと撫でたが、シリウスは嬉しそうにしている。

『わかりました?』

 え?

 ふたたび首をかしげる俺とケモラーズ。
 なんだろう・・・。

 そんな俺たちの前に、砂大蜥蜴出現。
 これは! と身を引いたところで顔が涼しい事に気付いた。
 シリウスの唾液・・・液?

 瞬間、シリウスを見ると、垂れる舌。
 で、視線を戻すと、大蜥蜴の堅そうな舌。
 そういう事か、と弓矢にエンチャント。
 名称、青の矢!!


 どびしっと、信じられない音がして矢が通った。
 おどろくケモラーズの皆さんだったが、鑑定持ちがそれに気付いた。

「弱点、水なんですね!!」
「「「「「納得だぁ!!」」」」」

 水系魔法持ち大暴れ、というか今までなんで使わなかったんだというぐらいに効果的で、驚くほどであった。
 このへんのゲーム思考不足は某攻略ギルド解散の影響なのかもしれない。
 とはいえ、こういう協力プレイもありなので、楽しいは楽しいのだが。






 第九の街は、非常にアラビアンナイト風の楽しい空間だった。
 視覚的にも感覚的にも。
 数少ないながらプレイヤー女性もいるケモラーギルドにとって、モフの少ない空間なので人気は低いであろうことは間違いないのだが、この先に控える大迷宮と大ボスが居るという情報で少なからず盛り上がる。

「またゲットですよ、勇者殿!」

『浮気かぁ? 主』
『どんなハーレムでも一番になって見せます!!』


 なんというか、今日も頭の痛い空気のVR。
 明日はどっちだ、そんなかんじ。
まぁ、俺たちの戦いはこれからだ、エンドは前のと同じw

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