蝕−ショク−(7/35)縦書き表示RDF


蝕−ショク−
作:尾継也太



蝕:07


 安友邸は一見シンプルだが、機能とデザイン性が見事に融合した作りとなっていた。適度な幅を持った廊下と、全ての部屋を繋ぐ開放感溢れる吹き抜け。一面ガラス張り、二メートル四方の中庭には、刈りこまれた芝生の上に一本の若木が植えられ、照れながらもその存在を主張していた。
「いやぁ、素晴らしい邸宅だ。さすがは青葉さん、センスが良い」
 案内されながら境生はしきりと青葉を褒めていたが、都度お礼を返す彼女の顔は浮かぬままだった。
「こちらへどうぞ」

 青葉に言われるままに案内されていた三人は、奥にある、この家のデザインにしては少々不自然な間仕切りの前で立ち止まった。位置的には二階へと続く階段があるあたりだろうか。開放感を無理やり閉じこめたような不自然さ――
「んー、良い扉だ」
 心なしか境生のお世辞にも元気がないようであった。
 栄都の美的感覚ではこの扉の存在が許せなかったのか、渋い顔つきで青葉に尋ねる。
「これは後から取りつけたものですか? 何らかの明確な意図があるとお見受けしますが」
「はい……。一ヶ月程前に取りつけました。理由は、見てもらえれば分かると思います」
 ここに来て一層の翳りを見せた青葉は力なく呟いた。
 どこか投げやりな青葉の態度に、不満気な栄都が扉を開け――瞬時、動きを止めた。
 
 ――白。
 
 あまりにも白い。扉の奥。白い世界。デザインは誰が見ても見事であるにも関わらず、配色のバランスが異常である。フローリングは無残にも白ペンキで塗りつけられ、ガラス窓も白スプレーが隙間なく塗布されている。階段も立体感を失い、すべり止めの小さな溝に出来た影が無ければ、それと知るのは難しい。
「こ、これは一体……」
 奥行きを失い、重力だけを頼りに立っていた道明は、バランスを失わぬよう注意しながら青葉の方に振り向いた。が、空気の流れを感じたのか、それとも恥じているのか、道明が見た青葉は既に苦悶の表情で俯いているだけだった。
 栄都は深刻そうな顔つきのまま、黙って周囲を見渡していた。境生はそれでもなお、お世辞を言おうと努力していたが「あぁ」だの「うぅ」だの呟くのが精一杯で、言葉にする事は出来ずにいた。
 この空間における無機物は、その殆どが白色に上塗りされていた。――否、有機物は見当たらないだけで、存在すれば当然の様に塗られていたかもしれない。そこは完全に白のための、白の支配する、そんな世界だった。







ネット小説ランキング>「蝕-ショク-」に投票






ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(1) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう