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蝕−ショク−
作:尾継也太



蝕:35


 繰り返される御礼に罪悪感を感じ早々に青葉邸を辞した二人は、昨日同様、自動販売機コーナーに立ち寄った。
「あー、腰が痛てー」
 境生は下車するなり片手を腰に当て、大きく伸びをした。
「全くですよ。このボロ車、いい加減に買い換えたらどうです?」
 大地が揺れていない事を自分の足で確認した道明は、閉めたばかりのドアを数回叩いた。
「こら、おれの愛車に何しやがる!」
「愛車? この車が?」
「たりめーだ。つーか、おれの腰が痛いのはお前のせいだっつーの」
「僕、ですか?」
「そうだよ、お前いくらなんでも倒れすぎ! 支える身にもなれっての」
 コーヒーを取り出していた境生は、腰の痛みを思い出したのか、再び腰に手を当てて言った。
「それは――しょうがないでしょう」
「しょうがなくねーよ。どんだけくさい演出だよ。おれの完璧な演技が全て台無しになるところだったぜ」
「そんな事言ったら先生の『白塗り』だってそうでしょうよ。僕なんてあれ聞いて、思わず笑ってしまうところでしたよ。何ですか、あの安易なネーミングは」
「分かり易くて良いじゃねーか」
「幼稚だって言ってるんですよ」
「何――」
 にゃあ――自動販売機の影に隠れていた猫が、境生に向って短く鳴いた。猫は二人の視線に気付くと素早く立ちあがり、境生の横をすり抜け、すぐさま闇へと消え去った。一瞬だけ人工光に照らされたその白猫は、道明にはとても美しく思えた。
「ま、いいか。上手くいったし」
 境生は取り出した缶コーヒーを道明に抛りながら、静かに言った。
「ですね」
 柔らかな風が道明の頬を撫でる。
 渡された缶コーヒーを一口飲んで、道明は空を見上げた。空は相変わらず分厚い雲で覆われていた。
「お別れですね」
「ああ……」
「やっぱり先生がいないと妖怪退治なんて出来なかったと思います。僕だけではきっと失敗してました」
「正直、おれも一人じゃ無理だったろうな。役者が二人いて良かったよ」
 道明は役者と言う言葉に思いを巡らせたあと、右手の痣を優しく擦り、悲しそうに小さく笑った。
「ですか」
「ああ……」
 僅かに滲んだ道明の目は、雲上の月を確りと捉えていた。


批評依頼中のためせめてストーリーの流れだけでも思い、後半部(一人称になったあたりから)は殆どが心理描写しか書いていません。

いずれ書きなおします。お目汚し申し訳ありません。

話自体はもう少し続きます。






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