蝕:34
抱き止められた感触に気付き、僕は目を開けた。
「大丈夫か?」
「……」
問題はない。奴は完全に倒した。これでも僕は優秀なのだ。
それでも僕は自分の足で立つ事はしなかった。ただ、もう暫く浸っていたかった。
だらりと下げた自分の手を見やると、そこには痣が戻っていた。痣が消えたのは初めてだったが、どうやら一時的なものらしい――
振り向くと境生は僕をじっと見ていた。
「な、何ですか? 顔、近いですよ」
「ん、ああ、すまん」
「もう大丈夫です。立てます」
「良し」
境生は僕を床に下ろし、抱きしめ合っている青葉と哉来に向き直った。
僕は自分で思った以上に気を失っていた事に気付き、その事がちょっと恥かしかった。
「それではこいつも気が付きましたし、僕らはこれで失礼します」
「おじちゃん、ありがとう!」
境生にむけて放った哉来の声が意外に子どもっぽくて、僕は少し驚いた。
「お兄ちゃん、な」
「えー、だって」
「雅ちゃんは、お兄ちゃんって言ってくれたぞ」
多分嘘だ。
「じゃあお兄ちゃん達、ありがとう」
僕を含める事で、哉来は哉来なりに決着をつけたのだろうと思う。やはり彼は大人だった。
「お二人とも、この度は本当にありがとうございました」
「いえいえ、もしまた何かありましたら栄都ではなく、我が日本一妖怪退治事務所にご相談下さい」
苦笑いでも良いか――初めて見た青葉の笑顔は、とても美しかった。 |