蝕:14
栄都達を乗せた車を見送り、回答のない自問にも一通り決着をつけ終わった頃、道明は境生を振りかえって言った。
「でも病院に連れて行ったところで問題は解決しないでしょうね」
なかば呆然とした状態の道明であったが、冷静な判断も持ち合わせていた。
「おっ、分かってるじゃねえか」
「栄都さんには悪いですけどね」
「良いんだよ、あいつは。あれはもう依頼人のためとかじゃなくて、たんに自分の興味ってだけだろう。ま、あいつもこれで終わったなんざこれっぽっちも思ってないだろうけどな」
ふーん、そんなもんですか――境生の栄都に対する正直な評価に、道明は好感を持った。また、それは道明の父の信頼回復にも若干の効果を齎したようでもあった。
「ところで先生、気になってたんですけど、さっき女の子がこっち見てませんでした?」
「ん」
「ほら、あそこの影で白い服を着た女の子が」
「いつから」
「僕が外に出た時には居ましたけど」
「珍しい車でも見て追いかけてきたのかな」
「いや、車じゃなくて僕らの方をじっと見てたんですよねえ。特に哉来君が出てきてから」
「ありゃ、見られたかな」
「ええ、彼が家から出てきたのを見て、表情が変わりましたから」
「幾つくらいかな」
「さあ、多分小学生だと思いますけど」
「ふうん、目良いな、ロリコンか」
「違いますよ、失礼な。僕の目は色々と良く見えるんです」
「そうなの、視力は?」
「一.0ですけど」
「普通じゃねえか、ロリコン」
「じっとこっちを凝視されてたら気になるでしょう? もう良いですよ」
「嘘、嘘。で、どっち行った」
「三件先の家に入っていったから、そこの子供じゃないですかね」
「よし、戸締りを強化するよう言っておこう」
「先生、いい加減に――」
「冗談だよ、冗談。まあ、哉来君の事を学校で言わないよう、説得でもしてくるよ。案外関係あるかもしれないし」
「聞いてくれると良いですね」
「説得は得意だ、まかせろ。お前は青葉さんに、そうだな、少年の担任の連絡先でも聞いといてくれ」
「了解です」
少女の家に向ってのんびりと歩き出した境生の背中に視線をおくった道明は、必死に少女を説得する境生の姿を想像し、ちょっと笑った。 |