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  夜光伝記 作者:古河新後
記第終説 夜光伝記
 「・・・・終わった」

 天啓は夜空を仰いでいた。

 全ての元凶たる『創造者』、倒す事が出来たのは自分一人の力ではなかった。そう言えば皆は―――――

 振り向こうとした瞬間、全身から力が抜けた。ゆっくりと後ろに倒れる。

 「―――――っと。危ないですね」

 倒れた天啓をリオが支えた。

 「――――リオ・・・・大丈夫なのか?」

 「少し休みましたから大丈夫ですよ」

 と、いつもの笑顔で応じる。そしてゆっくりと地面に寝かせた。

 「――――そうだ。皆は・・・・天月達は・・・?」

 「――――私の事か?」

 天月は腹部を押さえながら歩いてくる。

 「後一分、リオの治療が遅れて居たら、死んでいたよ」

 「――――・・・・よかった。嵐道達は・・・?」

 「海砂も皆、無事だ」

 横目の視界に、肩を借りながら歩いてくる二人の姿があった。

 「よかった・・・・・・」

 安堵の息を漏らすと、

 「――――悪い・・・リオ。少しだけ眠る・・・・・」

 そう告げ、ゆっくりと目を閉じた。

 「・・・ゆっくり休んでください。戦いは終わりましたから」

 天啓は微笑を浮かべると、視界が暗くなって行った。




 「・・・・まさか、あれに勝てるとは思わなかったよ」
 嵐道は、落ちている創造者の服を見る。

 「――――あれほどの戦闘能力があるとは・・・・・SAR全員でかかっても倒せるか分からない相手だった・・・」

 その時、辺りから一斉に声が上がった。生き残った者達による歓喜の声だ。

 「・・・・・」

 「ま、いいんじゃない?」

 「―――彼らの記憶を消そう」

 天月は一歩前に出る。

 「―――確かに賢明な判断だね」

 「全員、天啓の回りに寄れ。海砂、天啓も含めて、私の影響を受けないように彼の周りに陣を張ってくれ」

 「はい」

 さゆは慌てて移動する。

 その時、覆っている何かがゆっくりと溶けるように消えていく。この陣の主である創造者が陣内から消えた事で、反転陣が解除されているのだ。その範囲に伴い、人々の姿も消えていく。

 「海砂。私も入れてくれ」

 陣の影響を受け、グロールに帰らないように天月も陣内に退避する。

 そして、その場には自分たち以外誰も居なくなった。

 「・・・・・・」

 さゆは陣を解除する。

 「―――さてと、俺達も行こうかな」

 「おう」

 嵐道は佐川にそう言うと、歩き出す。

 「ありがとうな二人とも」

 その背中に天月は礼を言った。

 「どうって事無いよ」

 「その通りだぜ!」

 二人の言葉に僅かに微笑する。と、

 目の前の微弱な電気が走る。その時、ねじ曲がるように空間が開いた。そこから一人の女が歩いてくる。

 「わざわざ迎えに来てくれたんですか?」

 「おお、姉御」

 嵐道と佐川はそれぞれ声を出す。

 「リジットさん!?」

 その女を見てさゆが声を上げる。

 「久しぶりだな、さゆ。それとリオに五十鈴も。――――――そこにいるのは誰だ?」

 女は倒れている天啓を見て尋ねた。

 「友達ですよ」

 嵐道が答える。

 「・・・・・そうか。さっさと帰るぞ」

 そう言うと、空間の中に入って行く。

 「それじゃまたね。天月さん」

 「また会おう! 友よ!」

 と、二人の姿も空間の中に消えた。




 「――――よかったのか?」

 空間の中を歩きながらリジットは嵐道に訊く。

 「・・・・・・・・」

 「今から戻るか? 必要なものなのだろう?」

 「・・・・・いえ。俺は自分の力で彼女を助けてみせます」

 その表情を見たリジットは苦笑する。こいつもこんな表情をする年になったか・・・・

 「政治! 俺に出来る事があれば何でも言えい!」

 「――――そうだね。ありがとう吉良助」




 青ヶ島から遠く離れた大海を走る船。

 「隊長」

 天月は甲板を歩いている灰原を見つけて声をかけた。

 「――――ご苦労だったな五十鈴」

 「―――今回の標的『創造者』は倒す事が出来ませんでした」

 「・・・・・・・」

 「―――私自身、相手の能力を見誤ってしまい、取り逃がす結果となってしまいました」

 「――――力不足を悟っているか?」

 「・・・・・。はい・・・・・・・」

 「・・・・・・・ならいい。それよりも何か言いたい事があるんじゃないか?」

 灰原は天月の僅かな雰囲気を読み取り、心の中を言い当てる。

 「・・・・・おじさん。組織に加えたい人がいるの」




 「あー、疲れましたよ〜」

 リオは甲板で風を浴びながら寄りかかるように手すりに垂れ下った。

 「よぉ、リオ」

 その時、反対側から浅倉が歩いてくる。

 「――あ、アクラン!」

 「・・・・そのあだ名、どうにかならねぇか?」

 「う〜ん・・・・・・アサクラン!」

 「――――ほとんど変わってねぇじゃねぇか」

 「えーっと、それじゃ・・・・・」

 「―――もういい」

 浅倉は諦めたように息を吐くと、横に並びながら本題を訪ねた。

 「『創造者』は仕留めたのか?」

 その言葉にリオは一瞬ためらった様だったが、

 「―――いいえ逃げられましたよ」

 どうせ後で知ることなのだ。正直に答える。

 「・・・・・勝てる戦いだったか?」

 心配するように浅倉はリオの顔を見た。

 「――――圧倒的にこちらが負ける戦いでした。でも、皆諦めなかったから生き残る事が出来たんです」

 「・・・そうか。・・・ま、命第一だからな。よくやったよ」

 そう言うと、歩いて行く。

 「―――どこ行くんですか?」

 「――うどん喰ってくる。お前も行くか?」

 リオは、一度後ろの船室の扉を見て、

 「―――あたしはいいです」

 そう答えた。

 「―――――じゃあな」

 と、浅倉は片手を上げながら歩いて行った。

 すると、入れ違いに天月が歩いてくる。

 「――――リオ」

 「スズちん。どうでしたか?」

 「承諾はしてくれた。だが、組織に入るかどうかは、本人が認めた場合だ。あいつの返事待ちだな」

 天月は横にある船室の扉を見る。

 「――――天啓は大丈夫なのか?」

 「―――全身にダメージは負っていましたが、なんとかなりましたよ。今は眠っている状態です」

 リオは見守るようにそう答えた。その時、桜の花びらが眼に入った。




 船は本島に近づく。戦いを制したのは闇でも光でもない。

 様々な思いがぶつかり合い、その内の一つが貫き徹されたと言う、ただそれだけの戦いだ。

 青ヶ島は遠目でも分かる桜で満ちていた。その花びらが風に乗り、生者たちに祝福をするかの様に船へと降りそそぐ。

 この話は終わりではない。既に始まっている、終りへの序章に過ぎないのだ。























































































































































 あなたは奇跡を信じますか?

 あたしは奇跡を信じます。

 あの人は奇跡なんて信じない、と言うけれど、あの子と一緒にまた歩ける日が来るなんて、あたしにとっては奇跡なんですよ。

 みんな無事に帰れたのも、

 最後の戦いで創造者を退ける事ができたのも、

 それに・・・・あの人と、また出会えた事も奇跡だって信じています。

 奇跡って言葉が軽くなっちゃってますが、あたしには十分過ぎる重さなんですよ。

 それだけ大切って事なんです。

 それだけ幸せって事なんです。

 だから、あなたにもう一度だけ尋ねさせてください。

 あなたは奇跡を信じますか?
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