記第二十六説 召光
「『創造者』の居場所が分かりました」
早朝。和食を食べていた円卓の騎士一同に、白士が唐突に告げた。
「本当か?」
確かめる意味を含めてガウェインが尋ねる。
「はい。前から目星をつけていた所で反応がありました。ほぼ間違いはないと思います」
「それじゃあ、いよいよ対決だね」
ガラハッドは刺身を摘む。
「いや・・・・・まずは説得からだろう。その上で拒むのならば実力行使しかない」
まとめるようにパーシバルが言う。
「確かに、それが一番いい方法ですね。決行は夜。昼では彼らよりも私達が目立ってしまいます」
「――――各自、時刻までに武器の状態は万全にしておく様に」
ランスロットが言うと、騎士一同は同時に肯定した。
看護婦も含めて病院内で一番元気なリオは、とても退屈だった。
「・・・・・・・暇ですねぇ〜」
いつもなら、この時間帯は彼が来てくれるのだが、それには問題が生じていた。
一週間前から天啓は病院に姿を見せなくなった。
最初は何かの都合で来れないのかと、思ったが、スズちんの話では学校にも来ていないと言っている。
さゆも、能力を使い、街全体を索敵しているが、未だに彼に関する情報は無い。
「暇そうだな」
そこに天月が訪れた。
「暇で死にそうですよ。早く学校に行きたいですね」
「――――天啓はまだ見つからない」
天月はリオのベッドに座る。
「・・・・・そうですか」
「嵐道と佐川にも頼んで、捜すのを手伝ったもらっているが、音沙汰は無しだ」
リオは落胆の表情を浮かべた。
「一つ良い知らせがある」
「なんですか?」
いい知らせと聞いて、少しだけ表情を戻す。
「『創造者』の本拠地らしき場所を見つけた。場所は、建設途中のビルだ。天啓を捜していたら海砂が不審な気配を感じ取ってな。その場所に行ってみたら、今までに無い気配を感じた」
「そこが?」
「十中八九当りだろう。今夜私がそこに乗り込み、決着を付ける」
天月は自信を持って言い切った。敵の本拠地となればその戦力は未数値だ。交戦した『回天王』や『円卓の騎士』が待ち受けている可能性は高い。それに加えてこの任務の最重要標的『創造者』が居る事は必須だろう。他にもまだ、未知なる戦力が蠢いているかもしれない。
「大丈夫ですか? 一人で」
「――――なんの為に私がこの任務に選ばれたと思っている?」
軽く息を吐きながら呆れるように言う。
「能力を最大まで引き出せば、敵がどれほどの実力を持っていても関係がない」
「でも、その反動は大きいでしょ? 気をつけてくださいよ」
「―――分かっている。敵のど真ん中で強制休養なんて事になったら笑い事じゃすまないからな」
天月は立ち上がるとバッグを出した。
「――――これは?」
「明日は午前で退院だろ? そのまま学校に来れるように制服と明日の時間割だ」
「・・・・・・・・わざわざ・・・・・どうも・・・」
見たくなかった物を見るような眼でバッグを見る。
「任務を終わらせても気長な滞在だ。卒業式ぐらいは出ようじゃないか」
扉に向かって歩き出す。
「――――ああ。それと、武器は一応整備しておけよ。念の為にな」
そう言うと、天月は病室を後にした。
満月が大地を照らす夜。
円卓の騎士と白士は巨大な扉の前に居た。
「こんな所に『複式空間』を創っていたとは・・・・・・どんなに捜しても見つからない訳だぜ」
ガウェインは扉を見上げながら言う。
「我々と白士は中に入る。ガウェインは、外で待機。異常があった時は、その際に対処してくれ」
「―――了解」
ランスロットはそう告げると白士たちを向き直す。
「それでは、行きましょうか」
白士が扉に近づく。
「・・・・・ああ」
「うん」
パーシバルとガラハッドは同時に返事をした。
彼女が扉に触れると表面に巨大な陣が光り現れる。そして、陣が消えると軋むような音を立てて重い扉がゆっくりと内側に開く。
無言で白士は中に入る。その後にガウェインを除いた騎士たちも続いた。
「ここか・・・・」
ほぼ同時刻。天月は骨組みが目立つビルを見上げていた。
「海砂。聞こえるか?」
耳に着けている通信機に手を添え正確に機能しているか確認する。
『―――はい。大丈夫です』
「サポートを頼むぞ。位置を教えてくれ」
『――――位置は――――! 正面から生命反応です。気をつけてください』
その言葉に正面を見る。ビルの中から一人の男が歩いてきた。
赤茶の髪。茶色に白を混ぜた傷の付いた鎧。その上にローブをまとっている。
「――――こっから先は立ち入り禁止だ。肝試しは止めて家に帰った方がいいぞ。お嬢さん」
どうやら相手はここに好奇心で来た学生だと思っているようだ。学校が終わってから、すぐここに来たため服装は制服のままだった。
「・・・・・・・」
横に手を突き出す。すると肘から先が消失し、戻したその手に厚手のコートが握られていた。舞う様にコートを着ると相手はようやく理解したようだ。
「『ハンター』か・・・・・それも『賢者』だな?」
背負っている剣の柄に手をかける。
「――――質問に答えてもらおうか」
「教えられる範囲であればな・・・・・」
柄に手をかけた状態で会話を始めた。
「――お前達の目的は?」
「――――俺達の目的は、『創造者』を止めることだ」
「ほぅ・・・・同族を討つのか?」
「――――アヴァロンはそう思っているだろうな。確かに同族ではあるが、仕える主が違う」
「ならば何のために『創造者』を止める?」
「・・・・・・・必要だからさ」
「――――何?」
「俺達と『死人』の考えが必ず同じとは限らない」
「・・・・・・・」
「―――今度は俺からの質問だ」
「・・・・いいだろう」
「お前の名前は?」
意外な質問だった。組織の事や、ここに居る目的を聞かれるのかと思ったのだが・・・・・・
「天月五十鈴」
別に隠す必要も無いため、まともに取り扱う。
「そうか。んで、武器は?」
「――――教えると思うか?」
「―――俺が攻撃を仕掛ければ銃じゃ対処は間に合わないぞ」
「・・・・・・・」
「――――銃を使えば装填時に隙ができ、剣を使えば剣筋から隙を見出される。だから、『ハンター』の多くは剣と銃を扱う者が多い。だが、両方を使った中途半端な戦い方では『円卓の騎士』は斬れない」
「・・・・・・・」
「―――――俺の名前はガウェイン」
再び空間に手を入れ、瞬時に引き抜くと、その手には黒い刀身をした洋剣が握られていた。
「・・・ガウェイン卿。今日この場で私と会った、不運を恨むんだな」
天月は睨むように前方のガウェインにそう言った。
歩く音が空間に響き渡る。
扉を抜けて、中に侵入した白士と円卓の騎士達は、同じような光景を見ながら進んでいた。
「――――あれ? これさぁ、さっきも通らなかった?」
等間隔で並ぶ、傷の付いた柱の一つをガラハッドが指さす。
「・・・・確かに、先ほど見たのと同じ柱だな」
パーシバルが指をさした方を見て答える。
「気にせずに進んでください。これは虚像物です」
「虚像物?」
ガラハッドの質問にランスロットが答える。
「視覚は同じモノを見ていると、違和感を感じてくる。そして決定付けるモノを捉える事で違和感は確信に変わる。我々はちゃんと進んでいる。同じ景色を見続け、位置付くモノがあれば不思議と疑問を抱く者は少なくない」
「へぇ〜」
納得した声を出す。
「・・・・・・白士」
一つの柱を見ていたパーシバルが声を上げる。
「これを」
その柱に近づく。そこには、小さな陣が描かれていた。
「予想より早く着きましたね」
陣に手を添えると全ての柱が一斉に光り出す。
すると、奥まで続く道が消えて段差がある空間が現れる。
「・・・・・・・」
その空間を見た白士は静かに目を閉じた。そして、
「少し、遅かったようですね」
この空間を統括する場所に立って初めて分かった。既にここは捨てられていたのだ。
創造者は蓋来狭ビルの屋上に居た。彼の足元には発動していない陣が描かれている。
「―――でも良かったのか? 態々敵に本拠地をさらけ出してよ」
後ろで見ている心蝉は尋ねた。
「――――この儀式は発動途中で邪魔が入っては、せっかく集めた『霊魂』が無駄になる。我々の居た場所を囮に使う事で、敵は私達がミスを犯したと思い確実にそこに集まる。そうすれば『儀式』は確実に成功する」
「なるほどねぇ。さすがだな。より確実性を求める」
「だが、賢人は千に一つ誤りを犯すと言う。油断は禁物。各陣、準備は良いか?」
前方で浮くようにして燃えている炎に話しかける。
「ああ」
「こっちはOK」
「ミスはしない」
「さっさと始めろ」
各自の返答を聞いて足もとの陣が光り出す。
「『反界解縛陣』起動。同時に固定残屍、『器』を設定」
陣の光に連動してビルが光に包まれた。
そして、街のあちらこちらで同じように光の柱が上がった。
天月は剣を引き水平に構えた。相手は『円卓の騎士』。剣を取っての戦いはあちらの方が一枚も二枚も上だ。現に目の前に立ち、柄に手をかけている時点で隙がまるでない。先制攻撃は確実に敗北する。
「・・・・・・・」
「その構え、なかなか道が入っている。突きを主体にした構えに見えるが・・・・・・」
太刀筋が読めない。本来は最初の構えで、どう動くか瞬時に予測できるが、この構えは見た事がない為、うかつに手が出せなのだ。
「・・・・・・・」
双方とその一帯が静寂に包まれる。
その時だった。街の各所で光の柱が上がったのは。
「!?」
「なんだ!?」
二人は光の柱を見る。そして、時間差を置いて更に四か所、光が上がった。
「・・・・悪いな天月五十鈴。勝負は預ける」
そう言うとガウェインは高く跳躍する。すると人型から鷹に化し、夜空に羽ばたいて行った。
光の柱はその範囲を広げて来る。
「・・・・・これは」
天月はさゆに通信を入れる。
「海砂。応答しろ」
『天・さん・・い・街で・・大変・事・・』
時折入るノイズで、よく聞き取れない。
「ちゃんと応答しろ。今街で何が起きて――――――――」
光が天月を飲み込んだ。
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