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君の瞳に映る世界は…… 作者:塚原 蒔絵
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死者

 部長が風のように出て行った数分後、僕が部室に到着すると部屋は散乱としていた。
「どうしてこんなに散らかってるんだ」
「久住先輩ー」
 半泣きの仲原さんが涙ながらに写真を拾っている。
 彼女の周りには散らかったままの写真の山。
「仲原さん。部長はどこに?」
「有川先輩のところに行くって言って出て行っちゃいました。違うんです、散らかしたのは、私じゃないんですー!」
 一生懸命に弁解してくれる。
 別に疑ってもいない。仲原さんは写真に埋もれて暴れるタイプじゃない。
 暴れるのは部長だけだ。
「わかったから、ほら片付けよ。昨日の写真も現像したいし」
「あ、はい!」
 そう言ってテキパキと写真を片付けて数分したころ、仲原さんがいきなり手をとめた。
 どうしたのかと隣をうかがうと、赤い顔をして二つの紙を僕の方に差し出してきた。
「あ、あと先輩! 今日のお昼からってなにか予定あります?」
「予定、ないけど」
「じゃ、一緒に水族館、行きませんか? チ、チケット、もらったんです」
 言うだけでそこまで緊張するのはかわいいなと、少しだけ思う。
 こんな風に一直線に思われている自分は、幸せなのかもと思う。
 黙ったままでいると泣きそうな顔をする仲原さん。そんな彼女に微笑みながら頷いて見せる。
「仲原さんがいいなら、別にいいよ」
「ほ、本当ですか? いやったぁ!! はやく片付けちゃいましょ!」
 飛び跳ねて喜ぶ仲原さん。
 今日が晴れていて本当によかった。
 そう思った瞬間、
「――っぁ」
「仲原さん!?」
 急に仲原さんが胸元を抑えて苦しみだした。
 額に汗が出ている。
 呼吸も浅い。
 小刻みに震えながら、まるで僕の声に反応しない。
「仲原さん、仲原さん!!」
 呼びかけても、ギュッとつぶった目からはなにも読み取ることはできず、しばらくその状態が続くとふらりと彼女は崩れ落ちるように倒れた。
「危ない!」
 倒れる寸前で駆け寄り、床と衝突することは避けた。
 けれど、これからどうしたらいい。
 あたりを見渡すが人がいるはずもない。
「そうだ、涼子」
 仲原さんが倒れたことに関係あるかわからないけれど、彼女がなにかを知っているかもしれない。そう思って僕は涼子の名前を呼ぶ。
「涼子!」
 強く呼んだその声に呼応するように、風がふわりと部室に舞い込み、がらりと扉が開いた。
「そんな大きく呼ばなくても聞こえるのに」
 大学の学び舎で見ることのない年齢の生徒が無表情のまま僕に近づいてくる。
 僕は仲原さんを膝で支えるよう仰向けにして、涼子にすがるような目を向ける。
「急に倒れたんだ。これは君の言っていた、死に引きずられるってのに関係は」
「あるわ」
 短く答えると涼子はしゃがみこみ、仲原さんの胸もとに手を置く。
 そして目を閉じてしばらくすると、少しだけ頬を緩ませた。
「彼女は大丈夫。死者が動揺して、その余波を受けたみたい。死者の人、自分が死人だとでも気づいたのかしら」
「仲原さんは死人が動揺すると危ないの?」
「貴方もよ。まぁ、貴方の場合、もう知っているんだろうけれど」
「それは、どういう意味」
「わからないの? それともわからないフリ?」
 涼子は仲原さんから離れると適当な椅子に腰かけた。
 僕は仲原さんの体勢が苦しくならないようにと、自分の上着を地面に敷き、そこに彼女を横たえる。
「死者は自分が死んでるって知らないんじゃなかったの」
「そうよ。でも、なんらかの原因で知ることもあるわ。たとえば、誰かに教えられるとか、自ら悟るとか」
 死者は自身が死人だと知らない。
 もしそんな人がなんらかの拍子で自分が死んだ存在だと知ったら、その時の動揺は想像を絶するものに違いない。
 僕の考えが表情に出ていたのだろう、涼子が首を振る。
「同情しても仕方ないわ。もう死んでいるのよ」
「でも」
「同情して、その人を生かしておけば、彼女はこれ以上の苦しみを味わうことになるわ。幸い今回は軽い混乱だったようだけど。あなたも同じようになるかもしれないのよ」
 淡々とした口調だ。
 その言葉に反論したいのに、僕の口は開かない。
「こうした状態が数か月続いたら、貴方たちも死者の仲間入りをするの。彼らはそうやって生きている人間の命を食らうの」
「とめる方法は」
「死者に自分が死んでいることをわからせて、納得してもらうこと。自分から黄泉の世界に還ってもらうの」
 涼子は自身のつま先で地面をこする。
「ごめんなさい。ひどいことを言ってるわ」
「そんなことないよ。ありがとう、助かってるから」
「……死者にわからせてあげて。あなたはまだ間に合うから。今がどれほど優しくても、この優しさはまやかしだから」
「うん」
 そう言って頷くと、涼子も頷き、去って行った。
 窓の外にある木々が揺れていない。風が吹いていないんだ。
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