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君の瞳に映る世界は…… 作者:塚原 蒔絵
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部室

 写真部の前に来て、仲原は息をのんだ。
 中から、なにやらごそごそと物音が聞こえるのだ。
 今日はいちばん乗りのつもりでやってきたので、先輩たちがいる可能性は低い。
 では、この中にいるのは誰か。
「ど、どろぼーかぁー!!」
 勢いよくがらりと扉を開け、持っていたカバンを振りかざすと、膝立ち状態の神埼が振り返った。
 ぱちくりと目を合わす二つの顔。
 その一方は真っ赤になり、もう一方は笑い出す。
「やーごめんごめん。この前の地震でさ、いろいろ散らかったじゃない、それの整理しようと思って」
「それならそうと前もって言ってくださいよ。私も手伝いますから」
 神埼が散らかした写真を集めながら仲原は顔を膨らます。
「モデルにそんなこと依頼できないわ。おー、なっつかしー、これ去年の文化祭の写真よ」
「え、どれですか? うわ、有川先輩、女装してる?」
「そーなのよ、この年は劇しててさ。オズの魔法使いのドロシーを有川がしたの。うけたわよー」
 箱を漁っていると沢山の写真が出てくる。
 去年のから、それこそ、いつ撮ったのだと思えるほど古いものまで。
 写真部の倉庫など基本、誰も整理をしない。
 それがこの間の地震の時に崩れ、その場にあった写真を木箱に入れてしまっていたのだ。
 神埼は写真を見ては退け、その動作を繰り返している。
「探し物ですか?」
「ん? まーね。整理も兼ねてね。あたしの記憶違いならいいんだけど」
「記憶違い?」
 神埼の目が真剣さを帯びている。
 聞かない方がいいのかと仲原は一瞬ためらったが、その隙に神埼がにやりと笑う。
「気になる?」
「え、えっと、はい」
「少し気になったのよ。あたしって、今を生きてるのかなって」
「今を生きてるかですか?」
「この間、地震あったじゃない? で、あれでもしかしたらあたしって死んでるんじゃないかなーって。今ここにいるあたしは霊体みたいなものだ、とか」
 頬を掻きながら説明してくれるが仲原には理解できなかった。
 神埼は確かに目の前にいるし、手で触れても消えたりしない。
 この間の地震で神埼が死んだという噂も聞いたことがない。
 仲原はこぶしを握りながら神埼に詰め寄った。
「先輩は生きてます、だって私の目の前にいて――」
「死者だってそう思ってるかもよ? 自分は死んだことにすら気づかない、そういう死者もいるの」
 それは、断言たる口調だった。
 まるで、そんな知り合いでもいるかのような。
 なにかを言い返そうとする仲原だが、うまい言葉が出てこず、彼女の持っている写真がくしゃりと歪んだ。
「……でも、もしそうなら、つらいですよね。だって、自分は死んでるなんて思ってないのにほかの人からは死人だって思われるんですよね」
 もし自分がすでに死んでいて、それに気づいていないのなら悲しいことだ。
 自分はなにも悲しくはないのに、他人は同情の目を向けてくることだろう。
 悲痛な面持ちで顔を下げた仲原とは逆に、神埼は大きな声を出し、顔を上げた。
「あったー!」
 探し物を見つけたのか神埼は箱の中から一枚の写真を取り出し、急いでカバンに詰め込む。
 その様子は焦っているようで、そして少し悲しげ。
 理由を聞いている暇はなさそうだ。
「ごめん、比奈。あたしちょっと有川のところに行ってくる。あそだ、このペアチケット余ってるからあげる、久住くんとでも行けば」
「え? ぶ、部長!?」
 強引にチケットを渡され、受け取る仲原。
 片手で詫びをしながらも、すでに走り出している神埼。
「悪い、散らかしたもの、片しといて。久住くんが怒るだろうから! チケットはお駄賃ってことで」
「うえええ!!?」
 仲原の叫びが響くころ、神埼はすでに部室から退室していた。
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