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君の瞳に映る世界は…… 作者:塚原 蒔絵
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運動場

 有川は運動場で走っていた。
 特に理由はない、体を動かしたい気分だったのだ。
 部活は自主練というので、好きなことをしていい。
 そういう時、有川は決まって走っている。
 その途中、背後から野球のボールが有川めがけて降ってくる。
 速くない球なのでそのまま片手でキャッチすると、投げた相手は実に悔しそうな顔をした。
「香奈枝先輩?」
「有川、今すぐあたしとキャッチボールしなさい」
「は、はあ?」
「いい?」
「いいですけど、ちょっと待ってくださいね」
 苦笑し、ベンチに置いてあるスポーツタオルで汗をぬぐい、ドリンクを軽く飲む。
 神埼は準備運動をしているのか、柔軟をしている。
 そこへ有川は近づいた。
「もういいの?」
「いいですよ。お誘いをどーも、で、どうしたんですか?」
 神埼がグローブを投げてよこす。
 それを受け取り、手にはめる。
「あんたにちょっとさ、言いたいことと、確認したいことがあって、ね」
 速くない球をよこされる。
 受けとり、投げ返す。
「あのさ、昨日のあった女の子、覚えてる?」
「死者は生かしちゃダメとか言う不思議な?」
「そう、それ」
 ばしん、と球を食らったグローブが音を立てる。
「あたしの家にも死者を生かすなって文が届いたって言ったわよね。それでね、あたし考えたの」
「死者が誰か?」
 ボールを投げ返しながら有川は苦笑する。
 すると神埼は力を込めて剛速球を投げてきた。
 ちょっと驚きながらも、有川は球を受けとる。
「死者ってさ、あたしの知り合いなんじゃないかなって思っててさ。まぁ直感なんだけどね」
「それで?」
「死んだ人がいるなら、この間の地震の時に違いないわ。だから、探したの」
 遠くではほかの部活の連中の掛け声がしている。
 二人はコートの少し離れたところでキャッチボールをしているので邪魔にはならないだろう。
 神埼の声が固くなった。
「あたしが死者じゃない場合、絶対に撮ってるはずだから」
 なにをとは有川は聞かなかった。
 なにをと神埼は言わなかった。
 風が二人の間を吹き抜けていく。
「写真は思い出で、だからどんなことでも写真に残すようにする、これがあたし。楽しいことも、苦しいことも、悲しいことも、絶対に写真に残す」
「それが香奈枝先輩です」
「うん」
 有川の肯定に頷いて、鼻をすする神埼。
 グローブでこすったせいか、土が鼻についてしまっている。
「あたし、死者が誰かわかった」
 有川はなにも言わず、ボールを投げた。
 ボールが行き来する。どちらもしゃべらない。
 そうして数分後、
「っはー! あーー!! よし、うん、やれるぞあたし!」
「香奈枝先輩?」
 気合いと共に今一度、剛速球を投げると、頬をたたく神埼。
 有川は狙いが自分からずれた球を受け取るため身をひねり、目を丸くする。
「有川聡、よく聞け。あたしはあんたが好きだ!」
「……へ?」
「あたしは、あんたが好きだ! わかったか!」
 どうだ、と仁王立ちで宣言した。
 いきなりの告白で、どうしていいのかわからず有川は間抜けな表情のままだった。
 だが、神埼の顔を見て態度を急変させる。神埼が泣いている。
 近づいて慰めようとするが、神埼の言葉が有川の行動を制止させる。
「バカやろう」
 憎らしげに、吐き出された言葉。
 有川は苦笑する。
 やはりなぜとは問わない。
「告白してすぐバカはないでしょう、香奈枝先輩」
「バカ、やろう!」
 次は泣きながら、近づいてきた有川の胸をグローブ越しに殴る神埼。
 有川は抱きしめることも、なにかを言い返すこともせず、ただ立ち尽くすだけだった。
 神埼の手から写真が落ちる。
「なんで……っ!」
 写真の中でがれきに埋もれている人。
 血だらけで、しかし穏やかな顔をしたその人を、久住が抱きしめて泣いている。
 その写真を撮ったのは神埼だ。
 死者は今、笑っているのだろうか。
「なんででしょうかね」
 有川の言葉がやけに大きく響いた。
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