もう一つの出会い
今日から授業かぁ…!
少し弾んだ足どりで歩いていた少女は、立ち止まって目の前に建つ校舎を眺めた。
東才大学C棟、文学部の棟である。最近建て直したばかりだという校舎は陽の光をよく反射し、他のどの建物よりも白く輝いて見えた。もちろんそれには、これからの学園生活に対する自分の希望と偏見が含まれていることくらい分かっているのだが…。
「蘭ちゃーん!!」
不意に後ろから呼ばれて振り返ると、ポニーテールの少女が自分に手を振りながら走って来るのが見えた。
「和葉ちゃん!おはよう」
隣に来た友人に笑顔で返す。
「おはよう蘭ちゃん!今日から授業やなぁ。なんか緊張するわぁ」
「そうよね。あ、そうそう今日って午前中に授業終わるんだよね?学校終わったらどこか遊びに行かない?学校の帰り道においしいケーキ屋さんがあるの!」
実家が大阪にある和葉は大学進学と同時に上京し、今は蘭の家の近くで一人暮らしをしている。
「うん、行く行く!まだ引越してきたばっかりやから、あんまりお店とか知らんねん」
「じゃあ決まりね!他にもお店とか見てまわろっか?東京見学も兼ねて」
「ほんま?助かるわぁ!おおきに蘭ちゃん!」
校舎に入って、昨日と同じ教室のドアを開く。
「少し早く来過ぎたみたいやね?」
始業までまだ20分もあるせいか、室内には数える程しか人がいなかった。
蘭ちゃんもおるし、20分なんてすぐ経つやろ…
そんな和葉の予想通り、午後の計画を立ててるうちに空席は目立たなくなっていった。
蘭との話も一段落つき、教科書を出そうとカバンに手をかけた時、
「あのー、隣座ってもいいですか?」
不意に掛けられた言葉に、どうぞ、と言ってから顔を上げた和葉は驚きで目を見開いた。
「ありがとう!」
そう言って左隣に座った少女の顔を、穴があきそうなくらい凝視する。
蘭…ちゃん?
いやいや、蘭ちゃんはあたしの右隣におるねん!
そっと右隣を確認すると、そこには携帯をマナーモードにしている蘭が確かにいる。
あ、あたしもマナーモードにせな…
って違うねん!
「な、なぁ蘭ちゃん?蘭ちゃんは双子だったりするん?」
小声で蘭ちゃんに聞いてみると、
「どうしたの和葉ちゃん?そんなわけないじゃない」
…笑われてしもうた。
「そ、そうやんなぁ?」
じゃあ他人の空似?似過ぎや!こんなこともあるんやなぁ…
なんか興味湧いてきた!話し掛けてみよ!!
「なぁ、名前なんて言うん?あたしは遠山和葉っていうねん!こっちは蘭ちゃん」
勝手に蘭ちゃんのことまで紹介してもうたけど、えぇよな…?
和葉の視線に気付いた蘭が、改めて自己紹介をする。
「毛利蘭です。よろ…」
蘭ちゃん、女の子の顔見た途端に言葉を失っとる…
女の子の方もや…
そりゃそうやんなぁ?自分と同じ顔の人がいるんやもん!
少しの沈黙が流れた後、
「わ、私、中森青子っていいます。はじめまして!」
かなり動揺しながらも、そう言ってくれた女の子に、あたしが返事をする。
「青子ちゃん、はじめまして!仲良くしよな?」
「うん!よろしく和葉ちゃん、蘭ちゃん!」
うわー!笑った顔も蘭ちゃんそっくりや!
もっといろいろ話そうと思った時に始業のチャイム…
残念やわぁ…
でも、青子ちゃんとは仲良くやれそうや!
「ねぇねぇ、蘭ちゃんってもしかして毛利探偵の…」
「え、お父さんの事知ってるの?」
授業が終わって帰りの支度をしながら、しばしの談笑会。
「うん。青子のお父さんは刑事だから、何度か毛利探偵にはお世話になってるみたいで」
「青子ちゃんのお父さん…って、もしかして中森警部?キッド専門の…私何回か会った事あるの!」
なんや、二人とも全くの無関係ってわけでもなかったんやね。
「そういえば昨日ってキッドの予告日やったんやろ?平次は行かんかったみたいやけど、工藤君は…」
支度が終わって3人で廊下に出た時に、ふと思い出して言った。
「新一は行ったと思うよ?逃げられちゃったみたいだけど」
そう言って蘭が苦笑する。
「もしかして、その二人って高校生探偵の?知り合いなの?」
青子ちゃん、めっちゃ驚いてるやん…
「知り合いっちゅーか、腐れ縁みたいなもんや。今は高校生やなくて、東才大学1年生やけどな。たぶんもうすぐ会えるで?正門で待ち合わせしとんねん」
「平次達まだ来とらんみたいやね?」
和葉が辺りを見回して言う。もうどの学部も終わってる筈なのに、と怪訝そうな顔をする。
「快斗もまだ来てないや…」
小さく漏らした青子の独り言に、蘭が反応する。
「青子ちゃんも誰かと待ち合わせしてるの?」
その問い掛けに、うん、と頷いて
「青子の幼なじみなの。マジックが上手でね……あ!来たよ!」
青子が指差した先には並んで歩いてくる3人の姿があった。この後、すでに知っていた快斗を除く5人がまたもや『双子説』をもちだしたのは言うまでもない。
「しっかし本間にびっくりや!工藤だけやのうて、姉ちゃんのそっくりさんまでおるなんて…」
服部が蘭と青子を見比べながら呟く。よく見れば微妙に違うのだが、一目見ただけではまず分からないだろう。
俺も初めて見た時はさすがに驚いたけど…
楽しげに話す3人を振り返りながら快斗は思った。
蘭を初めて見たのは、もうだいぶ前のこと。今更驚きも何もない。
もうあんなに仲良くなってやがる。でも、まさか帰り道まで同じとはなぁ…
米花町と江古田市は近い。もちろん乗る電車も一緒なわけで…
迂闊だったよな…
内心溜息をついたが、それが表情にでることはない。
「なぁ、アイツら寄り道して帰るんだって。俺達もどっか寄ってくか?」
駅に着いた時、突然の工藤からのお誘い。アイツらって…青子もかよ!いつのまにそんな約束してたんだ?
「あー、俺今日は寄る所あるから!」
…嘘じゃない。用事があるのは本当。今日は寺井ちゃんと、次の『仕事』の計画を立てる予定だった。
「それならしゃーねぇか。じゃあまた次の機会にでも」
青子たちが最初に電車を降りて、次は俺、工藤たちはもう少し先の米花町で降りるんだろう。適当に挨拶して二人と別れた後、ドッと疲れが襲って来た。自分で思っていた以上に緊張してたのかもしれない。
あー疲れた…
でも情報も少しは手に入ったし、後は寺井ちゃんにでも相談すっか。
目指すは寺井ちゃんが経営するビリヤード店『ブルーパロット』 |