戦闘開始…!?
「それじゃあ全員速やかに講堂に向かうように!」
学部ごとに入学式の簡単な説明を受けた後、生徒たちは入学式の行われる講堂に移動するよう言われ、一斉に廊下に出た。当然のごとく廊下は人で溢れ、ろくに身動きもとれない状況になる。
人ごみに流されながら、快斗は考えていた。
一日の約半分を探偵と同じ場所で過ごすとなれば、そのリスクは計り知れない。それに、あの探偵たちの実力は十分に分かっている。常に気を張っていれば逃げ切る自信はあるが、やはりできるだけ彼らと距離を置くのが一番の得策だろうか…
そんな事を考えていた時、前の方に並んで歩く探偵たちの姿を見つけた。なにか真剣な様子で話し合っているようである。
何話してんだ?
人ごみをすりぬけて、気付かれないように彼らの真後ろで聞き耳を立てる。
「しかしキッドっちゅーのもよぅ分からん奴やなぁ。せっかく盗んだもんもすぐ返してまうし、そやかて愉快犯とも思えんし…」
どうやら自分の事が話題にされているらしい…
「どんな目的があるにしても、奴はただのコソ泥だよ。奴が俺に捕まるっていう事実はかわんねぇさ!」
自信に溢れた言葉が紡がれる。
ほぉー!言ってくれんじゃねぇか名探偵…
探偵のその言葉は、快斗の表情に不敵な笑みを浮かばせた。
そこまで言われたら逃げ回っている訳にはいかねぇな。
身に纏っていた空気が一瞬にして怪盗のモノに変わる。
おもしれぇじゃねぇか。確保不能の大怪盗と、相手として不足なしの名探偵!
…絶対逃げ切ってやるよ!
さぁ、ショーの始まりだ!
その挑戦…
受けて立つぜ?名探偵。
その時、
バッ と新一が後ろを振り返った。
(や、やべっ!)
快斗は慌てて気配を消し、素早く横にずれた。
新一は険しい表情で後ろをキョロキョロ見渡している。
「どないしたん?」
服部の問い掛けに、新一はようやく目線を前に戻し、言った。
「いや、今一瞬だけ奴の気配がした気がして…」
「キッドがこないなトコにおるわけあらへんやろ。工藤、おまえ今日が久々の現場やからって気合い入りすぎてんのとちゃうか?」
ニヤーっと笑う服部を、不満げにジトッとした目で見上げると
「そんなんじゃねぇよ」
と、隣の友人をどついて、スタスタと先に歩いていく。
(あっぶねぇ…!まさかいきなり振り返るとは思わなかったぜ。もっと気をつけねぇとな)
彼らの後ろでホッと安堵の息をついた快斗は、少し距離を置いて、また歩き始めた。
入学式は何事もなく終わり、日が傾き始めた。
オレンジ色に染められていた街が、まもなく深い藍色にうめつくされていく。
午後7時を廻った頃、
同時に、二つの家の玄関が開き、青年が家から出てきた。とても似た顔つきをした二人の青年は、その場でゆっくりと一呼吸した後、自信に満ち溢れた表情で歩を進める。
「今夜の獲物は佐野ビル19階、宝石展の目玉 オーシャンドロップ。ヘリが2機、屋内の警備は180人ってとこかな…予告時間の11時まで、あと2時間もあるってのに気合い入ってんなぁ」
佐野ビルから少し離れたビルの屋上で、不敵に笑う白い人影の手にはオペラグラスが握られている。
「それに今夜は私の好敵手がお越しのようだし…、気は抜けませんね」
口調を変え、そう言う彼は、心から楽しんでいるようだった。
久しぶりに、頭の切れる奴との対決だからな!白馬のヤローはイギリスに帰っちまったし…
「しかし、風強いなぁ…。これ以上強くなんなきゃいいけど…」
「ホールに警官を入出させる時は、氏名、年齢を確認してください」
ホールの出入口の警備をする警官に指示を出しているのは、大学生になったばかりの探偵、工藤新一。
警官たちは以前、時計台の事件でキッドを追い詰めた過去のある彼の指示を素直に受けていく。
「僕は監視カメラの映像が確認できる警備室で待機しています。ホールでは中森警部の指示に従ってください」
ひととおり指示を終えた新一はホールをあとにし、警備室に戻るため廊下を歩き始めた。
24階建てのビルの中の造りは完全に把握している。この建物は見た目より複雑な構造をしており、警備が難しいのが難点だ。特に階段は1フロアに5ヵ所もあり、キッドの逃走経路が予想しにくい。だが、監視カメラの数が多いというメリットもある。だからこそ、指示の出しやすい警備室に待機することにしたのだ。
廊下でふと足を止め、窓から外を見下ろす。夜の闇と言うには、少し明るすぎる景色。さまざまなライトが交差し、何重にも折り重なるのを見ていた時、新一は、先程から聞こえてくる音に気付いた。
「風が強くなってきたみたいだな…」
高層ビルの分厚いガラスを揺らすほどではないが、それでも音から判断する限り、かなりの強風が吹いていることは間違いないだろう。
「風か…」
新一の瞳に光が宿り、口もとには薄く笑みが浮かぶ。
今日こそ捕まえてやるよ。
コソ泥さん…? |