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はじめまして。こちらで初めて連載させていただきます、にんぽっぽです。
どうぞよろしくお願いいたします。

この話は、名作ドラゴンクエスト3を私が独自解釈をしてのものです。
こんなの勇者じゃないという方もいると思いますが、私なりの解釈ということでお許しください。
色々あって性格が捻くれていますので、不快に思われる方もいるかもしれません。

王道は小説版ドラゴンクエスト3がオススメです。これも名作です。

過去篇の設定は途中までは低レベル縛り、途中から一人旅という感じです。
もしこのような状況だったら? という事を妄想しています。

アレル視点は基本的に一人称。
その他の場面は三人称です。
これは私のお気に入りの小説の展開形式でもあります。
浅田次郎先生の『プリズンホテル』です。
コメディありシリアスありで、私の教科書です。
勇者アレルの迷宮探索
第一話 勇者が現れた
「お帰りください」

「な、なんでよ! ちゃんと答えたじゃない!
慣れない敬語まで使ってあげたのに、どうしてよ!」

素っ気無く出口を指差す受付の女。
その視線は冷たく、忙しいんだからとっとと帰れよと言わんばかりである。
私はカッとなり、ドンと机を叩く。
その音に周りが注目を始めるが、私は全然気にしない。

「他のお客様の迷惑になりますので、騒ぐのはお止めください」

ハァーっと大きくため息を吐いて、再び書類に目を落とす女。
先程私が書き上げた申請書である。
この街に存在する『地下迷宮』に挑戦する為の許可証。
それを手に入れるには、このなんたら協会の審査を通らなければいけないらしいのだ。

「グダグダ言わないで、とっとと許可証を寄越しなさい。
もう何時間待たされたと思ってるのよ!」

そう、この審査を受ける為に、
私は何時間もチンタラチンタラ行列が進むのを待っていたのだ。
みすぼらしい農民やら、ごつい筋肉男。
スカした男女に、真面目そうな僧侶やらエトセトラエトセトラ。
ようやくゴールにたどり着いたと思ったらこれである。
慈愛の女神と呼ばれた私も、流石に堪忍袋の尾が切れても可笑しくないというものだ。

「……それでは『勇者』様でしたっけ? そのギルドの職業認定証を見せてください。
私が知る限りでは、そんなギルドや職業は存在していなかったと思いますが」

書類をポンポンと手に打ち付けながら、イライラを押し殺したように女が話す。

「ギ、ギルド?」

「そうです。地下迷宮に挑戦する方は、
まず一定以上の能力があると認定を受けなければなりません。
勝手に入られて、ポンポン死なれたらこちらも迷惑なんですよ。
魔物の餌になって、どんどんと増える一方ですからね」

「だ、だれがポンポン死ぬか!」

ドンドンと地団駄を踏む。ポンポンではない。

「とにかく、いずれかのギルドに所属してからまたお越しください。
――というか、書類をお渡しした際に説明があったはずですよ。
冒険者たるもの、『人の話を聞く』という事は基礎中の基礎です。
その空っぽの頭にしっかりと叩き込んできてくださいね」

自分の頭を指で突きながら長々とご高説をたれる眼鏡女。
しかも嫌味までプレゼントしていただいた。
ムカついたので、張り倒してやろうかと思ったがここは我慢する。
大暴れして、大捕物になるのは面倒臭い。
今度こそ、『楽して生きる』。これこそがこの世界での目標なのだから。
具体的には特に考えてはいない。

「ち、ちくしょう! 覚えてなさい!」

どこかで聞いたような捨て台詞を吐いてみる。
うーん、この胸に染み渡る敗北感。意外と悪くない。
悪党が思わず使ってしまう気持ちが分かる。

「はいはい、それでは次の方どうぞ」

「ようやくか。邪魔だ、さっさとどきな!」

「い、いたっ!」

次に並んでいたむさくるしい男に押しのけられ、私は行列からどかされる。
この野郎と血が上るが、お腹が空いているので怒るのは我慢する。
体力と精神力の無駄である。


やれやれと思いながら、トボトボとなんたら協会の建物を出る。
その際に、入り口においてあるギルド紹介のチラシを手に取った。
ぼけーっと流し読みするが、パッと見では理解できない。


「……なになに、って無意味に長いし細かいわね」

細かい字でびっしりと書いてあるそれを、嫌々ながら目を通していく。
もっと絵や色使いを増やすべきである。非常に読みづらい。
それを我慢して読み進める。
チラシの内容を要約すると


・なんたら協会から許可を貰うには、
アートの街に存在する『ギルド』に所属しなければならない。
・ギルドには、戦士、魔術師、僧侶、レンジャーの4つが存在する。
・これらギルドの依頼をこなし、
一定以上の実力を認められることで『職業認定証』を授与される。
・『職業認定証』を手に入れ、
なんたら協会から『探索許可証』を貰うと自由に地下迷宮を冒険できる。
・パーティの仲間をお探しの際は、『ルイーダの酒場』まで。
協会だけではなく個人からの依頼も請け負えます。
・アイテム預かりや、宿泊施設まで便利な機能が一杯。ルイーダの酒場を是非ご贔屓に!

以上である。

「ここにもルイーダの酒場があるのね。
というか名前まで一緒っておかしいじゃない。
本当はここアリアハンなんじゃないの?」

最後の一文が宣伝であることを突っ込む前に、思わず『ルイーダ』に突っ込んでしまう。
懐かしき、あのクソったれな世界を思い出す。
あの女ときたら、使えない奴らばっかり紹介してきやがって。
ムカついたので、武器と防具だけひっぺがして叩き返してやった。
私の中ではそういうことになっている。
そしたらあの年増女、王に言いつけやがって、散々説教されてしまった。
今思い出しても腹が立つ。

本当に、嫌な思い出だ。




「それは良いとして、さてどうしたものか。
お腹は減ったけど手持ちがもうほとんどないし。
身包みはここに来た時、何でか知らないけど剥がれていたし」

私自慢の装備はこちらに落っことされた際に、全部無くしてしまった。
この街の近くで川に浮かんでいた時には、既に影も形もなかったのだ。
川岸に意味ありげに置いてあった袋の中には、
『たびびとのふく』と『ひのきのぼう』、
そして『銅貨50枚』。私の大事にしている本が一冊。
思わず泣けてくるが、素っ裸でいるわけにはいかないので、有り難く装備させてもらった。
きっと日頃の行いが良い私へのプレゼントだろう。中身はしょぼいけど。
どこぞの王様からもらった旅立ちの装備と同レベルだ。


貧相な『ひのきのぼう』を杖代わりに、よいしょよいしょと歩き出す。
だるい。死なないけどだるい。死にそうなほどだるい。
腹も減ったし、ベッドで寝たいし、体を洗いたい。
銅貨50とは恐らく50Gの事だろう。
ということは、一泊食事つきなんて贅沢を続けたら、すぐに足りなくなってしまうだろう。
人間らしい最低限なはずなのに、贅沢とは。
我が事ながら情けなくなる。


「あ、あのー」

「ああ、だるい。面倒くさい。息をするのもだるい」

「す、すいません」

「気のせいか空耳まで聞こえてきたわ。そろそろお迎えかしら」

ぼそぼそと語りかけてくる女の声を無視して、さらに前進する。
困ったときは前進あるのみ。今までもそうしてきた。

キリッと格好つけて、老人のように歩を進める。体力は残り一桁ぐらいだろうか。
ノロノロと歩いていたら、見知らぬ人物に回り込まれてしまった。

「すいません! その、困っているようでしたので。
もしよければ、私と一緒にギルドに行きませんか?」

「なんで?」

「えっと、先程協会の方でお見かけしたものですから。
それで、これから私もギルドに所属申請を出しに行くので、よかったらと思いまして。
あ、私は『戦士』ギルド志望なんですけれど」

人の良い笑顔で提案してくる若い女。
裏がありそうな感じは見受けられない。
こういう時の勘は、私は鋭い。

「……なんで私が戦士だと思うの?
単純で、脳みそが筋肉で出来てると思ったりしてるわけ?
そうよね、所詮私は脳筋女よね。考えるより手が先に出ちゃうから」

魔物にも脳筋勇者と馬鹿にされてきた私だ。今更気にしない。
気にしないが、その魔物には脳天に昇天するような一撃をくれてやった。
そうしたら、あまりの嬉しさに真っ赤になって喜んでたわね。
血の色的な意味で。

「と、とんでもありません。た、ただ『棒』をお持ちでしたから。
戦士ギルドと入っても、色々な職業があるんですよ。
だから、きっと自分に合った職が見つかるはずです!」

「だから、私は『勇者』だって……」

「ええ、ええ、分かります。誰しも皆『勇者』に憧れるものですから。
その想いを持って、鍛錬に励むことが大事なんです。
貴方はそれが良くわかっているんですね! 素晴らしいです!」

拳をグッと握り締めて力説している。
あ、この娘疲れるタイプだ。一発で分かった。
この手のタイプは体力だけでなく、精神力を消耗することが多い。主に私の。

地味だがしっかりとした造りの装備、家紋の入った盾。
金髪ポニーテールの可愛らしい娘。その目はキラキラと輝いている。

きっと育ちの良い家庭のお嬢様なんだろう。まだ汚れていない。
羨ましいことだ。

「……まぁ良いわ。もし案内してくれるなら助かるわ。
この街、大きすぎてまだ把握出来てないのよ。
どんだけでかいんだって話よね」

「それはもう! この街は『地下迷宮』を囲んで築き上げたものですから。
魔物の出現を防ぐ結界を張っている、最終防衛線でもあるんですよ。
――なんて、今更説明するまでもないですよね」

アハハと照れ笑いを浮かべる少女。
この世界のことは良く知らない私には興味深い話である。
『地下迷宮』の行き着く先には、まぁ想像したくない何かが待っているんだろう。
地上侵攻に意欲がないのか、力をためているのか、
それとも敢えてバランスを保っているのか。
まぁどうでも良い話ではあるが。

「あ、申し遅れました! 私、マタリ・アートと申します。
どうぞよろしくお願いしますね!」

ペコリと頭を下げてくる少女。その際にポニーテールが馬の尻尾のように揺れる。

「……アート?」

私は思わず聞き返す。街の名前がアート、この娘の名前もアート。
偶然の一致だろうか。まぁ違うだろう。

「あ、はい。私も一応アートの一族なんです。ただ、正式には認められていないですから。
それに、最早アートの名もお飾りみたいなものです。
……過去の栄光に縋りついているだけなんです」

表情を曇らせて呟くマタリ。
先程までのテンションとはうってかわって、背中に影が差している。
アートの一族が何かはさっぱり分からないが、一応フォローしておこう。

「ふーん。まぁ色々と大変みたいね。とにかく元気出しなさいな。
そんなに落ち込んでると、運が下がるわよ。そうしたら良いアイテムが拾えないわ」

そう、呪いの装備を拾ったり、腐ったおにぎりを拾ってしまうだろう。
それは恐ろしいことだ。

「ご、ごめんなさい。そうですよね。ちょっと愚痴を吐いてしまいました」

テヘッと笑い、舌を出す。可愛らしい仕草だ。
私がそんな行動を取ったら、きっと魔物は泣いて逃げ出すだろう。
当然ながら、追いかけてブチ殺すのだが。


「じゃあ案内してもらえる? その戦士ギルドとやらで構わないから。
まぁ、ぶっちゃけどこでも良いんだけど」

「勿論です! さぁ行きましょう。私達の栄光への第一歩ですから!」

テンションアゲアゲで腕を振り上げるマタリ。
私はテンションだだ下がりで腰が曲がる。
嗚呼、お腹が空いた。何か食べたい。貪りつきたい。
特にアレだ。アレをバリバリ食べたい。
私があの独特の苦味のある、アレを妄想していると。

「ところで、貴方のお名前を聞いても宜しいですか?」

マタリが、アッと気づいたように問いかけてくる。
私はさてどうしたものかと考えるが、元の世界の名前を答えることにする。
最早帰るあても、つもりもないのだから、偽名など使う必要もないだろう。

「――アレル。アリアハンのアレルよ」

「アレルさんですか。……えーと、アリアハンというのは?」

顎に指をあてて、考え込むマタリ。

「私の出身地よ。まぁ深く考えないで良いから」


手をヒラヒラと振って誤魔化す。
出身地までは答えなくても良かったのだが、なんとなくつけてしまった。
だって格好良いから。








戦士ギルドに到着して、ギルドマスターの開口一番の台詞は、


「――お前、人生を舐めているのか?」

だった。完全に白い目で見られている。
実に納得がいかない。

「な、なんでよ! 私は清く正しく逞しく、いつだって真剣に生きてきたわよ!」

「あ、アレルさん、どうか落ち着いて。ロブさんも言い過ぎでは」

馬鹿にしたような視線を向けるギルドマスター。
名前は確か、ロブとか言ったか。
マタリが挨拶したときは、ニコニコ笑顔を浮かべていたくせに、
私が話そうとした瞬間これである。
ムカつく筋肉達磨である。短髪刈り上げの太眉毛の癖に!

「これから地下迷宮に挑もうって奴が、なんだその格好は。
そこらで拾ってきたような棒きれに、普段着ときたもんだ。
ここはダンスを教える場所じゃないんだぞ」

呆れたような口調のロブ。それを聞いた回りの男達もガハハハと下品な笑い声を上げる。
正式ギルドの癖に、酒場のような雰囲気の建物。
雰囲気というか、実際に酒を提供しているのだから呆れたものだ。
とはいえ、ここにいる人間の面構えはそこそこのもので、
それなりの腕をもっていそうではある。こけおどしではないだろう。
このロブとやらも、一流の実力者のはずだ。

思考の渦に入り込んでいた私に、先程盛大に笑い声を上げていた男達が声を掛けてくる。

「ようようお嬢ちゃん。色々と事情があるんだろうが、ここは遊び場じゃないんだ。
もし稼ぎたいなら、その身体に見合った場所に行くと良いぜ」

「ま、その貧相な身体じゃ、幾らにもならんだろうがな!」

「ワハハハ! いやいや、奇特な趣味の奴もいるかも知れんぞ!
世の中には小さい方が良いという奴もいるらしいからな!」

「ハハハ、そんな奴本当にいるのか? 
良かったな嬢ちゃん! 変態共の人気者になれるぞ!
アートNO1娼婦目指して精々頑張りなよ!!」

酒を煽り、先程以上の馬鹿笑いを上げる屑共。
マタリは顔を真っ赤にしている。あまり下品な言葉に免疫がないようである。
ロブはとくに表情を変えずに、こちらへ退出を促してくる。


「という訳だ。現実って奴を理解したら、とっとと帰りな。
俺もそんなに暇じゃないんだ。マタリ嬢ちゃんは手続きがあるから残ってくれ」

「ろ、ロブさん! アレルさんは」

「俺も遊びでギルドを運営している訳じゃない。
死体になると分かっている奴を、迷宮に送り込むわけにはいかん。
それぐらい分かるだろう?」

「……は、はい、でも」

「でもじゃない。お前もアートの一族なら分かるだろう」

「ご、ごめんなさい」

シュンとうなだれてしまうマタリ。
こちらを申し訳なさそうに上目で見つめてくる。
はてさてどうしたものか。


「ほらほら嬢ちゃん、突っ立ってないでさっさと出ていきな!
俺で良かったら、この後相手してやっても良いんだぜ?」

「ハハハ、お前そういう趣味があったのか!」

「ワハハハ! 変態め!」

「なぁに、最初の客になってやろうと思ってさ。料金も弾むぞ?」

ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべ、私の肩を触ろうと手を伸ばしてくる。


いい加減大人しくしているのも限度というものがある。
この屑には徹底した教育が必要なのだろう。
心がほんの少しだけ痛むが仕方がない。
本当は全然痛まないけれど。


その厭らしく伸ばされた手を掻い潜り、みぞおちに思いっきり正拳を叩き込む。
鉄製の頑丈そうな鎧の上からだが、衝撃は殺せていないだろう。
そんなに加減はしていないから。


「グ、グエッッェエエエ!」

「汚いわね。男なら我慢したらどう?」

腹を抱えてうずくまる男の顎を、杖代わりにしていた『ひのきのぼう』で軽く叩き上げる。
本気でやったら粉砕してしまうので、あくまでも軽くだ。

凄まじい勢いでテーブルに突っ込んでいく哀れな男。
上に乗っかっていた酒や料理が当たりに散らばる。もったいないことだ。

追い討ちをかけるべく、私は更に飛び掛る。

「そらそら、さっきの勢いはどうしたの? 得意気に笑ってみたらどう?
ほら、笑えって言ってるでしょう!」

ひのきのぼうでメッタ打ちにしつつ、罵声を投げかける。
私は基本Sである。Mではない。

「ヒイィィィィ、い、痛えっ! こ、この糞ガキ」

「ただの棒切れのお味はどうかしら。結構痺れるでしょう。
打撃って、骨身に染みるのよね」

振り下ろした強烈な一撃を浴びせる。

「グ、グハッ! ま、まて。俺が悪かった! だ、だから」

「謝らなくていいわよ。それにお前が死ねばギルドの枠が一つ空くじゃない。
だからさっさと死ね」

「ヒイィィィィッ! い、痛い! だ、だ、誰か! た、助けてくれ!!」

出来る限り威力を抑えた連打を、蹲る男に叩き込んでいく。
本当に殺してしまうと、色々と面倒くさいから。

木製の棒が、鉄をたたきつける音が室内に響き渡る。
呆然と見ていた男達が、それぞれの得物を抜き始める。


「お、お前いい加減にしろ」

「ジャバから離れろ!」

威嚇してくるが及び腰で迫力がない。
それではスライムでも逃げていかないだろう。


「助けたいなら、どうぞ御自由に。その代わり、五体満足でいられると思わないでね」

魔物が震えながら失禁する笑みを、男達に向けてやる。
ガタガタ震えるそれらを、叩き潰していくのは気分が良い。
私の性格は破綻している。

「お、お前先にいけよ」

「いや、お前がいけよ」

「じゃ、じゃあ俺が援護するから、お前いけ」

「どうぞどうぞ」

「ふざけてる場合か!」


和気藹々と順番を決めている情けない連中。
その間も、私の攻撃は止まっていない。
そろそろこのジャバとかいう男は、本当に再起不能になってしまうだろう。


その時、


「――そこまでだ! 先程の件は謝罪する。数々の無礼を許して欲しい。
ギルドに加入することを認めよう」

パン! と大きく手を叩き、私に向かって謝罪を告げるロブ。

「ロ、ロブさん」

「だから、そいつを放してやってくれ。そのままじゃ本当に死んでしまうからな。
お前だって犯罪者にはなりたくないだろう?」

「……仕方ないわね。お返しするわ」

警戒する目つきで、こちらを睨んでくるロブ。
その威圧は大したものだ。
それを軽く受け流すと、ジャバを立ちすくむ連中の方へと蹴り飛ばす。
息も絶え絶えになり、口から泡を吹いている。
当分は活動できないのは間違いない。勇者御墨付だ。

「ゲボッ!!」

「お、おい大丈夫か!」

「す、すぐ医者の所へ!」

「いや、僧侶ギルドだ! 確か知り合いがいたはずだ!」

ジャバを担ぎ上げると、ものすごい勢いでダッシュしていく男達。
脱兎の勢いとでもいうのだろうか。




「――ア、アレルさん、強いんですね。で、でもちょっとやりすぎじゃ」

「そんなことないわよ。誇りを傷つけられたんだもの。
殺し合いになる覚悟がないなら、そんなことしなきゃ良いのよ」

「『誇り』ですか」

「そう。それを失ったら家畜と一緒よ。人間であることの証明が『誇り』。
よく覚えておきなさい」

と、えらそうな事をしゃべりつつ、テーブルの上においてあった料理をパクつく。
誇りも大事だが、食事はもっと大事である。
勇者が餓死するのは実に頂けない。
そういう結末は、太った商人がお似合いである。

ムシャムシャと骨付き肉を貪りついていると、ロブが呆れたように話しかけてくる。
マタリは先程の『誇り』という言葉を、自分に言い聞かせるように繰り返している。

「とにかく、我ら戦士ギルドへようこそ。名前は、確かアレルだったな。
その力、協会の為に役立てるよう励むことだ」

「ムシャムシャ(あい)」

「――聞いているのか?」

「ムシャムシャ(もちろん)」

大きく首を縦に振る。

「――結構。今日はこんな有様だから、明日また来てくれ。
これは迷惑料兼、歓迎の印と思ってくれ」

ロブがこちらに、銀貨を1枚投げてくる。

「モグモグ、ムシャムシャ(どうもありがとう)」

「宿はいろいろあるが、ルイーダの酒場がオススメだ。
同業者が多数滞在しているからな」

分かったら今日は出て行けと、押し出すようにギルドを追い出されてしまう。
うーむ、なんだか悪い印象を与えてしまったようである。
巻き添えをくらって追い出されたマタリに声を掛ける。

「ごめんね。アンタまで巻き込んじゃって」

「い、いえ良いんです! それに、先程の棒さばき、実にお見事でした。
将来は武闘家を目指されるんですか?」

両手を合わせ、本心から感動したと言わんばかりに見つめてくる。

「い、いや、そこまではまだ考えてないかな」

だって勇者だし。武闘家も金が掛からなくて良いのだけれど、私には適正がない。
『勇者』から転職することは不可能だ。それは認められていない。


「そうなんですか? 才能は抜群といった感じでしたけれど。
まぁとにかく、ルイーダの酒場に向かいましょうか!」

元気良く案内を始めるマタリ。
私はその元気に押されながらも、素直に後をついていく事にした。

背負った袋から、先程さり気なくつめこんだ果物を取り出すと、口へと投げ入れる。
果物の果汁が口一杯に広がり、その甘さが疲れを癒してくれる。


「やれやれ、どうなることやら。まぁ、なるようになるかな」

種を勢い良く口から吹き出すと、前を進むマタリの頭にうっかり当たってしまった。
怪訝な顔をしてあたりを見回すマタリ。
私は素知らぬ顔をして、『どうかした?』と、とぼけておいた。


本文一行目でオチがついています。
ご覧頂きまして、本当にありがとうございました。


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