第2話 夢は屯(たむろ)する (その999)
(いやいやいや・・・、まてよ・・・。)
源次郎は、この期に及んでまで、まだ容量不足の頭を巡らせる。
確かに、このホテルに戻ってからというもの、美由紀は如何にも美由紀らしくない。
だが、それは、必ずしもこのホテルに戻ってきてからだけでは無いような気がしてくる。
昨日、突然のように「札幌にホテルをとって」と言い出した。
しかも、「小樽の公演がある間」と言ってきた。
「源ちゃんが泊まれるように」と言われたが、その理由も本当かどうか定かではない。
源次郎は首を傾げたが、それでも美由紀の指示であれば従うしかない。
そういう立場なのだと割り切っていた。
で、このビジネスホテルを予約したのだ。
そうしたらだ。
今度は「今夜、私も札幌に行く」と言いだした。
「どうして?」と訊いたが、「用事があるからよ」と一蹴される。
源次郎の立場では、もうそれ以上は突っ込めない。
で、結局は、サキと一緒に札幌にやって来た。
どうやら、美由紀は大学病院の里山医師と事前に連絡を取っていたらしい。
もちろん、源次郎が知らないうちにだ。
それを聞いた時、源次郎は「ああ、それでなのか」と急な美由紀の札幌行きを納得したものだった。
里山医師との面談が午後の10時から始まった。
問題は、それが終わってからだった。
源次郎は、てっきり直接このホテルに戻るのだろうと思っていたのだ。
急な札幌行きだったが、その目的が果たされたのだから・・・。
だが、美由紀は、そうはしなかった。
そう、しばらく迷う時間があったようだが、結局はあの古い教会へと足を運ぶことになる。
もちろん、美由紀は詳しい説明は一切してこない。
ただ、あらかじめその場所を記したメモを持っていたことから、美由紀にすればある程度予定の行動だったのだろう。
それでもだ。
美由紀は、大学病院を出てから、すぐに「行きたいところがあるから」とは言ってこなかった。
そうしてメモを事前に準備しておきながらも、行くかどうかを考えていたようだ。
つまりは、迷っていたことになる。
即断即決が持ち味の美由紀らしからぬ変化であった。
もちろん、その時の美由紀の心理が理解できる源次郎ではなかった。
ただ、今から考えれば、あのときから美由紀はいつもの美由紀ではなくなっていたようにも思えてくる。
(つづく)
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