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第2話 夢は屯(たむろ)する (その99)
「でも、でも、それはまずいでしょう?そんなことを言っちゃったら。」
源次郎は足早に歩いて美由紀に追いつく。
それでも、まるで短距離を走ったときのように、心臓がバクバクしている。
昨夜、食事のあとにホテルまで走ったことを思い出している。

美由紀は、源次郎に分るようにして、ペロッと舌を出した。
「いろいろと詮索されるのって嫌じゃない?・・・・だから、そう言ったの。そうすれば、あの夫婦昔かたぎの人だから、それ以上は何にも言わないの。・・・・まあ、そういうことにしておいて。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
源次郎は、言葉が無い。

「まさか、あの劇場の関係者、とりわけ支配人なんかには、そうは言ってないですよね?」
源次郎は、あっけらかんと言う美由紀に対して、もうひとつの心配事を確認する。
どうやら、周囲がそのように見ていると思えたからだ。
少なくとも、あの最初に出会ったストリップ嬢はそのように思っている。
源次郎を劇場に連れてきた富と呼ばれる男の女である。
自分達がそうだからと言って、決して同じようには考えて欲しくないのだが、彼女達にはそうした話も通用しない。
「隠したって駄目よ」という声が聞こえるぐらいである。

「ううん、劇場関係者には何にも言ってないわよ。それほど親しい人もいないしね。勿論、支配人にもね。・・・・・何か、言われたの?」
「・・・別に、・・・・ただ、何となく、皆がそのように見てるんだなあ、って感じることはあります。」
「そんなのほっておけば・・・・。誰に、どう思われようと、私たちには関係ないでしょう?」
「まぁ、それはそうなんですけれど・・・・。」
舞台を意識した時の美由紀には、源次郎はどうしても歯が立たない。


事務所に戻ったとき、源次郎は、端っこに座っている笠野の姿を確認した。
先ほどは気がつかなくても、今回はそうは行かない。
笠野もそれに気付いて、立ち上がって、軽く頭を下げている。

待ちきれない、とでも言いたげに、笠野が2人に近づこうとしたのを、源次郎はジェスチャーで「まだ駄目だ」と制する。
美由紀も気付いている筈なのだが、そのあたりはさすがだ。まったく気に留める風でもなく、またハイヒールを源次郎に預けて、奥へと向かう。
その姿には、気品すら漂う感じがする。

その姿を見送ってから、源次郎は笠野を手招きする。
笠野も、待ってましたとばかりにやってくる。
そして、先ほどと同じようにして向かい合って椅子に座る。

「如何でした?」
笠野が口火を切る。
「ええ、ちゃんと話だけはしましたよ。」
源次郎は、答えを先に言わない。
「それで・・・・美由紀嬢はどのように?」
笠野が膝を詰めてくる。
「場合によっては、考えてみてもいいと。」
源次郎は、少しもったいぶった言い方をする。
だが、その一言で、笠野の表情がパッと明るくなった。

「はい、詳しい内容や条件につきましては、この書類にまとめておきましたので・・・。」
笠野が重そうな鞄の中から、ひとつのファイルを取り出してくる。

源次郎はそれに構わず、煙草をポケットから取り出して、灰皿を傍に寄せた。


(つづく)



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