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第2話 夢は屯(たむろ)する (その94)
「えっ!・・・つまり、この小樽での2週間が終わってからも・・・・と言うことですか?」
源次郎にはたまげた提案である。まったくの想定外なのだ。

「そう、源ちゃんさえ、よかったら、これからも私と一緒にいてくれないかなぁ?無理には言えないことだけど。」
美由紀は、まだ窓の外を眺めたまま、そう言う。

源次郎は、たまげはしたが、決して嫌だとは思わなかった。
いや、それどころか、美由紀からそのような提案をもらえたことは非常に嬉しいことだった。

「僕でいいんですか?・・・・・今回は、たまたま探されていた人が見つからなかったってことで、急遽、つまりその場しのぎで決まったんだと思っています。全くの素人ですし、この業界のことも何にも分かりません。・・・・ですから、この2週間だけでも、お仕事をいただけたと言うのはラッキーなことだと思ってます。」
源次郎は、素直な気持で言っている。

「・・・・2週間だけで十分?・・・・それ以上は、嫌?・・・・・美由紀の我侭には付き合いきれない?」
美由紀は、振り返らないで、源次郎の顔を見ないで、そう言う。

「いえ、そんなことはありません。とても嬉しいですよ。美由紀さんにそう言われるのって。」
源次郎は、窓際に立った美由紀の背中に向って、自分の意思を伝える。
「でも、本当に僕みたいなものでいいのか?それが自信が無いんです。全く。・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「今日の初日でも、何がどうなっているのか、そこで僕は何をしたら良いのか、それがさっぱり分らないんです。ですから、ただ、見ているだけ。今だから、言っちゃいますが、しんどいんです。本当に、これでお役に立てているのか?って・・・・・・・。」
美由紀の顔を真正面にしていたら、きっと、今の言葉は言えていないだろうな、と源次郎は思う。
だが、改めてこれから先も・・・と言われると、それだけは何とかしておきたいと思うことだったのである。

美由紀は、一度も振り返らないままで、源次郎の言葉を黙って聴いていた。
そして、何度か、源次郎の言葉に頷くことがあった。
「・・・・そっか、そりゃ、しんどくもなるわよね。まったく知らない世界に、いきなり引っ張り込んだんだものね。まして、私のような我侭を相手にしてるんだし。」
「・・・・・・・・・・・・・」
「でもさ、私はね、源ちゃんでホント良かったと思ってる。これはお世辞でもなんでもないよ。・・・・何ていうのかな、傍にいてくれるだけで、満足しちゃってる私がいるの。」
「・・・・・・・・・・・・・」
源次郎は、言葉を挟まないように気をつけている。

「なぜ、私が源ちゃんを選んだか、教えるね。それはね、まぁ、ひとつには、あの支配人が約束を守らないで、専属のスタッフを準備していなかったことがあるわよね。・・・でも、それは、想像していた通りだったのよ。あの支配人が、それだけの人を準備する筈はない。そう思って来てるの。だから、それは問題じゃなかったの。」
「でも・・・・・・」
つい、源次郎が言葉を入れてしまう。
「そうね、源ちゃんから見れば、そのスタッフが決まっていないということで私が機嫌を損ねた、と思ったのでしょう?・・・でも、それは他のことで譲歩しないというシグナルだったのよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「専属スタッフは無ければ、それでいい。その代わり、ここの家に泊まろうと思ってたの。経費も浮くし、何より、私は舞台を下りた時間を大切にしたかったの。この家なら、それが可能になる、そう思っていたの。」

そこまで話してから、ようやく美由紀は源次郎の方を見やって、にっこりと微笑んだ。


(つづく)



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