ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
第2話 夢は屯(たむろ)する (その939)
美由紀は、疲れたのか、ロビーのソファに腰を下ろしていた。
静かでもあるし、他に人もいなかったから、当然に今の源次郎の言葉は聞こえていた筈なのだが、美由紀は具体的な反応は示さなかった。


「7時でございますね。畏まりました。」
フロントマンがそう答えている。

「では、よろしく・・・。」
「はい、ごゆっくりお休みくださいませ・・・。」
このやり取りを最後に、源次郎がフロントを離れる。

普通ならば、そこで美由紀が立ってくる。
エレベーターで5階の部屋に上がるのだから・・・。
だが、どうしてなのか、美由紀はそうはしなかった。

「ん? 疲れちゃいました?」
源次郎が美由紀の傍へと歩み寄る。

「ううん・・・、大丈夫・・・。」
「・・・・・・。」
そう言われても、源次郎はそうは思えなかった。
で、そっと手を差し伸べる。

「あ、ありがとう・・・。」
美由紀は素直に源次郎の手に縋るようにしてくる。

「・・・・・・。」
源次郎は気が付いた。
そして、何も言えなくなる。

どうやら、美由紀は疲れているのではなく、まったく別のことを考えていたようだ。
その目を見て、源次郎はそう思った。
俗に言う、「心ここにあらず」といった感じなのだ。


「今日は、付き合ってくれてありがとう・・・。」
エレベーターに乗ってから、美由紀がそう言ってくる。

「い、いえ・・・。」
「今は話せないけど・・・、そのうちに、今日のこと、ちゃんと説明できると思うから・・・。」
「・・・・・・。」
源次郎は、意識して何も言わなかった。
暗に、「今日のことは聞かないで・・・」と言われたように思えたからだ。

大学病院を出てから、あの古い教会へと行った。
美由紀は、その場所を知ってはいなかったようだ。
メモに書かれたものをタクシーの運転手に見せて、「ここに行きたい」と告げていた。
そして、その帰りに立ち寄ったすすきのの歓楽街。
まったく別のことのように見えるのだが、源次郎には、どうしてかそれは繋がったことのように感じられていた。
決して、美由紀の気紛れから出たものではないと・・・。


(つづく)





+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。