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第2話 夢は屯(たむろ)する (その909)
それでも、源次郎自身は、そのドアから中へとは踏み込めなかった。
ドアを手で押さえたままじっとするしかない。

美由紀はそのまままっすぐに歩いて行く。
どうやら、ここは礼拝などが行われる空間らしく、真正面にはマリア像が立っていた。
そんなに明るくは無いものの、部屋の中の様子が見える程度の照明はなされている。


美由紀は丁度真ん中辺りまで進んで、そこで立ち止まる。
そして、そこで、まるで深呼吸をするかのように大きく息を吸う。

「やっぱり・・・、懐かしい匂いがする。」
美由紀が独り言のように言う。

「・・・・・・。」
源次郎は何も言えない。
相変わらず、入り口のドアを片手で抑えた状態で突っ立っているだけだ。
入ろうにも、その最初の1歩がどうにも踏み出せない。

「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
それからは、美由紀も、そして源次郎もまったく言葉を発しなかった。
互いに同じ空間にいるにも関わらず、ふたりの視線はまったく絡み合わない。

美由紀はじっと前を向いている。
恐らくは、正面の聖母マリア象を見つめているのだろう。
そうとしか思えない。

「源ちゃん、そのドアを閉めて・・・。少し、寒い・・・。」
美由紀がそう言ってくる。

「あっ、はい・・・。」
そう言ったものの、源次郎は少し迷った。
ドアを閉めるのはやぶさかではない。
そうなのだが、その時に、自分がどうすべきかを迷ったのだ。

結局は、源次郎も中へと入ってドアを後ろ手に閉める。

ドアが閉まったことを確認するためか、それとも源次郎がどこにいるのかを確かめるためか、美由紀がチラッとだけ振り返るようにする。
それでも、一瞬だけだったから、源次郎からは美由紀の表情は読み取れなかった。

「・・・・・・。」
源次郎は閉めたドアに凭れるようにして立っていた。
もうこれ以上は中へとは進めない。
そんな気持になっていた。
ただ、ここにいて、美由紀と同じ空間にいるだけで精一杯だった。


美由紀が再び歩き始める。
そう、直進して、マリア像の近くまでいくつもりのようだ。
源次郎は、その後姿を食い入るように見つめるだけになる。


(つづく)





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