第2話 夢は屯(たむろ)する (その89)
源次郎は、駅前の食堂で会ったあの大男のことを思い出していた。
名前を富とか言うようだが、それは自分で名乗ったものではない。
ここの支配人から洩れた呼び名を記憶しただけだったが、今の女によって、それを確認できたまでのことである。
支配人のことを「おれの兄貴」だと言うのも、実の兄弟と言うことなのだろうか?
魚を運ぶ仕事をしているようだったが、結婚はしているのだろうか?
もし結婚していて、それでいて、今の女ともベッドをともにしているのであれば、身勝手な奴だと思う。
奥さんが可哀想だとも思う。好きで結婚しただろうに。
今の女も女である。愛情は無いが、自分の生理上の快楽を得るために抱かれるのだと言う。
ストリップ嬢という仕事は男なしではやれないと言っていたが、それも本当かどうかは分らない。
ただ、自分の快楽のためだけに、より都合の良い解釈をしているような気がしてならないのだ。
「男と女」。
確かに、この世の中にはそれしかいないのだが、先ほどのように生々しく言われると、嫌悪感を感じてしまう。
好きになった相手とならば、それはセックスがあって当然だと思う。
だが、まずはセックスありきで、そのために繋がっている男女を認めたくはない。
それが。源次郎の今の心境である。
客席のほうから、今まで以上の大きな歓声が聞こえる。
いよいよ、美由紀の登場のようである。
そう言えば、あの運ちゃんも、今頃は皆と一緒になって盛り上がっているのだろうな。
カブリツキの席を確保できたんだろうか?
美由紀は、「入ってくれたら・・・・」と約束をしていた。
それがどのような意味なのかは、源次郎にも想像は出来る。
ストリップショーを知らない訳ではないのだし、自分の頭の中では映像化する事だって出来そうなのだ。
だが、それをどうのこうのと考えることがない自分に、不思議な冷徹さを覚える。
美由紀の、あの身体が、観客と言う男どもの前に晒されるのである。
極端な言い方をすれば、一気に何十人という男から視姦されるのだ。
劇場側は、それを音楽や照明という道具を駆使して、さらに煽り立てる。
もちろん、観客と言えども、直接美由紀の身体に触ることは出来ない。
今では考えられないような規制だが、当時はまだそうした行為は禁止されていた。
だが、その一方で、踊り子の方から客に触れることは容認されていた。
だから、それをやるのとやらないのとでは、人気に格段の差がついた。
美由紀さんは、そこまでするのだろうか?
源次郎は、ふと、それを考える。
そして、急に、頭を振った。
今、俺が考えることではない!
舞台では、順調に美由紀の踊りが続いている。
それが証拠に、あれだけ騒がしかった客席が、今は静まり返って、柔らかな音楽だけが響いている。
もうすぐフィナーレである。
(つづく)
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。