第2話 夢は屯(たむろ)する (その889)
「そ、そうでしたか・・・。」
源次郎は、そう聞いて少しはほっとする。
望月婦人が付き添っている孫、つまりは千尋っていう女の子は、それなりに鋭い感性を持っている。
僅かな大人の気持の変化をも見逃さないほどの鋭さだ。
病気の影響で、ああして大人に囲まれての生活が長い所為かもしれないが、如何にも子供らしくない感性を持っている。
その千尋がはしゃいだと聞かされて、それで望月婦人の体調の戻りを実感したのだ。
「ここです・・・。」
源次郎が待合室のドアを開けて室内灯を点けた。
もちろん、誰もいなかった。
「やっぱり、殺風景よね。」
美由紀が第一印象をそう口にする。
「缶コーヒーでも買ってきます。」
源次郎は、ふたりを部屋の中へ入れておいてから、そう言って自分だけは再度廊下へと出る。
公衆電話の傍に自販機があったのを思い出していた。
その自販機まで行って、缶コーヒーを3本買う。
そして、また廊下を戻る。
「ねぇ、そうしたら?」
ドアの前まできたとき、中から美由紀の声がした。
それを聞いて、どうしてか源次郎の手が止まった。
ドアノブを握ったままでじっと固まるようになる。
それだけ、美由紀の声に強さがあった。
「で、でも・・・。」
サキが弱弱しい声で答えている。
「だから、お金の面は気にしないでって言ってるでしょう?」
「で、でも・・・。そんなことまでしていただいて・・・。」
「私は、別にサキさんに恩を売ろうなんて考えてはいないわ。
ううん、それどころか、私のためにサキさんに一肌脱いで欲しいって思っているのよ。
だから、せめてこれぐらいはって・・・。そう思ってるだけなのよ。」
「わ、私でお役に立つようなことは・・・。」
「そこなのよね。サキさんの勘違いがあるのは・・・。」
「ん? 勘違い?」
「御免なさいね、こんな事を言って・・・。」
「・・・・・・。」
「私は、サキさんは舞台に立つより、裏方で踊り子をたちを統括する方が向いていると思うのよ。」
「そ、そんなぁ・・・。」
「じゃあ、まだ舞台に立ちたいの? 立つつもりなの?」
「・・・・・・。」
緊迫したやり取りに、源次郎はその場に立ち尽くすだけになる。
(つづく)
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