第2話 夢は屯(たむろ)する (その869)
「では、作成の上、お部屋までお届けいたします。
30分ほどお時間いただけますでしょうか?」
フロントマンがそう言ってくる。
「じゃあ、1時間ぐらい後に外出しますから、その時に受け取りますよ。
で、その書類なんですが・・・。」
源次郎は、目の前に差し出された契約書を指差す。
「は、はい?」
「この署名は、誰の印鑑が要るんです?」
その点を確認したかった。
「代表者様の・・・、という事になりますが・・・。」
「印鑑証明などは?」
「そこまでは・・・。」
「そ、そうですか・・・。じゃあ、一度、部屋に持ち帰って良いですか?」
「は、はい・・・。もちろんでございます。」
源次郎は、その書類を持って部屋に上がる。
部屋に入ると、美由紀の姿が見えなかった。
その代わり、浴室の明かりがついていた。
「源ちゃんでしょう?」
美由紀が声を掛けてくる。
「あ、はい。サキさん、ちゃんとタクシーに乗っていただきましたから・・・。」
源次郎は、まずはそう報告をする。
「入ってきてよ。」
美由紀が言う。
「あ、はい・・・。」
源次郎は、そう答えるしかなかった。
そして、部屋に備え付けられた小さなデスクの上に持って帰ってきた書類を置いてから、改めて浴室へと向かう。
「入りますよ。」
「う、うん。」
源次郎は美由紀の返事を待ってから、浴室のドアを開ける。
そこは半畳もないほどの洗面所になっていた。
そこに脱衣籠が置いてあって、その中に美由紀が着ていたものが脱ぎ入れられていた。
「そこで服脱いで・・・。」
浴室との境にあるドアが少し開いていて、美由紀がそこから言ってくる。
「えっ! 一緒に入るんですか?」
「・・・・・・。」
源次郎の問いに、美由紀は何も答えなかった。
聞こえている筈なのだが・・・。
源次郎は、それが美由紀の答えだと思った。
(つづく)
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