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第2話 夢は屯(たむろ)する (その85)
「お願いでございます。吉岡様のお力で、何とか佐崎美由紀嬢に私どもの劇場にご出演いただけないものでしょうか?」
笠野は真剣である。

「それをどうして、この僕に?」
源次郎は、まさに疑問に思っていることである。

「それはですねぇ・・・・・・。」
笠野は、そこでハタと口ごもる。
何か言い憎くそうなのだ。

「おっしゃれない理由でもおありなんですか?」
源次郎が畳み掛ける。

「いえ、そのようなことはございませんが・・・・。」
そう言いつつも、まだはっきりとはしない笠野である。

「じゃ、もう、この話は聞かなかったことに・・・」
源次郎は、そう言って、席を立とうとする。もちろん、ジェスチャーだけである。

慌てた笠野が、立ちあがろうとする源次郎の膝を押さえにかかる。
「ここだけの話にしてくださいよ。・・・・実は、ここの支配人には美由紀嬢に直接交渉させて欲しいと頼んだのです。」
「ほう。それで。」
源次郎は座りなおす。

「すると、彼は、そりゃ駄目だな、と言うのです。許してくれないのか?と訊くと、いや、そういうことじゃなくて、直接交渉しても、美由紀嬢は絶対にOKしない。だから、諦めろ。そんなことで、ご機嫌を損ねて、今回の興行に響いたらどうしてくれる?と厳しいことを言うのです。」
「それで・・・?」
源次郎は、さもありなん、と支配人の言い方にはそれなりに納得をする。
確かに、したたかなおっさんなのである。
「冷たい奴だなあ。こんなに友達が困っているのに、自分のところさえ良ければ、他はどうでもいいって言うんだな、と嫌味を言うと、彼は、にやっと笑って、ひとつだけ、突破口がある。それを教えてやるから、秋には札幌の私どもの劇場を2週間貸せ、と言うのです。」
「ほほう、・・・・。」
源次郎は、他人事ながら、聞いていて、面白くなってきた。
あの支配人、本当に凄い奴だと改めて感じる。策士というか、計算高いというのか。

笠野は、そこまで話してから、また、椅子ごと、体を寄せてくる。
椅子が、ギシギシと音を立てている。
「その条件は考えるから・・・・と言って聞き出したのが、吉岡さんに頼み込め、ということだったのです。これで、ご納得頂けたでしょうか?」

それを聞いて、今度は源次郎が口ごもる立場になった。
「それは、・・・支配人がおっしゃったことは、何かの間違い、勘違いですよ。僕にはそんな力はありませんから。幾ら頼まれても、どうしようもありません。」
源次郎は、笠野の圧力から逃れる意味もあって、椅子を後ろへ引いて煙草を取り出す。

そうした源次郎の姿を見た笠野が、何とも言えないような悲しい顔をする。
「そんなぁ〜・・・・」
後の言葉が出てこない。


(つづく)



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