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第2話 夢は屯(たむろ)する (その839)
「お嫌いでした?」
すかさず、おばちゃんが訊いてくる。

「い、いえ・・・、大好きですよ。」
源次郎も素直に言う。
事実、牡蛎は好物だった。
酢牡蛎もそうだし、フライや土鍋にしても旨かった。
大阪の実家でも、よく食べさせてもらっていた。

「そう言えば、東京では食べてなかったなぁ・・・。」
源次郎はふとそう漏らす。

「これは、北海道厚岸町産でね。ぷりぷりしてるでしょう?」
おばちゃんが解説してくれる。

「えっ! 北海道産なんですか?」
源次郎は驚いた。
元々が関西人だから、牡蛎と言えば広島というイメージが強かった。
この北海道で牡蛎が獲れるとは知らなかったのだ。

「ええ、釧路に近い沿岸なんですが・・・。
今度、その丹頂鶴を見に行かれるんでしたら、その時に立ち寄られては?
それこそ、死ぬほど食べられますよ。」
おばちゃんはそう言ってにっこりと笑った。

さすがに美由紀を育てた母親代わりである。
美由紀と源次郎の会話は、一言一句聞き逃してはいないのだろう。


「じゃあ、頂きます。」
源次郎はそう言ってそのひとつを口に入れた。
北海道産と聞いた所為か、今までに食べた酢牡蛎とはまた趣が違うように感じる。
何とも濃厚な気がする。
まさに「海のミルク」と言われるだけのことはある。

「美貴から、牡蛎がお好きのようだと聞いておりましたので・・・。」
その源次郎の様子をまじまじと見るかのようにして、おばちゃんが言ってくる。

「えっ! み、美由紀さんが、そんなことを?」
源次郎は、美由紀にそんなことを話した記憶はなかった。

「ええ、何日か前に、おふたりで石狩鍋を食べられたそうで・・・。」
「ああ・・・、それは・・・。」
「その時に、美味しそうに牡蛎を食べられていたとかで・・・。」
「・・・・・・。」
源次郎は、その時のことを詳しくは覚えていない。

何しろ、初めて会ったその日の夜だったからだ。
美由紀のことを、東京から来た我侭な看板スターとばかり思っていた。
緊張して、何をどのようにして食べたのかさえ、今となっては定かではない。

それなのに、美由紀はその時の源次郎をしっかりと見ていたのだ。
ただただ、恐れ入るしかない。


(つづく)





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