第2話 夢は屯(たむろ)する (その789)
(タイムスリップ・・・。)
そんな言葉が、源次郎の頭に浮かんだ。
大阪のあの「呆け老人」の場合もそうだった。
ある時は、至極まともに今の話しているかと思えば、突然のようにその話題が何十年も前のことになったりする。
そう、話が飛ぶのだ。しかも、突然にだ。
だから、傍にいた人間が付いていけなくなる。
それこそ、傍の人間からすれば「時間の感覚がない」「時系列が壊れてる」。
そんな状態に思えるのだ。
かと言って、言っていることは決して滅茶苦茶なことではないし、ましてや、暴力的になったり、凶暴化するようなことはない。
ただ、それこそ、時間の感覚、つまりは「体内時計」が壊れているだけなのだ。
「御母さん、御父さんはね・・・。」
隣に座っている奥さんが説明をしようとする。
つまりは、お爺さんは既に亡くなっているのだということを改めて教えようとしたのだろう。
だが、その後の言葉を奥さんは飲み込んだ。
どうやら、誰かに止められたようだった。
そんな感じの息の仕方だった。
サキが口を挟む。
「そうだったの? お爺ちゃんもお寿司大好きだったんだ?」
「う、うん・・・、そ、そう・・・。」
「じゃあ、お婆ちゃん、お爺ちゃんとよく食べに行かれたのかな?」
「ううん・・・、お爺ちゃんったら、自分だけ・・・。」
「あら、そうだったの?」
「で、でも・・・、お土産に・・・。」
「お土産にお寿司を? お婆ちゃんのために?」
「う、うん・・・。」
「そうだったの? お爺ちゃんって、優しかったんだ・・・。」
「で、でも・・・、死んじゃって・・・。」
その後、お婆さんは泣き出したようだった。
「もうすぐです。」
後部座席の様子も分っていてのことだろう。
ハンドルを握る息子さんが誰にともなく言う。
やがて見覚えのある道路に入ってきた。
そして、道路の端に寄せるようにして、車がゆっくりと停まった。
「有難うございました。」
源次郎は運転席の息子さんに頭を下げてそう言った。
そして、車を降りる。
同じようにして、後部座席からサキが降りてくる。
「あああ・・・。」
車の中から、お婆さんの声がする。
どうやら、サキは車の中でお婆さんの手をずっと握っていたようだ。
その手を離されまいとするお婆さんの叫びだった。
(つづく)
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