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第2話 夢は屯(たむろ)する (その78)
美由紀が捲り上げたスカートの下からは、細い両足と、そして、あの「前張り」が無残な姿を現している。

源次郎が「うかつだった」と思ったのは、まさにその「前張り」なのである。


昨夜、最終のリハーサルを終えてホテルに戻ったとき、風呂でこれを剥がした。
そして、それは、源次郎にはある種のショックではあったが、そのことがあってから、美由紀の仕事に対する考え方が大きく変わったのも事実である。

「それ、剥がしたほうがいいんですよね?」
源次郎は、自分の配慮のなさは自覚できたものの、具体的に今どうするのがよいのかが分らない。
まだ、スカートの裾で顔を隠している美由紀に、小さな声で訊く。

「そこに、洗面器があるでしょう?」
美由紀は、中学生が使うような勉強机の方を指差して言う。
「その中に、水とタオルが入っていると思うの。おばさんが用意してくれているから。」
源次郎は、少し立ち上がってその所在を確認する。
「はい。あります。」
「それで、ポットのお湯を足して、ぬるま湯を作って欲しいの。後は、昨日のお風呂と同じ・・・。」
自身が育ったという家にいるせいか、いつもよりも小声で美由紀が説明する。

源次郎は、そこまでで、するべきことを理解した。
「本当にゴメンナサイ。気の利かないことで・・・・。」
源次郎は、本当にそう思っていた。

言われたとおりにぬるま湯を洗面器に作って、それにタオルを十分に浸す。
そして、それを軽く絞って、美由紀の股間に優しく当てる。
それを何度か繰り返すと、昨夜の風呂と同じように、指が1本入れられるほどに浮いた部分が出来る。
そこに指を入れて、一気に剥がす準備が出来た。

「剥がしますよ。」
そう声を掛けて、源次郎は一気にことを済ませる。
美由紀の身体が一瞬凝縮するように固くなったが、それも一瞬だった。

「有難う。これで、ようやく・・・・」と言ったかと思うと、美由紀はスカートを元に戻して、また階段を下りていく。
「あっ!どこへ?」と訊く源次郎に、「トイレ」と小さく答える美由紀。
2人は、階段の上と下で、互いに顔を見合わせて笑った。


5分ほどしたとき、階段を上がってくる足音がする。
源次郎は、てっきり美由紀だと思ったが、どうやら足の運びが違うのだ。

階段の方を注視していると、やがて姿を見せたのは歳はもう40は越えているだろうと思われるおばさんだった。
両手で持った大き目のお盆で、料理を運んできたようであった。
「いらっしゃいませ。いつも美貴みきがお世話になっております。有難うございます。」
そのおばさんは、来るなり、畳に両手の指をついて、さらには額をその両手につけんばかりに深々とお辞儀をする。
源次郎は、一旦崩していた膝を正座にしなおして、軽く頭を下げる。
だが、どのように話していいのかさえ分らない。身の置き場がないような気がする。
人を間違っているのでは?という感じさえある。
今、確かに、「みゆき」ではなく「みき」と言ったのだから。

そこへ、また、誰かが階段を上がってくる。
源次郎は、それが美由紀であることを願うばかりである。

「あっ!おばちゃん!」と美由紀が言い、「あっ!美貴ちゃん、元気そうで。」とそのおばさんが答える。
「いつものチラシでよかったかねぇ。」
おばさんは、ちらし寿司の入った寿司桶と吸い物の入ったお椀をふたつずつ、ちゃぶ台の上に並べておく。
「うん、おばさんのチラシ、昔から美貴、大好きだったから、嬉しいよ。」
美由紀は、そう言ってはしゃいだ顔をする。
まるで子供のようである。

源次郎は、ただそうした2人のやりとりを黙って見ているだけになる。


(つづく)



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