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第2話 夢は屯(たむろ)する (その779)
「大変ですねぇ・・・。」
源次郎は、そうとしか言いようがなかった。
それこそ、ありきたりな言葉だが、第三者としてはそれぐらいしか言葉が見つからない。

「いえいえ、これは順送りですから・・・。
でも、御母さん、とても可愛い人なので、私は救われてます。」
奥さんはそう言ってにっこりと笑う。

「おひとりでお世話されてるんです?」
源次郎は、奥さんと並ぶようにして通路を行きながら訊いた。
余計なことだとは思ったものの、奥さんの眼に並々ならぬ決意のようなものを感じたからかもしれない。
それに、あのご主人の態度が重なってのことだった。

「ええ、私しかいませんので・・・。」
奥さんが淡々と答えてくる。


もちろん、この当時、今で言われる「介護保険制度」などは一切なかった。
したがって、こうした認知症(当時はこの言葉すらも存在しなかった)患者に対する身の回りの世話は、すべてをその家族が行っていたし、それが当たり前だと考えられていた。
介護師という職業も存在しなかったし、老人介護施設なども当然のように存在しなかった時代である。


「主人は仕事がありますし、子供たちはそれぞれに独立をして、今は名古屋と大阪に住んでいますから・・・。」
「じゃあ、お昼は、お婆さんとおふたりだけ?」
「ええ、そうなります。
ですからね、主人からは、御母さんから目を離すなっていつも言われるんですが、家事もありますしね、なかなかそうも行かなくって・・・。」
「・・・・・・。」
源次郎は何も言えなかった。
そうした一瞬の隙に、今回のお婆さんの徘徊があったのだろうと想像するしかなかった。


やがて、サキが待つ「投薬待合所」に着く。
源次郎の姿を見つけて、サキが迎えるようにしてやってくる。

「まだ、呼ばれてません。」
そう耳打ちをするように言ってくる。

「で、支配人、何か言ってました?」
サキは、やはり舞台のことが気になるようだ。

「と、特には・・・。」
源次郎は意識してそれだけに言葉を留める。
とても、何かがあったみたいだとは言えなかった。
それは、単なる源次郎の受け止め方だったからだ。


「ああ・・・、お婆ちゃん、さっきはどうも・・・。私のこと、覚えてもらってます?」
サキは、一転して車椅子のお婆さんに、そう話しかける。
そして、車椅子の傍にしゃがみ込んだ。


(つづく)




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