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第2話 夢は屯(たむろ)する (その77)
「育った・・・って、ここが美由紀さんのご実家なんですか?」
源次郎は、まさか?と思っていたことをストレートに訊く。

「ううん、実家じゃないんだけど。まあ、いろいろとあってね。」
美由紀は、まだ立ったままでいる源次郎に、再度、座布団に座るように指示する。

「・・・・・・・・?」
源次郎の頭の中は整理できずじまいだが、ゆっくりと座布団に膝を付く。

「源ちゃん、チラシで大丈夫だよね?」
美由紀は、料理のことを訊いている。
「実家じゃないけど、育った家?」
源次郎は、まだそのキーワードがこんがらがったままである。

美由紀は、源次郎の意向を確認しないまま、
「じゃ、予定通りってことで」と、ちゃぶ台の上にセットされていた急須でお茶を入れる。
源次郎は、美由紀がお茶を入れてくれる様子を、ただぼんやりと眺めている。
どうやら、頭は別の世界に行ったっきりのようである。

「はい、少し熱いから、気をつけてね。」
美由紀は、女らしく、そう言いながら、源次郎の前に両手で湯飲みをそっと置く。
置かれた湯飲みに自然と手が行ってから、源次郎は現実へと戻ってくる。
「あちっ!」
源次郎が両手を反射的に耳朶に持っていった様子が可笑しかったのか、美由紀はうふっ!と笑う。

「えっ!これ、美由紀さんが入れてくれたんですか?」
源次郎はすっとんきょうな訊き方になる。
「あはは・・・。私じゃなければ、幽霊が入れてくれたのかも・・・。」
「済みませんでした。僕が入れなきゃいけないのに。」
源次郎は、恐縮する。これは、本心である。

「源ちゃんにはね、ちゃんと知っていて欲しいな、と思ったから連れて来たんだよ。ご飯食べながらでも、話すね。私のこと。」
美由紀は、そう言って、座布団の上で座りなおす。
源次郎も、慌てて正座に座りなおす。

「源ちゃん、そういうことじゃないのよ。・・・・・分るでしょう?」
美由紀が、また、腰を少しだけ浮かせる。
「・・・・・・・?」
「ねぇ、分らない?」
美由紀が、今度は乗り出すようにして源次郎の目をじっと見る。

源次郎は、一体何をどのように言われているのか、まったく、さっぱり分らない。
分ろうと、いろいろと考えてはみるのだが、やはり、どうしても「これだ!」と思えるものが浮かばない。

痺れが切れたのか、美由紀がいきなり座布団の上で立ち上がる。
そして、見上げる源次郎に向って、スカートを捲りあげた。
そのスカートで、顔を蔽うようにしている。

それを見て、源次郎は「何と配慮が足らなかったのだ!」と自分を責める気持になる。


(つづく)



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