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第2話 夢は屯(たむろ)する (その76)
源次郎は、そうした美由紀の勢いに、嬉しさとその反対側にある重さの両方を感じる。

「美由紀さん、食事って、ここでお弁当が出るんじゃないんですか?」
源次郎は、何とも考えないでそう言った。
美由紀の専属スタッフなどと訳の分らない仕事を言われたとき、確か、支配人が「昼食付き」だと言っていたのを覚えている。

美由紀がにこっ!と笑う。
「源ちゃん、お弁当に吊られたんだ?」
「いえ、そういうことじゃないんですが、出してくれると言ってたもんですから・・・・。」
源次郎には、弁当なるものを食べてみたい気もあった。
東京にいるとき、資金稼ぎと称して工事現場などで力仕事のアルバイトをよくやった。
そこで貰うお金は、活動資金として幹部へ上納することとなっていたが、唯一、楽しみだったのがそこで一律に渡される弁当だった。
昼前の時間になると、女性の活動家の何人かが手分けして現場まで運んできてくれる。
そんなに旨いものではなかったが、あの弁当を開ける時のワクワク感が好きだった。
だから、弁当を出すと言われたとき、何とも懐かしいような嬉しさを感じたのも事実なのである。

「食べたいのだったら、食べたら?美由紀は、ひとりでご飯行くから。」
口を尖がらせて美由紀が言う。
「いえ、美由紀さんとご一緒します。」
源次郎は慌てるようにして、美由紀のハイヒールを取ってくる。

2人は、劇場の外へ出て、商店街の中を行く。
当然のように、美由紀が先導して、源次郎はただ付いて行くだけになる。
どうやら、行く店を決めているようである。

商店街の少し奥まった路地の中にある寿司屋に入る。
カウンターだけの小さな店だ。
恐らくは、地元の人間だけしか来ないだろうな、と思える店構えと雰囲気なのだ。
午後1時までの公演を終えてから出てきたのだから、もう昼食時間にはやや遅いのだが、店内は結構込んでいる。座る場所すらありそうにない。
だが、美由紀は、混雑している店内を突っ切って、一番奥にある階段の手前でハイヒールを脱いだ。
カウンターの中にいた大将らしき爺さんも何も言わない。

「源ちゃん、あがって。」
美由紀はそれだけを言ったかと思うと、その階段をスタスタと上がっていく。
まるで、友達を自宅に連れてきたような感じである。
源次郎は、階段という言葉で、一瞬だが、先に上っていく美由紀を見上げる。
スカートを全く気にしないで昇っていく後姿が見える。
下着を着けていない筈なのだが、そんなことを気にかけている様子も全くない。

源次郎は、何となく「しんどいことになりそうな」気がした。

階段を上がると、そこは6畳と4畳半の和室が連なったような形だった。
店の一部ではなく、居住部分だと直ぐに分る。
箪笥や勉強机などが雑然と置いてある。
その6畳の部屋の真ん中に、小さな食卓が置かれている。
ちゃぶ台と呼ばれるものである。
美由紀は、そこにもう座り込んでいた。

「びっくりしたでしょう?ここはね、私が育った家なの。」
美由紀は、こともなげにそう言って、自分の傍の座布団に源次郎を呼ぶ。


(つづく)



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