第2話 夢は屯(たむろ)する (その75)
源次郎はまるで自分のことのように嬉しくなった。
「じゃあ、支配人、美由紀さんが今回やった舞台で納得していただけるんですね。」
浮かれかけている自分を抑えるようにして、そう確認する。
「もちろんだ。もう、何も言うことはない。どうぞ、このままで・・・。それより、吉岡君がちゃんと2週間ついてくれるかどうかの方が心配だよ。・・・その点は、大丈夫なんだな。」
「はい、それは大丈夫です。約束した以上は、きちんとやりますよ。美由紀さんにクビだと言われない限り。」
多少は遠慮するつもりで言ったのだが、支配人の方が真に受ける。
「まさか!それは絶対にない!ある筈もない。ミッキーは、吉岡君がいるからあの舞台が出来たんだろう。もう、何も詮索はせんが、兎も角もこの2週間、しっかりとミッキーの支えになってやって欲しい。それだけは頼む。君がいなかったら、ミッキーは持たないような気がするんだ。」
「えっ!それって、どういう意味ですか?」
源次郎は、最後の一言に敏感に反応する。
美由紀が持たない!
支配人は確かにそう言ったのである。
それは、源次郎が漠然と抱いていた美由紀への不安に重なるものであった。
それだからこその言葉である。
「ねぇ!支配人、教えてくださいよ。その、美由紀さんが持たない、という意味を。」
当の支配人が慌てている。まるで、「まずいことを言った」という顔なのである。
「何か、事情があるのだと思いますけれど、・・・僕も、この仕事を引き受けてやる以上、その辺りのことが分っておれば、対応の仕方もあると思うんです。ね、教えてください。」
源次郎は粘ってみる。引き下がれない気持が強くなっている。
「・・・そうだな、吉岡君にも知っておいて貰ったほうがいいのかも知れんが・・・・・。」
支配人は、時計をちらちら見ながら、そのように言う。
次の舞台のことが気にかかるようである。
「その辺りの話は、また別の機会に話すよ。」
支配人は、それだけを言って、源次郎の肩をポンと軽く叩いてから、また奥への通路へと消えた。
やはり、何かがあるのだ。
単に、契約でこの小樽の舞台に上がっているのではないのだ。
源次郎は、美由紀がこの小樽で育ったのであろうということと、それから、あのキヨちゃんという喫茶店のマスターの娘さんの死とが、支配人が言った「美由紀が持たない!」という背景にあるのだろうと想像する。
だが、それはあくまでも想像であって、それを前提に、だったらどうすればいいのだ、というところまでは至らない。
美由紀自身も、自ら進んで源次郎にそうした部分のサインを送っている。
それは、そのことだけは、確かなものとして意識できる。
「源ちゃん、お待たせ!ご飯、行こう!お腹すいたよう。」
真剣な思いを巡らせていたそのとき、化粧を整えた美由紀がはしゃぐようにやってきた。
(つづく)
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