第2話 夢は屯(たむろ)する (その73)
美由紀は全部で4曲を踊ったようである。
いずれも非常にゆっくりした曲だった。最初の曲はどこかで聞いたことがあるものだったが、他の3曲は初めて聴くような気がする。
その音楽を、源次郎は目を瞑って、ただ聴いていた。
この音楽にあわせて美由紀が踊っている。
昨日から今日にかけて何度となく見た美由紀の小さくて細い身体が舞っている。
そう思うと、なぜか涙が浮かんでくる。
美由紀はどのように思って今舞台に立っているのだろう?
降りると言ったのを、源次郎は止めた。
「卑怯だ」と言って止めたのだ。
そして、美由紀は何も言わずに舞台に上がっている。
言いたかったことがあっただろうに。
悔しい思いをしただろうに。
それを思うと、源次郎は自分を責めたくもなる。
曲が流れている間は、まるでコンサートのように場内が静かになる。
曲が終わるたびに物凄い拍手がある。口笛が飛ぶ。歓声がする。その後の溜息も聞こえる。
それが3回繰り返された。
舞台を見ていない源次郎にも、非常に疲れる20分強の時間であった。
そして、今日、最高の拍手・歓声が怒涛のように押し寄せて、やがてそれが引いていった。
少しの間があって、派手で軽快な音楽に切り替わる。
どうやらフィナーレのようである。
出演した踊り子全員がうち揃っての賑やかな舞台のはずである。
一際大きな拍手と歓声が上がる。
多分、トリを飾った美由紀が再登場したのだろう。
この舞台を見ていない源次郎にも、そうしたストリップショーの構成だけは何となく分るのである。
それで、最後の幕が下ろされることになる。
ところが、再度の拍手と歓声が上がる。
どうやら客席の「アンコール」の合唱と手拍子に答えたようである。
じっと聞いていると、都合3回、「アンコール」に答える結果となった。
これを聞いただけで、その公演の成功度がわかると言うものだ。
ようやく終演のブサーが鳴った。
まことに無粋な音だと源次郎は思うのだが、次の公演があって、それまでに観客を入れ替えなければならないのだから、それも致し方のないことなのかもしれない。
幕が下りてから、10分ほど経ってから、ようやく美由紀が事務所に顔を出した。
源次郎は、本当は、今か今かと待っていたのだ。
だが、それはおくびにも出せない。
それは、「降りる!東京へ帰る!」という言葉を最後にして、それ以降、美由紀の声を聞いていなかったからだ。
事務所に戻ってきた美由紀は、まっすぐに源次郎の元へ向う。
「やったよ!源ちゃん、ありがとう!」
それが、美由紀が口にした、最初の言葉であった。
そして、それを言うなり、いきなり源次郎に抱きついてきた。
(つづく)
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