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第2話 夢は屯(たむろ)する (その729)
「う〜ん・・・。」
源次郎はまたまた唸った。困ったものである。

(仕方が無い・・・。)
源次郎はそう自分に言い聞かせて、その欄には「小樽市」とだけ書き入れる。
町名はうる覚えにあるのだが、その文字も思い浮かばないから諦める。
やはり、地元の人間では無いから、そうした地名にも疎いのは仕方が無い。
「分かる範囲で・・・」の言葉に縋る思いだ。


次の欄には、『自宅電話番号』とあった。
これは、サキ本人が、「自宅には電話はない」と言っていたから・・・。
源次郎は、空欄のままでやり過ごそうとした。
だが、そこで「ん?」と何かにぶつかる。

(いやいや、待てよ・・・。)
源次郎は首を傾げた。
救急車の中では、サキは、確かに「自宅に電話はない」と答えていた。
それははっきりと聞いている。
だが、今までの経緯から、サキの自宅に電話がないと意識したことは無かった。
第一、美由紀が「サキさんに電話しているんだけど、出ないのよ」と言ったことさえあったぐらいだ。

(ほ、本当に、電話を引いてないのだろうか?)
源次郎は、どうしてもその点に引っかかりを覚えた。
電話があるのに、敢えてそれを無いと言ったのか。
それとも、本当に自宅に電話はないのか。

別に、救急隊員がサキの電話番号を聞き出したからと言って、今で言う「ナンパ」や「ストーカー行為」に及ぶとは思えない。
だから、そこで敢えて電話番号を秘匿する必要は無かった筈である。
それなのに、サキは「自宅に電話はありません」と答えたのだ。
満更、意識して嘘を言ったとも思えない。

確かに、源次郎もサキの電話番号は教えてもらってはいない。
それどころか、まともに自宅すらも知らない。
いやいや、本名でさえ、今日、このことがなかった、今現在も知らなかったことである。

改めて、自分はサキのことを何ひとつ知ってはいないと自覚をする。


その時だった。
源次郎の傍に誰かが立ったのを感じた。
外から入ってきた気配はしなかったから、病院内部の人間だろうと思った。
で、ふと、顔を上げる。

「ああ・・・、き、君は・・・。」
そこにいたのは、思いも寄らぬ人間だった。あの、化粧を担当している女の子である。

「さ、サキさんは?」
女の子は、心配そうな顔で問うて来る。

「い、今、診て貰っているところ・・・。その部屋の中・・・。」
源次郎が「救急治療室」の扉を指差して言う。


(つづく)




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