第2話 夢は屯(たむろ)する (その709)
(サキさんは、美由紀さんのことをどう思っているのだろう?)
源次郎は、ふと舞台の袖から美由紀の舞台を見つめるサキの立場を思う。
源次郎の場合は、兄に対する羨望があった。
同じ親から生まれた兄弟なのに、どうしてこうも頭の程度が違うのか?
それを思い続けて大きくなってきたようなものだ。
つまりは兄に対するコンプレックスと向き合ってきた青春時代だった。
サキも、口では「ミッキーさんは凄い!」と絶賛するようなことを言うが、同じストリッパーとして、同じ女として、美由紀のことを本心からそう思っているのだろうか?
いや、きっと違うんだろうな。
源次郎は、自分とサキを重ね合わせるようにして、そう思う。
美由紀は源次郎とほぼ同年齢。
ひょっとすると、美由紀のほうが年下かもしれない。
直接確かめたことはないが、その感覚に間違いは無いだろう。
女性の年齢は分かりにくいものだが、やはり近い年代だと共通する何かがあるように思えるから不思議だ。
その20歳そこそこの、いわば「小娘」が舞台のトリを務める。
しかも、周囲からはチヤホヤされる。我侭も押し通す。
いかに人気商売とは言っても、ごく普通に考えれば、他のストリッパーからすれば面白い筈はない。
それが人間というものだ。
一方のサキは、少なくとも30歳は越えているだろう。
一度は結婚もし、あの病気の子供までいるのだ。
子供の健太が10歳ぐらいだから、20代というのは通らないだろう。
サキのストリッパーとしての歴は知らない。
聞くチャンスもなかったが、あったとしても、とても真正面から問える話ではない。
小樽では有名な網元と結婚をし、子供をもうけ、本来ならば幸せな家庭の主婦に納まっている筈の人生だった。
それが、生まれた子供に一生治らないと言われる脳の病気があったことから、彼女の人生の歯車が狂い始めた。
サキは、一生寝たきりとなるだろうと言われた子供のためだけに生きることを決心する。
母親としては何とも心打たれる心情ではあるが、跡取息子を嘱望する網元との間で確執が生じる。
そして、あろうことか、サキは自分の意思で自らの子宮を取ってしまう。
次の子供は産まないと覚悟を決めたからだと言う。
そこまで行くと、もはや網元家の嫁ではなくなってしまう。
つまりは、跡取りも産めない嫁は嫁ではないという理論だ。
で、結果的に家を出されることになる。
つまりは、離縁である。
その後だろう。サキがストリッパーになったのは。
どのような経緯があって、今のような仕事をするようになったのか?
それは、誰からも聞かされてはいない。
それでも、決して、自ら進んでその道を選択したとは思えない。
(つづく)
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