第2話 夢は屯(たむろ)する (その699)
「も、もちろん、そのスタッフリストなどにつきましてこれからなのだろうと思いますが・・・。
今日、私がお伺いを致しましたのは、以前からお願いを致しておりました、来月最終週からの美由紀嬢のご出演のお約束が頂けるのかどうか・・・でございまして・・・。」
源次郎の慌てぶりを見て、笠野が具体的なテーマに絞ってくる。
「ああ・・・、その点は大丈夫です。美由紀さんも、いえ、佐崎美由紀もそれは承知しておりますから。」
「有難うございます。それをお聞きいたしまして、ほっと致しました。」
笠野は、今日の目的はこれで達成したという顔をする。
「そ、それだけのことで?」
今度は、源次郎が訝る。
「は、はい・・・。本日は、それだけを確認させていただければ・・・。
何しろ、私どものような商売は、劇場が空いたままでは御飯が頂けませんので・・・。
これで、本社の奴等の鼻を明かせてやれます。
いやぁ、本当に有難うございます。
これも、吉岡様のお力添えがあったればこそで・・・。」
笠野の顔がこれ以上は笑えないというところまでにこやかになる。
「僕は何もしてませんが・・・。」
「いえ、とんでもございません。ここの支配人の話によると、吉岡様がおられなかったら、きっと美由紀嬢も札幌へは来てもらえてないと・・・。」
「そんなことは・・・。」
「いえ、そうに違いないと・・・。
ですから、その札幌の舞台に向けて、吉岡様をチーフマネージャーにご指名なさったのだとお聞きいたしております。」
「・・・・・・。」
源次郎は言葉がない。
「実は、僕も今日になってその名刺を渡されましてね。」
源次郎は、笠野との交渉方針を転換する。
このままでは、こうして笠野と話をしている意味がないと思えるからだ。
さらには、これからのスケジュールなどを教えてもらえれば幸いだとまで考えてのことだ。
「ま、まさか!」
「いえ、本当の話なんです。
確かに、マネージャーをやらないかとのお話はありました。」
「で、ございましょう?」
「でも、それは冗談だとばかり思ってまして・・・。」
「じょ、冗談?」
「ええ・・・。」
「何と言っても、僕は素人ですよ。この世界のことは何も知らないんです。
その僕に、マネージャーをやれって言うのは、あまりにも無茶でしょ?」
「そ、そうなんですかねぇ・・・。でも、さすがは佐崎美由紀嬢だとは思いましたですよ。」
「な、何がです?」
「最初にこちらでお会いしたときに・・・。
ああ、この方が、これからのビジネスパートナーになられるんだろうなって・・・。
そう思いました。」
「ど、どうしてです?」
「う〜ん・・・、美由紀嬢の目が違ってましたからね。明らかに。」
笠野は、思わせぶりな言い方をする。
(つづく)
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